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魔物たちがマネージャーになって数日。
阿部たちは。
一つ分かったことがあった。
三人ともものすごく仕事ができる。
そして。
少しだけ守り方が過剰だった。
その日。
阿部、渡辺、深澤は。
朝から番組収録だった。
地下駐車場へ降りると。
すでに。
龍崎。
白井。
鬼頭が待っている。
「おはようございます」
三人揃ってきれいに頭を下げた。
「おはよう」
阿部も返す。
渡辺はまだ少し眠そう。
深澤も大きな欠伸をしている。
龍崎が阿部のバッグへ手を伸ばした。
「お持ちします」
「いいよ、これくらい」
「いえ」
「軽いから」
「お持ちします」
「……じゃあお願い」
阿部が渡す。
その横。
深澤も自分のバッグを持っている。
龍崎が見る。
「深澤さんも」
「俺?」
「はい」
「いや、俺のも軽いよ」
「お持ちします」
「大丈夫だって」
龍崎は深澤の荷物を見る。
「本当に?」
「うん」
数秒。
龍崎は考える。
それから。
「承知しました」
引いた。
深澤が少し驚く。
「ちゃんと引くんだ」
阿部が笑う。
「言えば分かってくれるんだね」
渡辺が。
「それ、普通なんだけど」
と突っ込んだ。
撮影現場へ着く。
楽屋へ入る前。
鬼頭が廊下の先を確認。
反対側も確認。
スタッフの動きも確認。
そして。
ようやく。
「どうぞ」
と扉を開けた。
渡辺がじっと見る。
「何確認したの?」
「周囲の安全です」
「楽屋前だよ?」
「はい」
「敵いないけど」
鬼頭は真顔だった。
「敵は、いると分かっている時だけ現れるものではありません」
渡辺が止まる。
深澤が。
「なんか強いこと言ってる」
と笑う。
阿部も。
「元ゴブリンなのに」
と小さく言った。
鬼頭が。
少しだけ傷ついた顔をする。
「あ、ごめん」
白井は別の意味で完璧だった。
楽屋へ入ると。
すぐに室温を確認。
飲み物。
台本。
スケジュール。
次の衣装。
昼食。
すべて揃っている。
阿部が座ると。
「阿部さん、お水です」
「ありがとう」
渡辺が座る。
「渡辺さん、コーヒーです」
「早」
深澤が。
「俺は?」
と聞く。
白井はすぐに紙コップを置く。
「緑茶です」
深澤が。
「頼んでないのに正解」
と言う。
阿部が笑う。
「スライムすごいね」
白井が。
「人間の姿でも、観察は得意です」
と真面目に答えた。
渡辺が。
「もう隠す気ないじゃん」
と呟く。
収録が始まる。
三人は必要以上に前へ出ない。
でも。
必ず。
阿部たちが見えるところにいる。
移動する時。
龍崎は自然に外側。
鬼頭は後方。
白井は少し前。
三人で。
阿部、渡辺、深澤を囲む形になる。
深澤が歩きながら小声で言う。
「これさ」
「何?」
阿部が聞く。
「護衛対象みたいじゃない?」
渡辺が。
「みたいじゃなくてそうなんでしょ」
と答える。
「でもちょっと恥ずかしい」
阿部が言う。
その瞬間。
前を歩いていた白井が振り返った。
「距離を取りますか?」
阿部が驚く。
「聞こえてた?」
「はい」
「耳いいね」
「元スライムなので」
「関係ある?」
「分かりません」
白井自身も分かっていなかった。
阿部は笑ってから。
「もう少し普通でいいよ」
「承知しました」
三人は少しだけ距離を広げた。
それでもちゃんと近くにいる。
阿部はその後ろ姿を見る。
守ってくれる。
でも。
自分の行動を制限するわけではない。
「一人で行かないでください」
とも。
「ここにいてください」
とも言わない。
必要な時だけそこにいる。
それが。
阿部にはちょうどよかった。
