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ご本人様とは全く関係ありません
アンケートを取り、急いで書いているのですが、
まだ完結しそうにないので
応急処置的な感じで、こちらの作品を。
ちゃんとアンケートの中にもあった作品です。
だいぶ前に書いた作品なので、
駄作もいいところですが
読んでくださると幸いです🙇
……そしてこれもまだ完結していない😮💨
あの子が憧れていた
群青を抜けた先
俺だって行ってみたい
あの子だけ行けるなんてずるい、
なんて思うのはおかしいかな?
でも、叶うのならば
お願いだ
星よ 海よ
俺に力を貸して
こぽこぽと登っていく空気。
踊るように揺れる海藻。
俺の妹――りうらは、
このミッドナイトブルーの世界から抜け出して、
陸地の世界へ降り立った。
どうやら海の魔女と契約して人間になり、
魂と王子との再会を目指して
陸に行ったらしい。
海のみんなは、りうらは
すごい勇気を持っているが、
陸への憧れを抱くおかしなやつだ、
とも言っている。
それはきっと、俺たち人魚にとって
陸が恐怖の象徴だからだ。
鱗を引きはがそうとする者もいれば、
俺ら人魚を売りさばこうとする者もいる。
危険で、残酷で、
だからこそ〝行ってはいけない場所〟
でも、俺だって。
「陸に行きたいんだけどなぁ……」
両手を上に仰いでも、
水面なんて届くわけがない。
それが人魚の住居地、深海。
それにしても、なんでみんな
陸に対してそんなに恐ろしい印象を
抱いてるんだろうな……。
確かに、鱗を引きはぐ話や
人魚売買は怖いけど、
それ以外は、もしかしたら
怖くないかもしれないじゃないか。
青い世界しか知らない俺たちは、
知らないものを、
怖がりすぎているだけかもしれない。
ふと、ないこ、と
深海に響き渡る低い声が聞こえた。
「ないこや、短い髪には慣れたかね」
「お父様」
俺たちのお父様は、人魚界では
王に当たる人だ。
だから俺らも、みんなから
坊っちゃんとか、王子とか
呼ばれたりもする。
唯一、人魚界一の美女と言われていた姫、
りうらはいないのだけれど。
「えぇ。最近は短い髪にも慣れてきました。
長い時とは違って、
髪が海藻に引っかかりませんし」
笑ってそう言ったが、
お父様は心配そうな顔をしていた。
「ないこは、髪を人魚の誇りだと言って
大事に伸ばしてきたじゃないか……。
それを、りうらのせいで
切ることになってしまって、
本当に後悔はないのか?」
確かに、りうらが陸で
苦労していると聞いたから、
兄妹全員で、人魚の美の誇りである髪を
海の魔女との契約条件として、
不思議な道具と交換してもらった。
誇りを差し出すなんて、
普通なら考えもしないことだ。
それでも。
「いいえ、お父様。
りうらのせいで髪を切ったのではありません。
俺は、ちゃんと自分の意志で
この髪を切ったのです。
後悔なんて、あるわけないでしょう」
それに、髪を切ったおかげで、
俺だって〝欲しいもの〟がもらえたんだ。
あの時、髪を切る選択をしてよかったと、
心の底からそう思っている。
「そうならいいのだが……」
お父様は、俺がりうらのことを
兄妹の中で一番好いていたから、
仕方なく切り、傷ついていると
思っているのだろう。
けれど俺がきっぱりと言い切ったせいで、
心配しているくせに
強く踏み込めない様子だった。
これ以上ここにいると、
陸に行きたいという本音を
口にしてしまいそうで。
「それでは、俺はこの辺で失礼します」
そう言ってヒレを翻そうとすると、
お父様が慌てて呼び止めた。
「ないこ。
もし、困っていることがあるのなら、
相談するようにしなさい」
……こういう時だけ勘がいいお父様は苦手だ。
にこりと微笑み、俺はその場を離れた。
「よっ、ないこ」
「お兄様」
お父様のような低く響く声ではなく、
明るく元気な声。
一番上のお兄様だ。
俺たちは六人兄妹で、俺は四番目。
二番目と三番目のお姉様たちは、
二人ともさっぱりした性格で、
俺と同じように髪を切っても気にせず、
今頃どこかの海を優雅に泳いでいるだろう。
五番目の弟は少しばかり
引きずっているようだが、
俺たちは血の繋がった兄妹だ。
きっとすぐ、いつも通りになる。
「そういえば、ないこ」
お兄様は何かを思い出したように言った。
「はい、どうしましたか?」
人魚界では上下関係に厳しい。
だからお父様はもちろん、
目上の人には敬語が必須だ。
不便だと思ったことはないし、
気にしたこともない。
「この間、
海の魔女に
交換してもらったものがあっただろう。
りうらに使ったやつが
まだ残っていなかったか。
それは今、どこにある?」
今回、海の魔女と交換してもらったのは、
『祈りの雫星(いのりのしずく)』
王子を殺すことで
りうらを人魚に戻せる
