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立て続けに五つ。
星型のビーズを見つけると、行人は今度は紙箱から糸を取りだす。
器用にビーズを糸に通すと、糸端同士を結わえてみせた。
直径七センチくらいの輪に連ねられた白い星。
揺れるたびにサラサラと楽器のような音色を奏でる。
「ほら、星歌」
とびきりの笑顔で義弟がそれを空に掲げた。
「見せて、見せてっ!」
彼の腕の中に入り込むようにして白の輝きを目で追うと、ニセモノの星はあたかも救いのように空に浮かんで見える。
「ここから見ると、お空って別の世界みたいだね!」
弾むような星歌のことば。
「お星さまにお願いしたら、どこにでも連れてってくれそうだね!」
「うん、星歌。別の世界があったらいっしょに行こうね」
背中があたたかい。
いつしか彼女は義弟の腕の中で、彼にもたれるようにして空と「星」を眺めていた。
不思議だ。
靄に包まれていた空に、こうして星が輝いている。
同時に、星歌のささくれた心も愛しさの海に充たされた。
さして身長が違わないふたり。
至近距離で目が合うと、照れたように笑みを交わす。
こそばゆい……けれども、このまま離れたくないような。
そのときだ。
隣家との路地を通って勢いを増した冷たい風が、ふたりに向かって襲いかかった。
「さむっ!」
身を震わせ、顔をそむける星歌。
同時に行人も寒さに上体を縮めた。
ふたりが突然動いたものだから、その顔が思わぬ形で近付く。
やわらかな感触が唇に、一瞬。
「!」
焦ってその場を飛びのくふたり。
顔を赤らめてパクパクと口を動かす互いの姿を眺めるのみ。
「行人くん、星歌、ごはん冷めるわよ」
母の声に、星歌は我に返る。
義弟に向かってクイクイと顎で玄関を指し示した。
「お母さんにはナイショだよ!」
行人の生母の裁縫箱のことか、今のキスのことかは、自分でもよく分かっていない。
星歌は鼻息荒く、もう一度「ナイショダヨ!」と大きく声をあげた。
こくり。
頷く行人は、彼女の勢いに呑まれている様子。
フン、仕方のないヤツだなと呟いて、星歌は義弟の手をとった。
──今日から仲良しになったと言ってやろう。お母さんもお義父さんも喜ぶだろう。
そう思うと、くすぐったいような気持ちに心が華やぐ。
この先、何もかも上手くいく──このときは、そう思った。
どこへも行かなくても、星歌の世界は優しかった。
幼いあの日の、内緒の思い出。