昼休憩。
三人で楽屋へ戻る。
白井が昼食を並べる。
渡辺が何となく阿部を見る。
阿部も気づく。
でも今日は何も言われない。
阿部が弁当を開ける。
「食べるよ」
渡辺が。
「聞いてないけど」
と返す。
「顔が聞いてた」
「聞いてない」
「絶対聞いてた」
深澤が笑う。
その会話の横で。
白井が何かをスマートフォンへ入力していた。
阿部がふと見る。
「白井くん」
「はい」
「何してるの?」
白井の指が止まった。
「業務報告です」
「誰に?」
「……」
白井が黙る。
阿部の目が細くなる。
「誰に?」
白井は少し困ったように龍崎を見る。
龍崎も鬼頭を見る。
鬼頭も龍崎を見る。
三人とも妙に分かりやすかった。
渡辺が。
「怪しい」
と呟く。
深澤も。
「めちゃくちゃ怪しいね」
阿部は手を出す。
「見せて」
白井が少し迷う。
「魔王様」
「見せて」
「……はい」
スマートフォンを渡す。
阿部は画面を見る。
そして固まった。
『本日の阿部様』
その下。
『朝食:確認済み』
『体調:良好』
『撮影:問題なし』
『昼食:これより摂取予定』
『笑顔:あり』
『異常:なし』
阿部は無言になった。
渡辺が横から覗く。
「何これ」
深澤も見る。
そして吹き出した。
「飼育日記じゃん」
「やめてよ!」
スクロールする。
送り先。
目黒。
阿部はさらに無言になる。
「……めめ?」
龍崎が少しだけ頭を下げる。
「目黒様より」
「頼まれたの?」
「いえ」
阿部が顔を上げる。
「違うの?」
「我々が自主的に」
「自主的?」
鬼頭が説明する。
「目黒様がご不安であることは承知しておりますので」
白井も。
「少しでも安心していただければと」
「だから毎日?」
「はい」
渡辺が。
「笑顔ありって何」
と笑う。
深澤も。
「そこ必要?」
白井は真剣だった。
「大切かと」
阿部が額を押さえる。
「めめ、これ毎日見てたんだ……」
龍崎が。
「大変安心されております」
「そりゃ安心するだろうけど」
阿部はもう一度画面を見る。
『笑顔あり』
『異常なし』
『帰宅予定時刻――』
本当に。
一日の様子が。
かなり細かく報告されている。
でも。
怒るほどではなかった。
目黒が心配していることも。
三人が良かれと思ってやっていることも。
分かる。
それでも。
「毎日はやめよう」
三人が一斉に見る。
阿部は続ける。
「俺、ちゃんと自分で連絡するから」
「はい」
「でも」
少し考える。
「体調悪いとか」
「予定外のことがあったとか」
「本当に何かあった時は、めめにも連絡して」
龍崎が頷く。
「承知しました」
白井も。
「通常時の報告は控えます」
鬼頭が。
「緊急時のみといたします」
「うん」
阿部は。
白井へスマートフォンを返す。
「あと」
「はい」
「笑顔ありはもう送らなくていい」
白井が少し残念そうな顔をした。
「不要でしょうか」
「不要」
深澤が。
「俺は好きだけど」
と言う。
渡辺も。
「今日の阿部ちゃん、笑顔あり」
と真顔で言う。
「二人ともやめて」
楽屋に。
笑い声が広がった。
午後。
移動の車。
深澤は後部座席でぼんやり窓の外を見ていた。
阿部が隣。
渡辺は反対側。
前には。
龍崎と白井。
今日は鬼頭が別の車で荷物を運んでいる。
少しして。
深澤の頭が。
こくん。
と揺れる。
また。
こくん。
阿部が見る。
「ふっか寝れば?」
「いや」
「眠いでしょ」
「別に」
そう言いながら。
また目を閉じる。
渡辺が。
「寝ろよ」
と言う。
深澤が。
「でも次の現場の流れ確認しないと」
白井が前から振り返った。
「こちらで確認しております」
「いやでも」
「変更点があれば起こします」
