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首を横に倒す。ボキボキ、ボキボキ。骨が鳴る。
「おはよ、お主」
「コケッ!」
前日家族になった鶏のお主に朝の挨拶をする。夜通しディナーマイニングをしていたため、汗をかいた。
お風呂代わりに川へ入る。そのために服を脱ぐ。しかし未だに全裸になるのには抵抗がある。
しっかり周囲を見回して、誰もいないのを確認し、全裸になる。川に足を入れる。チャプンッ。
川の流れがまとわりついて流れていく。意を決めて肩まで浸かる。やはり縮み上がる。
ボディーソープやシャンプー、コンディショナーはおろか、石鹸すらないが体を擦る。
しゃがんで頭まで浸かり、髪をがしゃがしゃと洗う。
「ぷはぁ〜!」
髪の先から水が飛ぶ。その水たちに朝日が反射し、キラキラと輝く。
大自然にキラキラ輝く水たち。まるでなにかのコマーシャルのようだ。
陸に上り、汗を吸ったであろう服たちも手洗いする。お主の囲いのフェンスに服を干す。
「コケッ!」
お主が優恵楼(ゆけろう)を見上げる。
「あぁ、朝ご飯ね」
まずは自分の服を着替えて、右手に種を用意して手を差し出す。
「はいどうぞ」
掌の上に乗った種を食べるお主。食べ終えると
「コケッ!」
ご馳走様と言ったようだ。
「オレも朝ご飯食べますか」
前日もぎ取ってきたフルーツを食べる。果汁が口の中に広がり
果肉も食べ応えがあるものもあり、充分とはいえないが朝ご飯となってくれた。
「お、育ってんじゃん」
前日に小さな畑に植えた小麦を見て呟く。少しだけ伸びた小麦の穂先を撫でる。
「元気に育てよ〜?早くパンを食べさせてくれ」
掌にファサファサあたる穂先に願いを込める。
次に自分の建てた高い高い丸石ブロックの塔を触る。ペチペチ。冷たい。見上げる。誇らしい気持ちになる。
「さて、今日はなにをしよう」
ペチペチと塔を叩きながら考える。とりあえずクラフトブックを見ようと洞穴へ戻った。
クラフトテーブルに備え付けてあるクラフトブックを手に取る。ページを捲る。
デジタルとアナログが融合したような本で
特定の素材をタップすると、魔法のようにパラパラパラとページが捲られる。
まず、その魔法のようなクラフトブックに感動して、パラパラパラとしばらく遊んだ。
そして鉄のインゴットをタップする。すると鉄のインゴットで作れるレシピの元へとページが捲られる。
鉄の鍬、鉄のシャベル、鉄のツルハシ…
「あぁ、圧搾機!」
圧搾機とは果物、作物からジュースを生成できる機械だ。
ジュース以外にも副産物もできるし、いろいろできる。
しかし圧搾機は、ピストンというブロックが必要なのである。
「スライムかぁ〜…」
敵モブであるスライムを狩り、スライムボールを入手しなければ、ピストンは作れない。
しかしジュースは飲みたくなってしまっている。そういうときはジューサーの出番である。
丸石を焼いて、石ブロックにし、その石ブロックを横に2つ並べることで石の感圧板ができる。
そして石ブロックの下に石の感圧板を置くことでジューサーがクラフトできる。
そしてそして、ジューサーとジュースにしたい果物を2つ置くことで
そのジュースが出来上がるのだ。まずはぶどうのジュースをクラフトした。
ゴクッ。生唾を飲み込む。右手にジュースを持つ。
瓶の冷んやりした感覚、中のジュースが揺れる感覚が伝わる。
キュギュッ、ポンッ!瓶からコルクを抜く。ぶどうジュースの濃い匂いが漂ってくる。
瓶に口をつけてぶどうジュースを口の中へ流し込む。ぶどうの香りで口がいっぱいになる。
ぶどうの甘み、そして後味に少し酸味が残り、エラがキュッっとなる。
ただとんでもなく美味しかった。ぶどうジュースなんて
学校に通っていた世界でもそんなに飲んでいなかった。何ヶ月振りに飲んだだろう。
これから好きなものの欄に「ぶどうジュース」と書こうと思ったくらい美味しかった。
それからジューサーをクラフトし、各種ジュースを作った。そして外に出た。
今日は洋館があったトウヒの木の森を北としたとき西側
洋館があったトウヒの木の森を前方に見たとき左側を探索しようと旅に出た。
