まずい…非常にまずい。
『(なんでよりにもよって…)』
私の苦手なキラーに当たるのよ…!
─数分前のこと。儀式に参加した私、ミン、ネア、ミカエラはマクミラン・エステートのコールタワーで行動を開始した。今回は一人寂しく発電機を修理する事は無く、ミンと合流して共に発電機を修理することが出来た。
「さっきそこのチェストで工具箱見つけたの。」
ミンは私に所々錆びている工具箱を見せた。恐らくアンコモンの『ボロボロの工具箱』だろう。
『使えるだけマシね』
「全くよ…」
彼女はそう言いながら箱の中に入っている部品を発電機に使っていく。そして修理している発電機が完了すると同時に、背後から心音が大きくなって行った。
『……ん?』
「来たわね」
それと同時に発電機が一台完了し、ミンと共に逃げた。
タッタッタッ!
「二手に別れるわよ!」
『分かった。』
ミンはそのまま真っ直ぐに、私は左に曲がって逃げた。しかし不運な事に私の方にキラーが近づいて来たため、そのままチェイスをする事にした。
カンッカンッ…タンッ!
「はっ、はぁ…!!ふふっ…」
後ろから聞こえる笑い声と、私に目掛けて投げる小さく独特な持ち手をしたナイフが、今回のキラーが誰なのかを教えてくれる。
今回のキラーは…
『(私の苦手な”トリックスター”だ…!)』
彼の投げてくるナイフは小さく威力も少ないが、連続で投げられてしまえばそのまま負傷、瀕死にさせる事が出来てしまう恐ろしいキラーだ。
バンッ!
窓枠を乗り越えたと同時に、私の背中に二本ほどナイフが突き刺さってしまった。
『うっ…くっ』
ジワッ…
背中から血が流れているのが服の上からでも伝わる。痛い…。しかし対策はちゃんと知っている。
タッタッタッ!
「あ、待ってよ〜!」
『(トリックスターってこんな声だったんだ…)』
私は固有の建物近くにあった岩が二つ並んだ場所へ移動し、そこをぐるぐると回ってチェイスを再び始めた。
彼の投げるナイフは直線にしか飛ばない。
だからこう言う自身の頭が隠れる程の遮蔽物がある場所でチェイスをすれば、彼のナイフは絶対私には当たらない。デメリットとして、キラーのステインを見るのが困難になるのは惜しいけど…。
「(あっ、ナイフが尽きた!補充してる間に逃げられちゃうし…このままバットで殴るか!)」
トリックスターが突然ナイフを投げる事を中断した。
『(これはチャンス)』
そろそろこの場を離れようとした瞬間。
ブンッ!!…グシャッ、バキッ!
『あ”ぁ”っ…かはっ!』
「───っ!!(なんて美しい音なんだ…♡)」
トリックスターの武器…─確か、オーダーメイドで作られたんだっけ?─メリケンサックが着いたバットが、私の肋に直撃した。突然の骨が折れる音、失神レベルの痛み、口の中に広がる血の味…。
『(逃げなきゃ…!)』
気持ち悪い感覚が襲ってくるが足は何故か動くため、とにかく彼から離れようと私は走った。
タッ…タッタッ!
不規則に走る度、視界がボヤけ吐き気を催す。
『ぐうっ…くっ……かはっ…ひゅー…ひゅー…』
肋が折れて、息が上手く出来なくなる。意識も朦朧としているが、何故か気を失ったり倒れたりしない…。
『(この世界の仕組みはどうなってるんだ…?)』
しかし発電機は残り一台。このまま私が頑張れば皆で脱出することが出来る。とりあえずこの傷では何も出来ない。味方を見つけて治療して貰わなければ。そう思い私は再び走ろうとした瞬間。
「みーつけた♡」
『!』
ヒュンッ!トスッ
『い”っ…』
トリックスターの声が聞こえたと同時にナイフが背中に命中してしまった。まずい…あと数本でも突き刺さったら私は瀕死になってしまう!
『はっ…はぁ…ごほっ…』
「ねぇ待ってよ〜!君、呻き声が小さいからもっと近くで聞かなきゃダメなのに〜!」
『(知らねぇよ…!)』
私情を持ち込まれ何故か苛立つ。確か彼はこの世界に来るまではアイドルをしてたんだよな?容姿も整っているし声も良い、オマケにファンサもするという女子からしたら完璧な男のため、私のいた現実でも彼を推している人は沢山いた気がする。
「ねぇお願い、一瞬でいいから止まってよ〜!君をフックに吊ったら君のその音を録音したいんだ!」
しかしここまで私情を持ち込んでくる奴だとは思わなかった。それが彼の魅力でもあるが…しかし如何せんムカつく男だ。皆急いでくれ…発電機の修理はまだ完了しないのか!?
