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「ただいま」「お邪魔しまーす」
このままベッドに倒れ込みたい。
眠いしなんだか疲労がやばい。
仕事終わりでフルコースのデートをしたみたいなものだしなあ。
仁人もそれは同じかもしれない。
「さて、お湯ためますか」
「お願いします」
「着替えの場所わかるでしょ?」
「うん」
「取っておいで」
「ありがとう」
足早にバスルームへと向かう。
風呂に入ってしまえばいつもの部屋着の仁人に戻る。
水色の彼はいなくなるんだ。
下手に中途半端な露出部位に釘付けにならなくて済む。
いつもの俺たちに戻る。
「もう少し待ってね」
「うん、ありがとう」
冷たい麦茶をグラスに注いでテーブルに持っていく。
ちょこんと座った仁人が俺を見上げる。
「…」
「…」
今日一日が終わる。
まるでデートをしているような、いつもの2人のような、ピリッと恋心を刺激された日。
「…はやと」
「ん?」
「…」
「…どうした?」
「…うん」
珍しく視線を逸らされた。
どうしたんだ?
「…お、お風呂」
「うん」
「上がったら…」
「…うん?」
「したいことがある」
「…なに?」
「い、今は言わない」
「…そうなの?」
「…うん」
「…」
本当になんなんだ?
ここまで何かを言い淀む仁人は珍しい。
風呂が終わったらなにが待ってるんだ?
「…勇斗も入ってからでいいから」
「…わかった」
その時、湯を張り終わった事を知らせる音楽が鳴り響いた。
「…じゃあ行ってくる」
「…ごゆっくり」
着替えを両手で抱えてバスルームに向かう後ろ姿をただ黙って見ていた。
したい事って…なんだろう?
…………
二人とも風呂を済ませて再びソファに座った。
2杯目の麦茶を入れてそれを片手に、なんだか雰囲気の違う隣の仁人の様子を伺う。
「…」
「…仁人、さっきのしたいことって、なに?」
「…うん」
「なにを、したいの?」
彼の目を見ようと隣を見るが、視線は逸らされたままだ。
「…仁人?……っ」
🍎
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アイ
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「……」
ソファについた右手の上に、仁人の左手の感触。
そのままキュッと手を握られた。
「…」
「…あの…勇斗」
「…なに?」
ゆっくりと顔を上げた仁人の、揺れる瞳が俺を捉えた。
「………手…嫌じゃないの?」
「…嫌じゃないよ」
「…このまま握っててもいいの?」
「…いーよ」
仁人は何かを確かめている。
手を握られて、見つめられて…
これから起こりそうな事と言えば……
「………ちゅうして」
「………ん?」
「…だから……ちゅう…して」
「え…」
ちゅう……ってキス……?
なんで?
「……してもいいの?」
「……い、いいよ」
「……」
「……」
その時考えた。
仁人は何か実験的な事をしている…?