1ブロック1メートルというのは、下りるのはまだ楽なのだが、上がるとなると大変なのだ。
そこそこ歩いたがまだこれといってなにもない。ただただ原っぱが広がっていて
オークの木がところどころに生えており、綺麗な花たちが雑草に負けんと背伸びをしている。
「このまま海行きですかね〜?」
なんて言いながら川沿いを歩いていると、本当にその川が大海原へと繋がった。
「おぉ〜…」
圧巻。海なら去年の夏休み、流来(るうら)と行ったが
目の前に広がるのは大自然の、誰もいない、人の手が加わっていない海。
なぜか、どこか心打たれるものがあった。海辺を歩いていく。そんな感動も一気に引っ込む。
後退る。足元に広がる大きな裂け目、渓谷と呼ばれるものである。
海側の砂も崩れ、海の水が奈落の底に流れ落ちていた。
辛うじて陽の光が届く底が照らされる。そこには人型のなにか蠢く存在が確認できた。
「こっ…わ」
渓谷の幅も大きく、飛び越えることは到底出来なさそうだったので
(1メートルだとしても怖いから無理というのは秘密である)
探索をするにしてもボートを作りたいので一度拠点に戻ることにした。クラフトテーブルにてボートを作る。
オークの木材ブロックを小文字の「U」に置けば、オークのボートの出来上がり。
これさえあれば海も越えられる。今は越えるつもりはないが。
早速ボートを持って先程の渓谷へ。海にボートを浮かべる。波でボートが揺れる。手で引き寄せて
「よっ」
飛び乗る。ボートが不安定に揺れる。
「おっ、おっ、おっ」
ボートの上で両手を広げてバランスを取る。
「おぉ〜…おぉ…」
安定した。オールを持って漕ぎ出す。オールに水の抵抗が加わるのがわかる。
「これは腕がパンパンになるんでないか?」
オールを漕ぎながらそう思うが、目的は渓谷を越えること。
たった数メートル漕いでボートを降りた。原っぱを少し歩くと小高い丘に突き当たる。
頑張って登った。1ブロック1メートルが連続して何回もあり
ただの小高い丘だというのに、一山登ったんじゃないかという達成感があった。
「ふぅ〜…」
オークの木の根元で寝転がる。土に生える芝の柔らかさが手に、体に伝わる。
体を起こす。小高い丘から海を見た。とんでもなく綺麗だった。
綺麗な陽の光が海の小さな波波に反射し、キラキラと輝いている。そして遠くに島が見えた。
島なのか、大きな陸地の先端だけが見えているのかはわからないが
ボートで頑張れば行けそうなところに島があってワクワクした。しばしその雄大な景色を見ながら一息つく。
作って持ってきたジュースを飲みながら、軽いピクニック気分である。
水筒ではなくコルクが蓋の瓶というのが少し玉に瑕だが。
「よしっ」
少し休憩したところで探索の続きを、と思い膝に手を置いた。その手の甲にポツッ。
「えっ?」
手の甲を見る。涙が落ちたかのように水の雫が1滴、綺麗な半円で手の甲に乗っていた。
少し動かすとスルーっと流れていってしまった。
「ん?」
空を見上げる。ポツッ。今度は頬に雫が落ちてきた。頬を伝い、首に垂れる。
冷たいしくすぐったい。そのうち、ポツッ、ポツッ、ポツッ。そう。雨が降ってきたのだ。
「マジか」
どんどん雨が強くなっていく。しかし幸い木陰にいるため、さほど雨の影響を受けることはなかった。
とは言っても葉の間からポツポツと少しずつ濡れる。
「あぁ〜…どうするかぁ〜」
先程までは綺麗に晴れていた青空も、どんよりした雲に覆われていた。
「そっか。なんか寝ないと雨降るんだっけ。ワメブロって」
果たして寝ないことで降った雨なのか、たまたまなのか。これは神の味噌汁…あ、神のみぞ知るです。
濡れたくないし、かといって動かなければどうにもならない。木に寄りかかる。
髪越しに木のゴツゴツ感が伝わる。
「あぁ〜…どうしよ…」
厚い雲に覆われた空を見ながら考える。ザッ。背後から足音がした気がした。
お、動物かな
ザッ。ザッ。木からそれがひょっこりと顔を覗かせた。
「ウオォ〜…」
迫力のある、しかし正気のない声。目の前にあったその顔は緑色をしており、顔の一部は腐り
白目の部分にも緑色が侵食しており、黒目には光が宿っていなかった。
ぼろぼろのくすんだ水色の服を着ており、青いパンツを履いて
