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「キス、したいなあ……」
「は」
食後の満腹感でぼんやりとしたまま呟いた言葉は、片付け中の彼の耳に聞こえていたようで。
思わず発したであろう声の方を振り向くと、食器を持ったまま固まっていた。
誰がどう見たって分かる。
“何言ってんだコイツ”って顔してる。
そんな顔を見ながら、もう一度言う。
「じんちゃんとキス、したい」
「いや、してんじゃん。いつも」
素っ気なくそう言い放って、片付けを再開する。俺の視線の先からは仁人が消えてしまった。その場所をぼ一っと見つめながら、伝える気もない弁明を頭に浮かべていく。
違うんだよ。今したいから、声に出したんだよってね。そりゃ確かにいつもしてるけど、何回したっていいものなんだよ。
そんな思いを込めたまま、愛情表現を求めた恋人を軽くあしらった彼に視線を移す。
黙々と洗い物をしている表情は、さっきまで俺に向けられていたものとは違い真剣だ。どうやらフライパンについた焦げが取れないらしい。眉をひそめて、口をきゅ、と結んでいる。
その口は喋りが達者でよく動くし、食事をする時だって結麗に食べるし、キスをする時だって…..。
ふとそんな事を思えば、やっぱりキスしたくなるものだ。そもそも、先程の欲は消えてなんかいない。
……よし。
仁人が惹き寄せられるような誘い文句だとか、触れた後のことだとか、そんな事は考えないまま、ソファから立ち上がり歩みを進める。
背後にまで迫ればさすがに気がついたようだ。散々フライパンへと向けていた顔を俺の方に向ける。そして、得意げにシンクを指差して言った。
「見て、勇斗。これすっげぇ焦げてたんだけどさ、なんとかっ…..ん….あ、」
自慢げな言葉を遮る。
すぐに口を離すと、小さく声を洩らした。
そして大きな目をさらに開いて俺を見つめながら、戸惑いを含んだ声音で続ける。
「ッ……なんだよ、きゅうに」
「言ったじゃん。キスしたいってさぁ」
したかったから、したわけよ。そういうもんでしょ?
もう一度口付けようとして顔を近づけるが、俺の口を手で覆ってそれを防ぐ。
ちょっと、濡れた手でやるのはやめてよね。
幸いすぐ解放されたので、シャツで口元を拭う。
仕方がないからこのまましてしまおうと少し強引に腕を掴むと、逃れようとして抵抗を示す。
「は、はやと、待って…..」
「…..なに?今いいとこじゃん」
「片付け、しねぇと、さ」
「俺がするから」
ね?と押し切るように迫れば、観念したのか次の言葉は出てこなかった。
しかしまだ戸惑いがあるのか、目をそらす。そんなことはお構いなしにロ付けた。
すると、さっきまでの抵抗の意は何処へやら。
俺の背中に腕を回して、ぎゅ、とシャツを握りしめてくる。
濡れた手で触れられると、シャツにじんわりと水が浸みてきて、それもまた俺を掻き立てる。
「ん、あう、ふ、……」
舌を絡ませたり、時々吸ったりすれば、我慢できずに洩れてくる声が堪らない。
合わせて、頬に添えた手で耳を擦るとぴくぴくと反応する。
口内を俺でいっぱいにした彼の姿に、俺の頭は満たされる。夢中で口付けていると、苦しくなったのか弱々しく俺を押し退けて口を離す。
「も、もういいだろ….ばかぁ…..」
「えー……もっとしたいんだけど、ダメ?」「ッ…!明日も仕事だからしねぇっ!」
「え、そっち….?もっとちゅーしたいって事だったんだけど…..」
「あっ、な…..う、…..バカッツ!!」
可愛い口から出たのは、なんとも子どもらしい言葉だった。
これ、もしかして押せばいけたんじゃないの?
今からでも遅くはないと、一度は拒否した彼を誘おうとするが素早くドアの方へ逃げられてしまった。
「俺もう風呂入るからな!」
「じゃあ俺も入るう」
「お前は皿洗えよっ!!」
どうやらこの後の俺の相手は、シンクに残った洗い物たちのようだ。
コメント
1件
うわ、めっちゃ甘かったです🥀 勇斗くんの「キスしたい」からの押しの強さと、じんちゃんのツンデレっぷりがたまらない…。食器洗いの手を止めさせて無理やりキスしちゃうシーン、濡れた手でシャツぎゅって握られるところとか、細かい描写がエモすぎました。最後の「お前は皿洗えよ」で終わるのも日常感あって好き。続き読みたいです!
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