コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第二話 : 『 支配の先にあるもの 』
✽✽✽
「ホント、可愛い顔になってきたっすね、跡部さん」
切原の声は、低く甘い。だがその甘さは舌に刺さる毒のようで、優しさではなく、跡部の奥にある“屈服”を引きずり出すための刃だった。
「っ……だまれ……ッ、誰が…テメェなんかに……ッ!」
強がる声が震えていた。悔しさも、怒りも、確かにある。だが、それだけじゃない。
切原の指が跡部の顎を撫で、喉元をなぞり、胸を押さえつける。鋭く、冷たい手つき。それは、獣が獲物の急所を確かめるような残酷な手だ。
「無理しないでいいっすよ。プライドも、誇りも、全部……俺が奪ってあげるから」
そう囁いて、切原は跡部の唇の端に指先を滑らせた。
「ッ……ぅ……っ、」
瞬間、ビクリと跡部の身体が跳ねる。いやらしさではない。だが、確かにその指先には“支配”の熱が込められていた。
まるで自分の境界線を越えてくるような感触に、跡部の目から色がひとつ、落ちていく。
「どこまで耐えられるか、試してみたいんすよね。跡部さんのその“王様ごっこ”が、どこまで通用するか」
低く囁いた切原の舌が、跡部の耳を掠める。
「ッ…や…め…っ、」
その拒絶はもう、本物じゃない。
否定するくせに、身体が敏感に反応してしまう。ゾクゾクと駆け上がる快感の波が、跡部の自我を削っていく。痛みと、屈辱と、そして背徳的な快楽が、跡部の中でとろりと溶け合う。
「…ほら。そうやって、可愛く壊れていく顔……俺だけに見せてくださいよ」
跡部の目が、切原を睨む。けれどその瞳に映っているのは、かつてのような“支配者”ではなかった。
悔しさに濡れ、興奮に震えながら――
切原という名の支配者に、少しずつ、少しずつ、溶かされていく“おうさま”。
跡部景吾の誇りは今、デビルの冷たい笑みに絡め取られ、甘く、苦く、崩れていく。
「跡部さん。俺のモノになる準備……ちゃんとできてきたじゃないっすか」
その声に、跡部の喉が震えた。
もう、戻れない。
✽✽✽
乱れた顔をして俺を見上げる跡部さん――
その瞬間が、たまらなく好きだった。
ベッドの上、俺の下で喘ぐ跡部さんの表情。強がって、睨んで、でも震えて。
そんな風に抵抗しても、身体はもう嘘をつけてない。
「ほら……もう、力入ってないっすよ?」
わざとらしく囁くようにそう言えば、跡部さんの背中がピクリと反応する。
その反応一つ一つが、まるで“服従の証”みたいで、俺の胸の奥がざわざわと熱くなる。
さっきまであんなに偉そうだった“KING”が、今じゃ俺の指先ひとつで息を漏らしてる。
あの、跡部景吾が――だ。
「……マジで、こうなるなんて思ってなかったな」
呟きながら、跡部さんの髪をぐしゃっとかき回す。
乱れて、熱で火照って、汗ばんだその額にキスしたくなるほど、今の跡部さんは綺麗で、弱くて、興奮する。
「跡部さんって……ほんとドMっすね」
わざと意地悪く言えば、「違うッ……!」って言い返してくる。
でも、俺にはわかるんだ。そう言いながらも、その声の奥が、どこか快楽に濡れてること。
その矛盾こそが、たまらない。
「もっと溶けてくださいよ。もっと……俺だけにその顔、見せて」
俺は跡部さんの身体に指を這わせる。鋭く、冷たく、逃げ場をなくすように。
切原赤也としての“本性”が、跡部景吾という男を、ゆっくりと、完全に、自分のものに染めていく。
跡部さんが、痛みと快楽で泣きそうになりながら、それでも俺を睨んでくるとき――
そのギリギリの表情が一番好きだった。
「ねぇ……もう、“おうさま”やめません?」
「ッ……や、め……ねぇ…っ……!」
そんな必死な拒絶すら、もう愛おしくて仕方なかった。
だって、もう知ってるんだ。
この人が、どんな風に堕ちていくのか。
俺の声で。
俺の手で。
俺だけの支配で――
跡部景吾のすべてが、ゆっくり、確実に“俺色”に溶けていく。