黒ずんだ爪をした、ところどころが腐っている緑色の手を
ただ欲望の赴くままに無気力にこちらに伸ばしてきていた。
優恵楼(ゆけろう)はあまりに唐突なことで固まった。しかし本能で後退りをしていた。
座ったまま後退りをする。木陰から出て激しい雨に打たれる。どんどん服に雨が染みてくる。
「ウオォ〜…」
ゾンビはどんどん迫ってくる。優恵楼(ゆけろう)もどんどん後退りする。
掌には濡れたく硬くも柔らかい芝の感触が伝わる。土ブロックの角が手にあたる。
ついに後退れなくなった。小高い丘の海側の端。目の前には腐った緑色の手を伸ばしてきているゾンビ。
優恵楼(ゆけろう)はようやくのことで立ち上がって、今一度ゾンビと向き合う。
「ウオォ〜…」
息を飲む。どうやら意を決したようだ。
「逃げろ!」
そう叫んだかと思ったら、右側に向かって駆け出した。斜面をジャンプしながらすごい勢いで下っていく。
ペチャペチャと芝の水分を踏み締め、弾ける音が激しく聞こえる。
ボートなんて使っている暇はない。海に飛び込んだ。クロールで必死に波の中を泳ぐ。
川の入り口が見えた。急いで岸に上がり、べちゃべちゃなのもお構いなしに走った。
雨が降り、陽も雲に隠れて出ていない、視界最悪。
しかし怖い思いをして建てた塔が見て取れた。少し安心する。
唇を舐めると、海水のしょっぱい味がした。必死に走った。塔を目印にして必死に走った。
「コッコッコッ」
地面に雨が打ちつける音の中にお主の声が聞こえる。
「ただいま!」
安心して大きな声でお主にそう言った。
「コケッ!」
お主もどことなく安心しているように見えた。
「お!木も育ってんじゃん!」
まだ苗だった果実の木も数本、大きな木に成長を遂げていた。
そんな安心の景色を尻目に、急いでオークのドアを開けて拠点という名の洞穴に逃げ込んだ。
「はぁ…はぁ…」
息も絶え絶え。石の床にへたり込む。
綺麗な石の優恵楼(ゆけろう)の周りに、服から滲み出てきた水が小さな水たまりを作った。
そこに髪や肌から滴り落ちた水滴が小さな水面に波紋を作った。
「あぁ…はぁ…そうか…はぁ…そりゃ…ゾンビも…いるよな…」
自分が画面を見ながらゲームをプレイする側だったときは
不意に出会ったときはビクッっとしたものの、余裕で剣で倒していた。
しかし、いざ対峙するとなると怖い。とてつもなく怖かった。
ワールド メイド ブロックスの世界では、ゾンビに襲われたからといってゾンビになるというシステムはない。
MODではあるだうが。なので基本的にダメージを喰らうだけ。
HPゲージ、ハート10個がすべてなくなっても、もう1度リスポーン
つまり生き返ることができる…はずである。ハードコアモードでない限り。
アイテムをその場にばら撒いて、ベッドの上から、まるで夢であったかのようにリスポーンできる。
ベッドがない場合、この世界に生まれたところからだが。なので基本的に貴重品を持ち歩いていない限り
もしくは経験値がたんまりない限りは怖くないはずなのである。
「とんでもない」
怖くない?とんでもない。とびきり怖かった。
臭いこそしなかったが、腐敗臭が鼻につきそうな緑色で腐った顔や体や手。
ウイルスなのか、緑色が侵食していた白目。そして黒目。光が宿っていないどころか
光をも吸収し、見つめたものをその深淵に行きこむような闇。思い出すだけで恐ろしい。
「そうか。この世界は…」
改めて優恵楼(ゆけろう)は、自分が高校に通っていた世界でないこと
ワールド メイド ブロックスの世界に酷似した世界にいることを認識した。そして
「ベッド!ベッドよベッド!」
改めてベッドの重大さを理解した。オークのドアの4つの小窓から外を見た。
雨の激しい音はオークのドアで少し小さくなっていた。外はまだ雨。
食料もろくにない。ゾンビに挑める度量もない。しかしベッドもない。羊毛がほしい。
とりあえず鉄のインゴットでハサミをクラフトした。
普段使う文房具のハサミよりは一回りほど大きな、いわば裁ち鋏のようなハサミ。
無駄にシャキシャキする。今一度外を見る。
洋館があったトウヒの木の森を北としたときの西側
洋館があったトウヒの木の森を前方としたときの左側では綺麗な海を眺め
