戦いに奔走していつの間にか1年以上も経過していた。
その間に結局ユーヤは戻ってこなかった。それどころかアシュレインの王都から突然その姿を消してしまったとの噂が聞こえてきた。
「どう言う事なの?」
「アシュレインの奴ら、ユーヤが行方不明なのを隠してやがったんだ!」
珍しく吐き捨てる様に言うゴーガンは怒り心頭の様子だった。
当然、それは私も同じよ。
「あいつら、どこまで腐っているの!」
「アシュレインは失策続きの上に魔の対応で財政は逼迫し国内はぼろぼろだからな」
ユーヤのいないアシュレインには全く価値がない。外交上の優位を失いたくないアシュレインはユーヤの失踪を隠し、発覚する前に何とかする腹積りだったのだろう。
「私はアシュレインに行くわよ。止めないでよね」
「当たり前だ……俺も行く!」
いつも飄々としているゴーガンが、いつになく真剣な顔になっているわ。
「今のアシュレインにユーヤを害する理由は無いはずだ。だからユーヤを送り出したんだ」
それにユーヤがアシュレインの雑兵に遅れを取るとは思えない。
「ユーヤはあれだけ魔王を倒して自分の国に帰りたがっていた。ユーヤがいなくなる理由が分からん」
「嫌な予感がするわ。まずはアシュレインの王都へ行って情報を集めましょう」
すぐに私とゴーガンはアシュレインへと行きユーヤの消息を探った。
「もう1年も前に行方不明になってるじゃない!」
「アシュレインの奴らは問題を解決せずに先延ばしする事ばかりに必死だな」
まずは王都内での聞き込みを行い、ユーヤが凱旋の日に姿を消した事が判明した。
「幸いなのはユーヤがアシュレインの奴らに害されたわけじゃなさそうって事くらいか」
「ユーヤは自分の意志で姿をくらましたのかしら?」
「分からん……情報が少な過ぎる」
それから私達の調査は思う様に進まなかった。
なんせ私達はスターデンメイアをいつまでも放っておくわけにもいかないのだ。私達は時折帰国して魔族や魔獣を討伐してはアシュレインに戻って調査する日々を送った。
――気が付けばユーヤと別れてから10年が過ぎていた……
だけど、遅々として進まないユーヤの捜索。
聞けば誰もがユーヤは怖くなって逃げ出した臆病者だと陰口を言う。
「あいつらぁ!」
「落ち着け」
「だってユーヤを馬鹿にされたのよ!」
「スターデンメイア奪還も10年も前の出来事だ。ユーヤの強さが分からん連中も多いさ」
「ユーヤは凄いんだから……絶対に逃げ出したりしないんだから……絶対に……」
ユーヤが貶められている。
ユーヤを見つけられない。
ユーヤに会いたい……会いたい……会いたい……
悔しくて、もどかしくて、切なくて、苦しくて……
そんな色んな想いの丈が私の目に溜まる。
そんな溢れる数々の想いを止められない。
「おや、ユーヤさんのお知り合いの方ですか?」
そんな焦る私達の前に突如そう言葉を掛けてきたのは1人の中年男性。
「ユーヤを知っているの!?」
「待てフレチェリカ……あんた何者だ?」
ゴーガンが警戒の色を見せるけれど、目の前の男は人の良さそうな笑顔を貼り付けたまま特に気分を害した様子もない。
「これは突然に失礼しました。私は旅商人のジグレと申します」
「旅商人……ねぇ」
ジグレと名乗った男にゴーガンの警戒は緩む様子がない。
ゴーガンは鋭い。
きっとこの男はただの旅商人ではないのでしょう。
「私はフレチェリカよ」
でもユーヤの情報が手に入るかもしれないこの千載一遇の機会は逃せない。私が無用心に名乗ると、ゴーガンも諦めた様に溜息を吐いた。
「俺はゴーガンだ……で、あんたはユーヤの知り合いか?」
「ええ、まあ……私は旅商人で各地に赴きますので、その取引先の1つにユーヤさんという名の黒髪の青年がおりまして……」
ジグレの話に出てくるユーヤの特徴は正に私達の良く知るユーヤだった。
良かった……無事なのね。
「今は辺境のリアフローデンにいらっしゃいますよ」
「そうか、その情報はありがたい……が、お前は何者だ?」
ゴーガンの纏う空気が張り詰めるのが私にも分かる。
そんなに警戒する様な人物には見えないけれど……
「ですから旅商人のジグレと……」
「肩書きはいい……何処の国の者で、何が目的だ?」
その問いに対してジグレの顔から柔和な笑顔が消えた。
表情が抜け落ちたその不気味な様相に私は息を飲んだ。
「ふふふ……まあいいでしょう」
しかし、すぐにジグレは人好きのする笑顔に戻った。
「国は明かせませんが、ユーヤさんにはそろそろ動いてもらいたい……それだけですよ。貴方達にはその切っ掛けになって欲しいのです」
ゴーガンが私に顔を向けるけど、私の気持ちは初めから決まってる。だから私は迷いなくゴーガンに強く頷いて見せた。
それに軽く溜息を吐いたゴーガンはジグレに視線を戻した。
「いいだろう……その思惑に乗ってやる」
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