もっくん視点
r「う”ぅぅ、、ふぇ、ぇ、ぅ”」
r 「ひっ、うぅ、う”ぇぇぇん泣」
m「もぉ〜、りょうちゃんまた泣いちゃったの?笑」
w「ほんと泣き虫なんだから笑」
r「だってぇ〜、、泣」
みんながステージでキラキラしているのに感動してしまったらしい涼ちゃんが感極まって泣いている。
楽屋のテレビからは、今も多くのアーティストたちがパフォーマンスをする姿が映し出され、華やかにステージを彩っていた。
w「まぁ、でもちょっと、羨ましくもなるよな。感受性が豊かってけっこう才能じゃない?」
僕も、それはそうかも、と静かに同意する。
なかなか感情を素直に表に出せる人って案外少ない。
大人になるとなおさら、周りの人を良くも悪くも気にしてしまうものだ。
m「そこが涼ちゃんのいいとこだよね」
そう言って、机に置かれていたティッシュを数枚取り、それを渡す。
すると、ありがとう、という少し湿度をもった感謝とぐしょぐしょになったティッシュが代わりに渡された。
w「あ、ちゃっかりゴミまで渡してる。笑」
m「もぉ、まじでさぁ〜笑」
r「あ。笑」
こんどはけらけらと、蕾が咲くその瞬間のような笑顔でこちらを見るものだから、ちょっとポンコツなところも愛嬌になってしまうのが少し憎い。
ほんとうに、花のような人だと思う。
ひとしきり笑った涼ちゃんは、こちらを見ると何かを思い出したように口を開く。
r「あ、でも。泣き虫でいうとさ、もときも昔そうだったよねぇ笑」
今でこそもう泣かなくなっちゃったけど。と付け加える。
どこか懐かしそうな表情でこちらを見ているけれど、言うほどではない気がする。
まぁ、たまにうまくいかなくて悔しくなっちゃった時もあったけど。
r「もときってさ、泣くとかわいいんだよ?
若井は知らないでしょー笑」
w「え、なに、マウント取られてる??」
r「あ、ちがうちがう。
もとき、若井には恥ずかしがって、今でも頑なに涙見せようとしないから笑」
前言撤回。
やっぱりポンコツだよ、この人。
なんで僕の恥ずかしいとこまでうっかり暴露されなきゃいけないんだ。
僕は、心の中で悪態をつく。
そして、涼ちゃんのことを少し睨んだ。
w「あ〜!もとき怒っちゃったよぉ、涼ちゃんのばかぁ〜、」
r「えー!ごめんごめん!
つまり!もときがかわいかったってことなの!」
なんだそれ。
全然理由になってないし。
しかもかわいかったって過去形かよ!
僕は、今度は不機嫌なオーラを隠しもせずに、腕を組んでそっぽを向く。
w「あ〜、またやっちゃった。笑無自覚で火に油注ぐの、ほんとやめなぁ?」
r「んぇ〜?ごめんねぇ、もときぃ泣」
そう言って、涙声で抱きつかれるものだから、僕のもやっとした心はいつも、いつの間にか絆されてしまう。
m「もぉ〜、」
r「…あれ、ちょっと照れてる?