その直後にどえらい目に遭ったが、洋館があったトウヒの木の森を北としたときの東側
洋館があったトウヒの木の森を前方としたときの右側はまだ探索できていない。
「…ふぅ〜…」
一か八か、自分の運を試してみることにした。
もちろんあのゾンビとまた出会うと考えると怖かった。緊張した。
しかし、ここまで来るとどこかに、探検心、冒険心、探究心が込み上げてくるような気がした。
「いっちょ行ってみますか!」
濡れた服などお構いなし。どうせまた濡れる。カチャッ。オークのドアを開ける。
ちゃんと閉める。カチャッ。先程とは反対側に走り出す。
「コケッ?」
「いってきます!」
走りながら首を傾げるお主に挨拶をする。ピチャピチャ。濡れた芝を踏みつける音。
足元で水が跳ねる。どこかワクワクしながら走っていた。
しかし反対側もこれといって特別なことはなかった。変わらぬ原っぱ。
綺麗な色とりどりの花。その花弁に雨があたり跳ねる。
水をもらえて嬉しいのか、はたまた太陽を拝めず悲しいのかわからなかった。
走りながら周りを見て羊を探す。すると原っぱの奥、雨宿りをしているのか
木の陰に隠れた白いモフモフしたものが目に入った。
「いた!」
まるで彦星が織姫を甘谷のあの有名な、人が賑わう交差点で見つけたかのように喜び
つい声がでた。羊に向かって走る。
「ウオォ〜…」
ゾンビの声がして背筋がぞくっとする。カランッ。骨の音。聞き覚えのありすぎるその音にも背筋が凍った。
なおさら走る。走って走って羊の元へ辿り着いた。
撫でたり「あぁ〜もふもふぅ〜」と触りたかった。しかしそんなことしている余裕などない。
「失礼します!」
右手にハサミを持ち、左手で羊の毛を掴み、パチンッ!っと切った。
するとたった数センチしか切っていないのに羊は丸裸。羊毛ブロックがポロッっと転がった。
「羊毛ゲットだぜ!」
こんなことをしている場合ではない。本来ベッドに必要な羊毛は3つだが
5匹ほどいた羊を丸裸にして、5つの羊毛ブロックをゲットし、一目散に拠点へと帰った。
「コケッ?」
「ただいま!」
またも首を傾げるお主に走りながらそう言って
オークのドアを突き破るんじゃないかと思うほどの速度で突っ込み
ドアを開けてしっかり閉めて、まだ乾いていない小さな水たまりの上にまた座った。
「はぁ…はぁ…」
息も絶え絶え。1日目、2日目とは大違い。入学して学校の中を探索するパートから打って変わって
まるで運動会、中学生、高校生だと3年生でこの学校での体育祭は最後。
是が非でも勝ちたい、ガチの体育祭である。
「はぁ…はぁ…」
右手に羊毛ブロックを持つ。
「羊毛…ゲットだぜぇ〜…」
何はともあれ羊毛ブロックを手に入れることができた。これでベッドが作れる。
「あぁ〜…やっとだぁ〜…」
外では祝福するように雷様が雷を鳴らしてくれていた。
「あぁ~!ありがとうございます!」
石の床に寝転がる。小さな水たまりが広がる。しばし寝転がって天井を眺めた。
そして立ち上がる。クラフトテーブルに向かう。3×3、9マスのマス目が出てくる。
横並び3マスに羊毛ブロックを置く。その下、横並び3マスに何の種類でもいいが木材ブロックを置く。
(今回の優恵楼(ゆけろう)の場合はオークの木材)
☑︎☑︎☑︎
■■■
□□□(「☑︎」が羊毛ブロックで 「■」が木材ブロックである)
ちなみに
□□□
☑︎☑︎☑︎
■■■もちろんこうでもオーケーである。3日目にしてやっとできたベッドを手に取る。
右手の中では小さなベッド。しかしそれでも嬉しい。まさかワールド メイド ブロックスで
ベッドができるだけでこんなにも嬉しいとは夢にも思わなかった。さっそく置く位置を考える。
ベッドを置くためだけに少し洞穴を広げた。そしてやっぱり壁際。
そして壁が石だとなんか嫌だったので、わざわざ木材ブロックに変えた。
服を着替える。髪はまだ濡れていたが
「よっ」
ベッドにダイブした。ギィッ。木の土台、フレームが軋む音がする。
フカフカのマットレスと掛け布団。枕を抱きしめる。枕もフカフカ。
「あぁ〜…」
疲れがドッっと襲ってきた。恐らくまだ陽が落ち始めたくらい。
夕方になるかならないかの狭間。しかし気づいたら眠りについていた。