魔法のナイフもあったが、
優しいりうらのことだ。
絶対に、その選択はしないと思い、
俺たちはこちらを選んだ。
祈りの雫星は、
夜は星に祈りを、
朝は海へ祈りを捧げ、
雫星に力を込める。
祈りを終えた雫星を飲むと、
身体が光る。
その間なら、
願い事を三つまで叶えることができる
不思議な道具だ。
ただし、祈りを捧げる者は
寿命が縮む。
海の魔女は最後に、
『真実の愛を見つけると
もっと恐ろしいことが起きるかもね』
と、意味深な言葉を残した。
お兄様は次期海王になる身。
俺の寿命が縮むなど論外だ。
お姉様たちは、
真実の愛は私たちの夢なのに、
それで恐ろしいことが起きるなんて嫌。
と言って、祈りを嫌がった。
俺は、りうらの手助けになるなら
祈りを捧げても構わなかったし、
俺より未来の広がっている弟に
そんな役目を背負わせるわけにはいかなかった。
だから、俺が祈った。
祈り終えると、
俺はほとんど休むこともなく、
すぐに雫星を携えて
りうらのもとへ向かった。
りうらは、
足の痛みを失い、
奪われていた声を取り戻し、
そして。
無事に王子と結婚することができた。
泡になることもなく、
海へ戻されることもなく。
兄として、
これほど嬉しい結末があるだろうか。
胸の奥が、
じんわりと温かくなる。
あぁ、祈ってよかった。
心から、そう思った。
けれど、問題になってくるのは、
残された祈りの雫星だ。
祈願者は、俺自身。
だから今、
それは俺の手の中にある。
だが
きっとお兄様は、これを狙っている。
「ええ、こちらにはありますが……。
どうかされましたか?」
表情は崩さず、
声色も、いつも通り。
けれど胸の奥では、
はっきりと警鐘が鳴っていた。
俺は、
この雫星を使って
〝したいこと〟がある。
それは、
寿命を捧げる覚悟のないお兄様に
譲れるような願いじゃない。
俺の祈りだ。
俺が削った未来だ。
それを、
簡単に奪われてたまるものか。
「いや、あるならいいんだ。
……大事に持っておけよ」
その言葉の裏に、
そのうち、俺が使うから
とでも続いているようで、
思わず胸の奥がざらついた。
用はそれだけだ、と言わんばかりに、
尾びれを動かして去っていく
お兄様の背を見送りながら、俺は考える。
はやく。
はやく、この雫星を使わなければ。
奪われる前に。
〝俺の願い〟が、誰かの都合になる前に。
ふと、頭上を仰ぐと
空を覆う闇の中で、
星だけが静かに、確かに瞬いていた。
……そうか。今日は新月だ。
月の光が届かない夜。
この暗い深海なら、
誰にも見つからずに、
誰にも邪魔されずに。
そう思った瞬間、
胸の内で何かが、すとんと落ちた。
今日の夜、
俺は雫星を使う。
迷いを切り捨てるように、
そう、決めた。
「ここが、陸……」
日がとっぷり暮れた夜。
俺は、岩場に身を潜めて、
足を手に入れた。
尾びれは消え、
代わりに、冷たい岩に触れる
2本の足がそこにあった。
歩くのには、
少し時間がかかってしまったが、
今はもう、なんとか普通に歩けている。
思っていたよりも、痛くはない。
けれど、安心する暇はなかった。
明日から始まるだろう、海での騒ぎ。
お父様たちの捜索。
そして、この先どうするのか。
不安は尽きない。
考え出せば、きりがない。
だが、今は。
まず、今日をどう乗り越えるか。
それが1番重要だった。
俺は砂浜を抜け、
街のある方角へと足を向ける。
波音は遠ざかり、
人の気配もない。
どこもかしこも静まり返っていて、
まるで、深海のよう。
土も壁も空も
すべてが新しくて
目に見えるもの全部に興味が湧く。
りうらも、
最初はこんな感じだったのかな。
しばらく道を歩いていると、
あたり全体明るくなっているのが見えた。
「よう、あんちゃん!」
突然、かけられた声に
思わず足が止まる。
「お前、見ない顔だな!
どうだい、
これもひとつの縁だし、
一杯、飲んでいかねぇか?」
陸の人間は、
こんなふうに、
あっさり距離を詰めてくるらしい。
「……ぇと」
陸に出てから、
誰かに向けて声を出すのは、これが初めてだ。
思った以上に声は掠れ、
自分でも驚くほど頼りなかった。
喉に手を当て、
軽く息を整えてから
もう一度、声を出してみる。
……だめだ。
思うように、音にならない。
しまったな。
砂浜で、ちゃんと声を出してから
来るべきだった。
俺が黙ったままでいるのを
肯定と受け取ったのか、
おじさん……いや、おっちゃんは
ぐい、と俺の肩を組み、
人の集まっている方へ引っ張っていく。
その勢いに、
思わず足がもつれそうになった。
と、その瞬間。
今度は、反対側から
腕を掴まれる。
「もう、いつも言っているでしょう、
おやじさん。
いきなり初対面の人を
強引に誘ったらあきませんて」
引き止めたのは、
俺よりも少し背の高い、
若い男だった。
「いふ!