顔赤いよぉ?笑」
m「もぉ〜!//やっぱ涼ちゃんいや!!」
w「ほんと、ふたりとも感情が忙しいなぁ笑」
りょうちゃん視点
少し乱雑に靴を脱ぐと、リビングのソファにぽすっと身体を埋める。
早くお風呂に入らなきゃと思いながらも、足の疲れが堪えてなかなか身体が動かない。
何かをする気にはなれなくて、ぼーっと天井を見つめる。
しばらくそうしていると、だんだんと意識が遠のき、瞼を上げる気にすらならなくなってしまった。
そして、眠気に誘われるままに両目を閉じた。
m「ぅ”、ひっく”、う”ぅ、ぇ泣」
r「あれ〜、もときぃ〜、、?って
え!どうしたの!?」
今日はミセスグリーンアップルとして何度目かのライブで、ちょうど反省会をしているところだったのだが、、
ちょっと話し合いがヒートアップしすぎてしまって、もときがどこかに行ってしまったのを探しているところだった。
ライブハウスの裏の廊下をずっと行った奥の方の部屋から物音がして、まさかと思って開けてみたら、もときが1人静かに泣いていた。
r「えっと、、大丈夫、?」
m「……、泣」
ずいぶん泣いていたのか、目の端は赤くなってしまっていた。
唇をきゅっと結んで、床をじっと見つめている。
r「…ねぇ、一緒に戻ろう?みんな、心配してるよ?」
目にいっぱいの涙を溜めては、それが頬を伝ってぽとりぽとりと落ちていく。
それを指で拭いながら、ぽんぽんと頭を撫でると、迷い犬のような怯えた瞳がこちらを捉える。
m「ぼ、ぼく、きょう、ちょっと、言いすぎちゃった、、」
大丈夫だと伝わるように、できるだけ意識的に優しく微笑む。
r「うん、…それだけみんな本気だったんだよ。もちろんぼくもね。笑」
みんなそれは解っているから大丈夫と、背中をさする。
すると、先ほどまで固く結ばれた唇から微かに吐息を漏らして、ふわりと微笑んだ。
そして静かに、けれど確かな志をその真っ黒な瞳に宿して、すっと立つ。
なんだか、親鳥が雛が巣立つのを見届けるのはこんな気持ちなんだろうかと頭の片隅で思った。
m「りょうちゃん、早くいかなきゃ置いてっちゃうよ?笑」
r「はいはい。笑」
r「う”、んぅ、…」
あれ。
あ、今のは夢か。
いつの間にか寝てしまっていたみたい。
なつかしいなぁ、、
そんなことを思っていると、視界の端の方に黒い影が見えた。
…って、なんか、おもい、、
下半身の方にずっしりとした重みを感じる。
m「あ、りょうちゃん。やっと起きた。」
僕のお腹に顔を埋めて、もぞもぞと喋っているもときがいた。
r「ちょっ、もときぃ、おもい、、」
m「え?なに?きこえなぁい」
そう言うと、けらけらと笑っている。
今はコンタクトしてないからよく見えないけど、きっといつものいたずらっ子な瞳で僕を見ているんだろうなぁと思う。
そうなってはしばらく好きにさせるしかないので、大人しくそれに従う。
もぞもぞともときの体が徐々に上の方に来ると、もときの髪が、さらりと僕の頬にかかるのを感じた。
するりともときの指が僕の耳を撫でる。
r「ちょ、くすぐったい、」
m「…りょうちゃん、いつの間にこんなピアス開けたの?」
出会った時はこんなに開いてなかったよね?となぜか少し不満気な声を漏らす。
r「え〜?たぶん、その時の気分で開けたんじゃないかなぁ、」
あんまり覚えてないやと言うと、信じらんない!絶対痛いのに!と大きな声でもときが叫ぶ。
r「んー?案外、そうでもないよ?あ、僕開けてあげよっか?」
m「えー、涼ちゃん変なとこ開けそうだからやめとく、、」
m「てか、付き合ってけっこう経つのになんか知らないことばっかり!」
そう言って、手足をじたばたさせる。
r「ふふ、ちょっと拗ねちゃうのもかわいいね」
さらりと髪をすくように撫でると、もときが僕の手を自身の頬に寄せて、にこっと幸せそうに微笑む。
昔から、この真っ直ぐな笑顔は変わらないなぁと思う。
r「あ。そういえば、さっき、昔の夢みたよ。」
m「え、むかし?」
r「うん、まだライブハウスでやってた頃の。
もときが、よく泣き虫してたんだよねぇ」
m「うわ、やな夢!そんなの、忘れちゃいなよ。」
r「えぇ〜、忘れられないよぉ。ほんとに、かわいかったんだって。」
m「もう!だからその、かわいかったっていう過去形やだ!」
r「あはっ、ごめんごめん。笑」
ソファの横の、机の上にある眼鏡を取ってかけると、鮮明になった視界で、もときと目が合う。
きゅっと端の上がった唇をむっとさせ、頬を膨らましている。
なんだか愛しさが溢れて、優しく触れるようなキスをする。
すると、ぶわっと白い頬が赤く染まり、真っ黒な瞳が揺れている。
もうあの頃の泣き虫な子は、めったに顔を出さなくなってしまったけれど。
どこまでも素直に、真っ直ぐに向き合ってくれるところは変わらないなぁ。
きっとこの先も。
ずっと、このビー玉のような瞳に。
真っ直ぐな表情に魅せられて。
心動かし続けられるのだろうと、
そう漠然と、思った。
君が、昔も今も、いちばんかわいいよ。
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