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俺とルナの二人を乗せた魔道車は猛スピードでドラゴンたちの生息域である火山地帯に向かっていた。5頭のドラゴンを討伐した後、今回の事件の根本的な原因を探るべく直接ドラゴンたちの本拠地に乗り込んだ方が手っ取り早いという考えである。
「オルタナさん、本当にドラゴンたちの縄張りに行くんですか?さっきのドラゴンたちとは比にならない数がいるんですよ…」
「ああ、もちろん分かっている。確かに全てのドラゴンを一斉に相手にするとなると厄介だが、数だけではなく今から向かうところには先ほどのドラゴンとは比にならないほどの知能を持った個体だっている」
「そ、それだと余計に危ないんじゃ…」
「確かに知能が高いということはそれだけ強さも段違いだということだが、戦闘力という面以外にも突出している能力がある。今回はそれが秘策、という訳だ」
ルナはあまり俺の言葉にピンと来ていないようだがそれに関しては実際に目にしてみれば分かる事だろう。
道中で完全に日が暮れてしまったので安全なところに降りて野営を行うことにする。異空間から野営用の道具などを取り出してテントを組み立てる。
普段ならこれらの持ち物は万が一のための擬装用に持っていたものだが、こうやって実際に使う日が来るなんて思いもしなかった。
俺はテントを設営した直後に疲れたからと嘘をついてすぐに寝ることにした。もちろんルナと俺は別々のテントなので寝ているところをルナに見られることはない。
ルナは一人で薪で火を起こして簡単な料理をしていた。テントから覗き見る彼女の姿は少し寂しそうな気がしないでもないが、今の身体では食事なんてできるわけないので仕方がない。
もちろんテントの中に入って寝ていたわけではなく、俺はオルタナの体をオート防衛/スリープモードに設定して接続を断った。
この状態なら僕が接続していなくてもオルタナの周囲に魔物が現れたり、攻撃が迫ってきた際に自動で防御して僕のところに通知が来るという訳だ。
ちゃんと野営地に簡易結界を展開する魔道具も設置しておいたし、オルタナも待機状態ではあるのでおそらく問題はないだろう。僕も安心して休めるだろう。
そうして僕は自分の部屋で目覚め、お母さまの用意してくれた晩御飯の席に着いた。その食卓では先ほどまでここから遠くの地で戦っていたなんて嘘かのようにのどかな日常が広がっていた。
いつもこのギャップが不思議な感じがするのだが、いつまでたってもこの違和感には慣れることはないのだろうか。それだけオルタナとアルトの生活がかけ離れているということなのかもしれないな。
そうして僕は食事を済ませてゆっくりと休息を取り、俺の作った自動湯沸かしシステムでお湯を張った風呂に浸かる。実際のこの体はイスに座って眠っていただけなので何も疲れてはいないけど、精神はいっぱい冒険をしているのでなんだか疲れがお湯で流されていくような感覚がしている。
風呂も何もない森で質素な食事をしているルナに申し訳ない気持ちがないと言ったら噓になるけれど、こればかりは教えられないのでどうか許してほしいと心の中で彼女に許しを請う。
…けど、ちょっと待って。野外で普段と同じく食事や入浴が出来る魔道具があれば申し訳なさもなくなるのでは。少し検討してみる余地はありそうかも。
僕はそんな新しい魔道具の案を考えながら自室のベッドで眠りにつく。おそらく明日はハードな一日になりそうな予感がしているので、しっかりと精神の疲れを取っておく必要があるだろう。
そうして僕は深い眠りに落ちていった。
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「おはようございます、オルタナさん」
「ああ、おはよう」
翌朝、早めに準備をしてオルタナへと接続しておいたのでルナが起きる頃にはすでにテントを片付けて魔道衛星でドラゴンの生息地の様子をチェックし終えていた。ルナが起きるよりも前にオルタナを起動しておかなければ待機状態の不自然なオルタナを見られるかもしれないからな。
そしてルナが朝食を食べ終えてすべての準備を終えると俺たちはすぐにドラゴンの生息地へと向かうため魔道車へと乗り込んだ。
「これから向かうところは本当に何があるか分からない危険な場所だ。ルナ、防御は俺に任せて全力で支援だけに集中してくれ」
「了解しました…!」
俺は注意事項と気を引き締めるようにルナに伝えると魔道車を火山地帯に向けて発信させた。ここからは俺も用心して行動していかなければいけないほどの危険地帯である。
魔道車を走らせること数十分、俺たちは火山地帯の麓に到着して車から降りることにした。ここからはドラゴンの生息域なので下手に魔道車で突っ込んで撃墜されるわけにはいかない。
慎重に進んでいく必要があるためここからは自力で進んでいく。とは言ってもただただ歩いていくだけでは時間が果てしなくかかってしまうので飛行魔法を使って飛んで進んでいく。
飛行魔法はごく最近俺が開発した魔法なのでもちろんルナは使えない。だから俺はルナを背負って飛行魔法で進んでいくことにした。彼女であれば使いこなせそうな気がするので後日教えてみるのもいいだろう。
飛行魔法で火山地帯に突入し、斜面を登って奥へと進んでいくと辺りは徐々に気温が上がっていった。これほどの暑さだと流石に生身ではかなり辛い環境になってきている。無論、俺は生身ではないので暑さなどは全く関係ないのだがルナにとっては厳しいだろう。