お前なぁ、
お前が飲まへんから
こうなってるんだぞ!」
「酒にも向き不向きいうもんがあります。
誰もが、おやじさんみたいに
酒に強いわけやあらへんのですから」
おやじさん、と、いふ。
名前を呼び合う様子からして、
どうやら二人は
顔なじみのようだった。
その場をどうにかいふさん?が
まとめてくれて、
俺はいふさんに連れて行かれるがまま
人の少ないところへ来た。
「君、ほんまに見ない顔やけど、誰や?」
真正面から向けられた問いに、
言葉に詰まった。
名前。
当たり前のようで、
今の俺には一番厄介なものだった。
喉が、ひくりと鳴る。
息を吸い、
ゆっくりと吐いてから、
もう一度、声を出そうとする。
「……な、い……」
音になりきらず、
途中で掠れて消えた。
いふさんは、急かすこともなく、
ただ静かに待っている。
その視線が、逆にありがたかった。
もう一度、
今度は短く。
「……ないこ、です」
思ったよりも、
ちゃんと音になった。
「ないこ、か」
いふさんは小さく頷き、
俺の顔を改めて見た。
「旅の人か?」
「……そんな、感じですね」
嘘をついた、というより、
本当のことを
言わなかっただけだ。
海から来た、なんて言葉は、
ここではまだ、
口にしてはいけない気がした。
「そらまた、
えらい時間に着いたな」
そう言って、
いふさんは夜の街をちらりと振り返る。
「今日はもう遅い。
宿、決まってへんやろ?」
宿。
そんなもの、
考えたこともなかった。
黙っていると、
いふさんはそれだけで察したらしい。
「まあ、そうやろな」
苦笑して、
肩をすくめる。
「安心せえ。
変なとこ連れて行く気はあらへんから」
そう前置きしてから、
少しだけ、声を落とした。
「……この街、
夜に一人でうろつくには
向いてへんしな」
その言葉に、
背中がひやりとする。
陸は、
怖くないかもしれない。
そう思っていた。
でも、
安全だとも、言っていない。
「……お願いします」
自分でも驚くほど、
素直に言葉が出た。
いふさんは一瞬目を丸くして、
それから、
ふっと笑った。
「よっしゃ。
ほな、行こか」
そう言って、
歩き出す背中を見ながら。
俺は初めて、
陸で、
誰かの後ろを歩いた。
「そういや、
俺の名前、言ってへんかったな」
宿へ向かう道すがら、
彼はそう言って振り返った。
「俺の名前はいふ。
まろ、って呼んでや」
まろ……?
人魚同士でも、
親しい間柄なら
あだ名をつけることはあったけれど、
原型を留めてなさすぎじゃないか。
そんなことを考えていると、
「原型ないやろ」
まろは、
俺の心を読んだみたいに笑った。
「俺の友達がな、
〝まろちゃんって可愛くない!?〟
って言い出して、
そっからや」
「……なるほど」
納得できるような、
できないような。
「あの、まろさんは……
どんな人なんですか?」
恐る恐るそう聞くと、
まろは歩きながら手をひらひら振った。
「まろでええし、
タメでええよ」
「あ……わかりま……
分かった」
慣れない言葉遣いに、
少し舌がもつれる。
「で、どんな人っていうのは、
職業とかでええん?」
「うん」
「俺はなぁ……」
まろは少し考える素振りをしてから、
肩をすくめた。
「この街で過ごしてる、
宿屋の息子、かな?」
「かな?」と付け足すあたりが、
妙にらしかった。
「いろんなとこ手伝っとるから、
どれが本業か言われたら
自分でも分からんねん」
そう言って、
まろはあっさり笑う。
「すごいね。
……何でも屋さんみたいだ」
そう口にすると、
まろは少しだけ驚いた顔をして、
それから、照れたように笑った。
「そんな大層なもんやないけどな」
街の灯りが、
少しずつ近づいてくる。
陸は、
思っていたより、
あたたかいのかもしれない。
陸で過ごす、
初めての夜。
俺は、そんなことを感じていた。
「お父様!
ないこの姿を見ていらっしゃいませんか!?」
「ないこ……?
ないこがいないのか……?
あれだけ海のために働いてきていた子が
いないだと……?」
「それに、あの道具もないんです!!」
「まさか……!!」
「そうです。
たぶん、ないこは雫星を使って、
陸に向かったんだと推測されます。
どうしますか。陸へ使いを送りますか」
「……いや、まだ送らなくていい。
遠くの海へ泳ぎに行っている可能性だって
あるからな」
「……分かりました」
くそっ、
ないこのやつ
どこに行きやがった……!!
その雫星で、
俺は世界を統べる王になるつもりだったのに!!
そんな会話が
深い深い海の奥で
交われているとはつゆとも知らず。