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なにか話そうとは思うのだが、どうもジゼルらと話すときのようには、思い通りに言葉が出てこない。結果、アレシオがナツミさんとの会話を独占することになる。
それに、アレシオがピアノを弾いているときのナツミさんの様子も気になる。彼女は俺が弾くときもじっくり聴いているが、アレシオのときの方がより一層関心を持っているように思えてならない。蓋を開けてみればイングリッシュ・クラブの居心地は決してよくはなかったが、今思えばそれでもナツミさんと毎日会えた。
ところがアレシオが学校を休んでからのここ四、五日、彼女と顔を合わせる機会を失った。
迷っているうちに夜が更けた。何度目かの受話器を取り、ロサンゼルス市内のエリアコードである二一三から押した。
「こんな時間に何よ」
「いや、べつに何というわけはないよ、ジゼル。それより、今度そっちのクラスに行ったデジュンは元気にしてんの?」
「デジュンなら、あんただって会ってるでしょ」
「会うったってカフェテリアでのほんのすれ違いだからさ。俺が行けばアイツは授業だし。ま、割といいヤツだから仲良くしてやってくれよ」
ジゼルは明日の宿題に追われているから、あまり長話しはできないと言い出した。ところが、どうしても受話器を置くことができない。
「で、何なのよ」
「特に、何ってわけじゃないって」
ジゼルは笑った。そして一呼吸した。
「ナツミなら元気よ」
「別に、彼女のこと聞きたいわけじゃない」
「無理しないでいいわ」
「無理なんかしてないさ。彼女、元気なのか。ふうん。よろしく伝えておいてくれよ」
ジゼルのケラケラいう声が止まらない。
「俺をおちょくってるわけ?」
「そんなことないわ。そうそう、明日ナツミとお昼一緒に食べるけど。あんたもどう?」
「俺なら、家でルームメイトとパンの耳食うから」
「そんなこと、いつでもできるでしょ。たまには奮発して、私達とカフェテリアでチキンコンボでも食べなさいよ」
「そうはいかないさ。親戚の家の世話になってる君とは身分が違うんだ」