だがルナは事前に温熱耐性上昇効果を持つ魔法を自分たちに付与していたことによって暑さや熱などの耐性を大幅に上昇させていた。それによってこの環境下でも比較的快適に過ごすことが出来ている。
この暑熱耐性や寒冷耐性などを上昇させる魔法というのは非常にマイナーなもので習得がかなり難しい魔法なのだが、あまり使いどころがないとして覚えようとする者が少ない。
そんな魔法まで覚えているなんて…と俺は正直非常に感心していた。出来ることは全て出来るようになっておこうという彼女の冒険者に対する強い意志が感じられるからである。
そうして斜面をひたすらに飛行魔法で登っていくと俺たちは広大な台地が広がっているところに辿り着いた。至る所にマグマが流れており、さらに上へと伸びる火山があったり、洞窟などが散見された。
「ここからが本格的にドラゴンの生息域だ。気を引き締めるぞ」
「はい…!」
ルナに対してそのように忠告し、俺は事前に考えて来た作戦を実行しようとしたのだがその直後にこちらへと高速で飛来してくる魔力反応を2つ感知した。
その2つの反応はすぐさま俺たちの目の前へと現れて大きな衝撃と共に地面に着地した。彼らは大きく鋭い眼光でこちらを睨みつけ大きな声で叫び始める。
「貴様ら、人の分際で我らの領域に侵入するとは万死に値する!」
「貴様ら、今の時期にやって来るとは運が悪かったな。嘆くなら人として生まれたことを恨むがいい」
やはりドラゴンの生息域までやってくれば人の言葉を話せるほどの知能を持った個体がいた。それほどの知能があるのであれば状況を合理的に判断できるはずだ。
…俺の秘策はその点にある。
「俺たちは話をしに来ただけだ。出来れば無駄な争いは避けたい。お前たちも余計な犠牲が出るのは本望じゃないだろ?」
「ほう?我らを目の前にしてその豪胆…よほど自信があるのか、それともただの愚か者か」
「ハッハッハ!!後者に決まっておるだろ、人如きが我らに勝るわけがあるまい!」
俺は話が少しでも通じるやつらで少し安心する。
これなら秘策が上手くいくかもしれないからな。
そうして俺は秘策を実行するべく現在の身体、オルタナシステムのリミッターを解除することにした。普段、この特別製のゴーレムは周囲への被害を抑えるために本来の実力の半分以下しか出せないようにシステムでリミッターをかけてあるのだ。
今回はそれを解き放って全力を発揮できるようにする。
それが俺の用意していた秘策だ。
「…リミッター、解除」
「…?!」
「な、何だ?!」
リミッターを解除した次の瞬間、俺の身体からとてつもない量の魔力が溢れだした。その強大な魔力の塊を纏って前方にいるドラゴンたちに強烈なプレッシャーを押し付ける。
「グゥ……..!!!」
「こ、これは………!?」
あまりの圧に2頭のドラゴンは一歩、また一歩と後ずさる。その様子を見て俺はゆっくりと一歩、また一歩と前へと歩いていく。
「さあ、どうする?大人しく話し合いに応じるか、犠牲覚悟で俺たちと戦うか。お前たちが合理的な判断が出来るドラゴンだと信じたい」
「「…..っ!」」
2頭のドラゴンは互いの顔を見合わせてアイコンタクトを行う。少なくとも彼らは俺の実力を正確に見定めることが出来ており、そしてどれほどの実力差があって戦えばどちらがどれだけの被害を被るかをちゃんと理解できているようだ。
数秒ほどの沈黙の後に片方のドラゴンがようやく口を開いた。
「……わ、分かった。話し合いに応じよう」
「賢明な判断、感謝する」
そうして俺はドラゴンたちに向けていた膨大な魔力によるプレッシャーを解いて話し合いを始めることにした。ちなみに後ろでこの状況を見守っていたルナはしばらくの間、息をするのも忘れてぐらいの緊張を感じていたようで俺が魔力を抑えた直後に大きく深呼吸をしていた。
「貴様…いやお主たちは何の用でここまで来たのだ?内容によってはいくらお主であろうとも我らが総出で相手することになるぞ」
「大丈夫だ、安心して良い。お前たちの不利益になることをしに来たわけではない。まずは自己紹介から。俺はオルタナ、こっちはルナ。俺たちは冒険者ギルドから依頼を受けてやってきた冒険者だ」
「よ、よろしく…お願いします」
隣で少し怯えた感じで挨拶をするルナ。まあ流石にさっき5頭のドラゴンを討伐したとはいえ、普通は強大なドラゴンたちを前に彼らと話すのは少し怖いよな。
「俺たちの受けた依頼は生息域を離れて町や村を襲うドラゴンの討伐とその原因の調査だ。お前たちにも心当たりはあるだろ?」
「…ああ、確かにここ最近この領域を飛び出して帰ってこない同胞がいるな。もしかしてお主たち、全て殺したのか?」
「ああ、ここ最近だと計6頭だ。俺がやった」
すると2頭のドラゴンは少し曇った表情をして再び顔を合わせた。隣で会話を聞いていたルナは「ちょっとオルタナさん!それを言っちゃまずいですよ!!!」と小声で叫びながら慌てていた。
「ほう、我らが同胞を殺しておきながらここへやってきたのか?」
「ああ、その通りだ。そのことについて謝るつもりはない。だってそうだろう、ここを出たお前たちの仲間も大勢の人を殺したんだ。そちらの仲間が先に仕掛けてきたのだから殺されても文句は言えないだろ?」
俺の言葉を聞いた2頭のドラゴンは睨みつけるかの如く厳しい目つきでこちらを睨み始める。途端に辺りの空気が重くなったように感じる。
一触即発のような空気を感じてルナは涙目になりながら俺の後ろで小さく震えて呟いた。
「あぁ…終わった…」