『はっ、はぁ…ふ…ぅう”……、くっ…』
「ああ〜、吐息っぽい音は新鮮だなぁ♡ねぇ、もっと聞かせてよっ!」
ブンッ!!…グシャッ
『あ”あ”っ!!』
背後から再びバットを振りかざされ、無情にも私は瀕死になってしまった。
バタッ…
『ひゅー…ひゅー…』
気を失いそうな程の痛みに頭が働かなかった。
「あれ、強くやり過ぎたかな〜。まぁいっか!さ、フックに行こうね〜」
ガシッ!
『うっ』
トリックスターに担がれたと同時に、彼の肩に折れた肋が当たる。
ゴリュッ…ミシミシ…
『あ”あ”あ”っ…!!』
「いい音だねぇ!でも、肋を折っちゃったのはごめんね?君の音があんまりにも良くてさ…。僕もつい加減
を忘れちゃった。」
反省、反省!と悪気が無いように高らかに笑いながら私をフックに吊るそうとした。と同時に、ゲートが通電する音が響いた。
「…ちっ。少し時間をかけ過ぎたか」
『かはっ…ぐぅ……っ、離せっ……!』
「はいはい大人しくしてね〜」
意識が朦朧としながら必死に挑発するも虚しく、私はフックに吊るされてしまった。肩を貫通するフックの鋭い痛みに耐えきれず思わず叫んでしまう。
『あぁ”ぁぁあああああーー!!!』
「いい音だ♡録音しててよかった〜」
私を吊っているフックは、ちょうどゲートに近い場所だ。だから、味方が私を助けてくれれば皆で脱出出来る。しかし一向にトリックスターは私の元を離れない…これはあれだ”キャンプ”だ。
「あ、自己紹介が遅れたね!僕はトリックスター!」
『(知ってる…)』
私を吊っているフックの周りをぐるぐると歩きながら彼は言う。
「君の事、教えてよ!」
『キラー、に…私の…情報は、出回ってないの?』
喋る度にフックが貫通している場所が痛む。
「そうだね。普段は『新しいサバイバーが来た』ってエンティティから教えられるけど、その他の行動パターンや特徴はゴスフェを通って皆知るからね。」
なるほど、つまりゴーストフェイスがキラーにとってキーパーソンという事だな。私達サバイバーは儀式を繰り返す内にキラーの特徴等を知るけれど、彼は人を”見る目”が桁違いにある。会話を交わさなくても、見るだけで相手の癖や特徴を知れるんだ。だからサバイバーの情報がキラー達に出回ってるのか。
「僕ビックリしたよ。あのゴスフェでも君の事を知らないなんてね。だからね、教えてよ。キラーで初めて、君の全部を知るのは僕なんだからね」
そう言いながらナイフを私の頬に押し付ける。余程研いでいるのか、少し強めに押し付けられただけでプツッ…と音を立てて私の頬が切れる感触がした。
『っ…』
「ほぉら、焦らさないで速く言ってご覧?そろそろ処刑段階に入っちゃうよ?」
そっちの方がずっと良い。キラーに自分の事を話すなんて絶対に嫌だ。
『……(あ、)』
周りには既にミカエラ達が遮蔽物に隠れて救助の隙を狙っていた。しかしトリックスターはずっと私の近くにいるため、フックに近づくことは絶対に無理な状況である。
─これ以上味方に迷惑は掛けられない…速い所脱出して貰おう。私はフックから自力で脱出しようともがいた。たった4%に賭けて。
「っ!バカっ…!」
一瞬、ミンがそう言ったように聞こえたがもう遅い。私は自力脱出に失敗し、エンティティが現れてしまった。
『くっ…!』
ガシッ…!グググッ…
エンティティの尖った足が私の心臓部分を狙ってくる。それに対抗しようと両手を使って止める。
『ぐっ、ぅ……。っ、皆逃げろ…!!!』
私がそう言ったと同時に周りで私を助けようとしていた皆がゲートへと走って行く。そうだ、それでいい。
「君って他人の命を優先しすぎじゃない?でもいっか!その音もそそるし♡」
それを聞いたと同時に私はエンティティに処刑されてしまい、最後に見たのは恍惚とした表情で私を見つめるトリックスターだった。
─トリックスターは、彼女の魂がエンティティに捧げられるのを見ながら笑った。
「いい音を持つルーキーだったなぁ…。次はもっと沢山話せる様に、這いずり放置でもさせようかな?」
そう言いながら彼はキラー達の居る場所へと戻って行ったのであった。
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