普段の気まぐれな彼の事を思うと、その可能性はゼロではない。
「……」
「……」
目と目が合ったままその真意を探る。
俺……仁人の言葉を疑ってるのか。
仁人とキスがしたい。
考えてみれば、そもそも俺がしたいんだ。
だったら考えて、自分が傷つく可能性を探す必要なんてないじゃないか。
「……」
ゆっくりと近付く。
唇に視線を落とす。
息がかかる距離。
こんなに彼に近付いた事は…初めてだ……
あ…目…閉じた…
チュッ…
触れて音を立てるだけのキスをした。
「……」
「……」
ゆっくりと離れる。
「……これが…仁人のしたかったこと?」
「……うん」
「…どうして、俺とキス、なの?」
見上げてくる顔が赤い。
確かめるような強い瞳が怖がってるようで。
「あ……え…っと…」
「…言ってみ?」
「……ちゅう…したかったんだもん」
「……それだけ?」
「…それだけじゃない」
「……ちなみに…俺もしたかったよ」
「…まじで?」
「うん。だから今超嬉しい」
「…なんで?」
「…なにが?」
ハッキリ言わない、言えない…そんな感じ。
俺の勘違いじゃありませんように……と、
彼の試し行為を真に受けてみようと思った。
「…勇斗は、どうして俺とキスしたいの?」
「……仁人はズルいなあ」
「…うん」
「…真面目に答えると」
「…」
「俺仁人のこと好き」
「……」
「キスしたかったし…多分もっと先もしたいよ」
「……」
「いつも…そういう目で見てました。ごめんね」
「……そうなの?」
その時やっと、安心したように俺の手に仁人の手が重なった。
そして俺を見つめる目が潤み始めた。
「…俺…勇斗ともっとキスしたい…ぎゅってされたい」
「…っ」
「…もっと…して?」
スっと俺の胸に身体を寄せた仁人に少し戸惑う。
「待って、」
「…ん?」
上目遣いが俺の堅い理性にヒビを入れてくるか、まだ肝心なことを聞いていない。
「仁人は…?俺のこと、好きなの?」
「……好き…大好き」
「…ほんとに?」
「うん…でも…正攻法じゃ…ダメかと思って…」
「…」
「…えっちになったら…好きになってくれるんじゃないかって…頑張ってた」
「…っ」
「…だから…俺のことちょっとでも好きなら…好きにしていいから…勇斗のしたいこと…して?」
…ビシィッと音を立てるように俺の理性に大きなヒビが入るが、違う、違う違う。
仁人、それは違うって…。
「あのさ、俺仁人がえろいのはめっちゃ嬉しいし正直いま我慢の限界ではあるんだけど…」
「…うん?」
「…そんな…身体を差し出さなくなって俺お前のことちゃんと好きだよ?」
少し身体を離して目を見て言う。
「…でも…勇斗はえっちなこと好きでしょ…?」
「好きだよ?それは好き。でも仁人の事はもっと好き、えっちなことなんて比べ物にならないくらい好きだよ」
言ってて意味わからんくなる。
仁人が好き、仁人とえろいことはしたい、でも…仁人の気持ちが一番優先される事なんだ。
「…なんで?」
「…なんでって?」
「どうして…そんな風に言えるの?俺…勇斗に釣り合ってないし」
「…え?」
「もっと…俺なんかより勇斗に似合う人たくさん…いるのに」
ああ。そういうことなの?
パズルのピースがカチッと合ったみたいな感覚だった。
「…あのさ。俺、仁人が話してくれる意味わからん話めっちゃ好き。この間のサーモンピンクの話も、意味不明なオチのない話も、ただあった事を適当に話してるお前もすげー好き。」
「え…」
「一緒に居られるだけで幸せなの」
「…」
「存在が好き?みたいな。俺の気持ちをあんまり甘く見たらダメだよ」
「…ごめんなさい」
「謝らなくて大丈夫だよ。俺が勝手にそう思ってたんだから…。でも、仁人も俺のこと、そんなに好きでいてくれたとは知らなかった」
「…すきだもん」
嬉しくて、頭を撫でる。
何度も何度も、撫でた。
撫でているうちに、ふっ…と仁人の身体から力が抜けるのがわかった。
「…俺…そんなに勇斗にとって、特別?」
「特別だよ」
「…えー…ふふ…そうなんだ…そうだったんだ」
「…なぁに」
噛み締めるようにニヤケながら言う仁人を見て、自然と声が甘くなる。
頬をするりと撫でると、ピクンと仁人が反応する。
「…勇斗の手が好き」
「手?」
「うん。大きい体が好き」
「…うん?」
「勇斗が一番、俺を甘やかしてくれる」
「…二番もいるの?」
「ふふ…いないけど」
「…ほんとに?」
「ほんと…勇斗が好き…」
「俺も…仁人が好き」
「勇斗の…唇が好き…」
うっとりと俺を見上げるその顔に鼓動が少し速くなるのを感じた。