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月曜の昼前、カフェテリアは混雑していた。
アレシオがミートボールの二つ乗ったスパゲッティをフォークに絡めているのを見て、デジュンが「ホントにイタリア人って、スパゲッティ食うんだな」と言った。
「もの珍しそうな目で見るなよ、マザーファッカー」
デジュンはタッパをテーブル中央に置き、レジの横にある安っぽいプラスチックのフォークを俺とアレシオに放り投げ、プラスチックの蓋を開けた。
「食えよ」
キムチの強烈なにおいが漂った。アレシオは顔をそむけた。俺は唐辛子が馴染んでいる白菜を一つまみした。酸味が口の中に広がったあと、火を噴きそうに熱くなった。
「こんにちは。この前はどうも」
女性の柔らかい日本語に顔を上げると、なんと、赤い帽子の女性が胸元に伸びた髪に手を添えて立っていた。
彼女はアレシオかデジュンの友達なのかと思っていたが、「ナツミです。よろしくお願いします」と英語で語っている。発音は、まあ悪くはない。
彼女との会話は、やがてデジュンが独占した。俺は早速傍観者になっている。クラスで習う英文法や単語の暗記作業に、どれほどの意味があるのだろうか。いくら英語上級コースに在籍していて彼よりも点ばかり取っていても、肝心なときに全く役に立っていない。
アレシオはデジュンの話に割り込むと「今度、イングリッシュ・クラブを作りませんか? 活動は放課後、ここで英語のおしゃべり」と言い出した。ナツミさんは「時間が合えば構わないですよ」と答えた。ナツミさんのクラスも俺達と同じ、二時五十分終了だという。
「でもイングリッシュ・クラブって、名前が平凡だな。クソ面白くなさそう」三時からの中級英語に落とされたデジュンは、鞄から銀の弁当箱を出した。
「名前なんてあとで気の利いたヤツにすりゃいいだけじゃん」
アレシオはスパゲッティを平らげると、ナツミさんにコーヒーをおごった。急にデジュンは銀の弁当箱を持ち上げると、大げさなまでにガツガツと音を立てて食べ始めた。ご飯が数粒、口の周りにへばりついた。レディーの前で下品なやつだなあ、と最初は思った。ところが、この作戦はうまくいったようだ。ナツミさんは笑い出したのだ。
キムチをつまもうとプラスチックのフォークを手にしたところ、テーブルの中央あったタッパはいつのまにか、デジュンとナツミさんの側に移動していた。