「……」
「必要な連絡も私どもで対応いたします」
深澤が少し黙る。
以前なら。
全体の予定。
スタッフとのやり取り。
メンバーの空気。
何となく。
全部を自分でも把握していないと落ち着かなかった。
誰かが困ったらすぐ動けるように。
自分だけはちゃんとしていないと。
でも。
今は。
前に妙に仕事のできるスライムがいる。
隣には阿部と渡辺。
そして。
自分が寝ても誰も困らない。
深澤は小さく息を吐く。
「じゃあ」
少しだけ笑う。
「十分だけ」
阿部も笑う。
「どうぞ」
深澤が目を閉じた。
白井が後ろへブランケットを渡す。
阿部が受け取り。
深澤へ掛けた。
渡辺が小さく言う。
「過保護」
阿部が。
「翔太に言われたくない」
と返す。
「俺もう減らしてるし」
「知ってる」
渡辺は眠っている深澤を見る。
それから前を見る。
龍崎。
白井。
別の車には鬼頭。
自分たちを守る人が増えた。
だから。
自分が阿部をずっと見ていなくてもいい。
深澤がずっと場を回していなくてもいい。
それが。
少しずつ分かってきた。
次の現場。
休憩中。
渡辺は。
阿部の隣に座っていた。
阿部は。
普通にお菓子を食べている。
渡辺が何となく見る。
阿部も気づく。
「何?」
「別に」
「食べてるよ」
「聞いてない」
「知ってる」
阿部が笑う。
渡辺も少し笑った。
視線の先。
少し離れたところで。
鬼頭がスタッフと話している。
白井はスケジュール確認。
龍崎は周囲を見ている。
渡辺がぼそっと言う。
「楽だね」
「何が?」
「前より全部見てなくていい感じ」
阿部はその言葉を聞く。
「俺のこと?」
「それも」
「それも?」
「ふっかも」
渡辺は、さっき車で眠っていた深澤を見る。
「前だったら、絶対寝なかったじゃん」
「うん」
「俺も」
少しだけ笑う。
「あべちゃんがちゃんと食べたかとか」
「一人になってないかとか」
「なんとなく見てた」
阿部は黙って聞く。
「でも」
渡辺は三人のマネージャーを見る。
「今、あいつらいるから」
「うん」
「全部俺らで見なくてもいいんだなって」
阿部が小さく笑う。
「そうだね」
渡辺は少しだけ肩を落とす。
力を抜くように。
「楽」
今度は阿部も笑った。
「よかった」
魔物マネージャーが来て。
二週間ほど。
事務所で。
また三人。
会議室へ呼ばれた。
阿部。
渡辺。
深澤。
そして。
龍崎。
白井。
鬼頭。
マネージャーが。
資料を持って入ってくる。
阿部が。
「何かありました?」
と聞く。
「いえ」
マネージャーは。
少し笑った。
「逆です」
「逆?」
「この三人について」
龍崎たちが一斉に姿勢を正す。
マネージャーが三人を見る。
「正直」
少し間。
「予想以上に優秀です」
龍崎が深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「時間管理」
「移動」
「現場対応」
「スタッフとのやり取り」
「荷物管理」
「安全確認」
「全部かなり正確です」
白井も頭を下げる。
鬼頭も真剣に聞いている。
深澤が。
「ですよね」
と言う。
渡辺も。
「初日から完璧でした」
阿部は少しだけ笑う。
「元魔物だからですかね」
「え?」
「何でもないです」
最近このやり取りにも慣れてきた。
マネージャーは続ける。
「ほかのスタッフからも評判がいいです」
「気が利くし」
「何より皆さんの安全確認が徹底してる」
「ただ」
一度、龍崎を見る。
「荷物を全部一人で持とうとするのはやめましょう」
龍崎が少しだけ俯く。
「はい」
深澤が吹き出す。
「注意されてるじゃん」
「申し訳ありません」
マネージャーが今度は鬼頭を見る。
「楽屋前を毎回三周確認する必要もありません」
「二周でよろしいでしょうか」
「一周で十分です」
「承知しました」
渡辺が顔を伏せて笑っている。
最後。
白井。
「白井さん」
「はい」
「仕事は完璧なんですけど」
「はい」
「冷蔵庫の飲み物を種類別、賞味期限順、温度別に並べ直したのは」
少し間。
「誰から頼まれました?」
白井が真顔で答えた。
「誰からも」
阿部が吹き出した。
「やったんだ」
「効率がよいかと思いまして」
「やりすぎです」
「申し訳ありません」
会議室に笑いが広がる。
でも。
マネージャーも最後には笑っていた。
「まあ」
資料を閉じる。
「細かいところはこれから覚えていけばいいです」
「三人とも、引き続きお願いします」
龍崎。
白井。
鬼頭が。
揃って立ち上がる。
「ありがとうございます」
そして。
深く頭を下げた。
「今後も」
龍崎が代表して言う。
「皆様のお役に立てるよう、尽力いたします」
阿部が少し笑う。
「よろしくね」
「はい」
会議が終わる。
廊下へ出て。
深澤が大きく伸びをした。
「いやあ」
「何?」
阿部が聞く。
「魔物って社会人向いてるんだね」
渡辺が。
「三人だけで判断するなよ」
と返す。
白井が後ろから。
「光栄です」
と言う。
「褒めたつもりじゃない」
深澤が笑う。
その隣。
龍崎が三人を見る。
「本日、この後は移動です」
「うん」
「お車をご用意しております」
阿部が。
「ありがとう」
と答える。
それから。
ふと三人を見る。
最初は。
突然現れた。
ドラゴン。
スライム。
ゴブリン。
だった。
でも。
今は。
普通に。
仕事へ連れていってくれる人たち。
守ってくれる人たち。
そして。
少しずつ。
阿部だけでなく。
渡辺や深澤。
目黒まで。
安心させてくれている。
深澤が歩きながら言う。
「今日移動長い?」
白井が答える。
「四十分ほどです」
「じゃあ寝よ」
阿部が笑う。
「もう最初から寝る気じゃん」
「だって起こしてくれるでしょ?」
白井が。
「もちろんです」
と即答する。
渡辺が。
「慣れすぎ」
と言う。
でも。
その声も。
少しだけ楽しそうだった。
龍崎が車の扉を開ける。
三人は乗り込む。
守ってくれる人が増えたから。
自分たちも。
少しだけ、力を抜けるようになった。
それも。
きっと、悪くない。
阿部は。
座席へ座りながら。
小さく笑った。
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今晩は⭐️ 一気に読みました。 現実と夢の世界繋がりすぎ😁 皆んながまだまだ何かを抱えてる それがほんの少しづつ軽くなって行って居る 所々コントですかてのも楽しい😀 続き待ってます♪
第5話読了!🖤💚 もうね、狩野日記(違う)の「笑顔あり」には笑ったけど、阿部ちゃんが怒らずに「自分で連絡するから」って言うところが優しすぎて泣ける😭✨ でもめめが毎日あれ見て安心してると思うと、カップル尊い…。 それに、渡辺が「前より全部見てなくていい」って素直に言えたの、成長だし仲間感あってじーんとしたよ。ふっかが車で寝られたのも、白井たちがいる安心感の証拠だね。 魔物たちが少しずつ距離感を掴んで、でもちゃんと守ってくれる。この関係性が本当に好き〜!💕 次回も楽しみにしてるよ!
まきぴよ
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おその★
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