テラーノベル
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主はパーティーで出会ったユーハンから教えてもらった魔力のコントロールの訓練に精を出していた。ハウレスと一緒に庭から森の泉まで走って往復し、フェネスと一緒に筋トレをして、ベリアンと一緒に瞑想をして…そんな毎日を続けているとだんだんユーハンの言っていたことが理解できるようになってきた。自分の中にある力の流れがだんだん分かるようになって、魔力は常に身体から放出されておりそれを溜めることで力の開放を行った際に執事達へ供給できる魔力量が増えて有利に戦いを進められること、貯められる魔力量の限界は主の体力と気力によって変わってくること、興奮した時などは大量の魔力が使えることなどが分かってきて、あとは執事達の傷を癒したり体力を回復させたりするためにはどのくらいの魔力量を供給すればいいかを覚えれば実戦で役に立てるだろうとルカスは太鼓判を押した。
しかし、そんな生活が続けられるということは貴族たちからの依頼がぱったりと途絶えてしまったせいだった。フィンレイが気を遣って生活費を仕送りしてくれているとはいえ18人が食べていくのにかかるお金はかなりの額になる。ナックは毎日帳簿と睨めっこして削れるところは削って食費を何とか捻出していた。主はそんな様子を見て自分が見世物になってもいいから依頼を受けてほしいと言った。貴族たちから届く依頼はどれも人間を連れていることを見せつけたいから主を数日貸してほしいというものばかりで、悪いものだと人間と獣人のハーフが欲しいから子供を産ませて寄こせと言うものだった。それでも主は皆の役に立てるなら見世物になろうが人間の血を引いた子供を産まされることになろうが構わないと言った。しかし、執事達は主を使って金を稼ぐことに否定的で誰もそれに頷かなかった。
『どうして?私が数日貴族のところでペットになっていれば一ヶ月分の食費くらいのお金がもらえるんでしょ?何も悪いことないじゃん。私だけじゃなくて世話係の執事も連れてきていいって言ってくれてる貴族のところなら安心じゃない?』
そう言うとベリアンは今にも泣きだしそうな勢いで止めてくる。
「主様はペットというのがどういうものなのか理解していないからそんなことが言えるのです!ペットは愛玩動物です。主人に可愛がられるために存在する生き物です。主人の言うことは絶対で、何をされても文句を言えない立場なのですよ?自分達より遥かに能力が劣っているのにものすごい魔力を持っていてその胎に自分の子を孕ませることができる存在があったらどう愛玩するか…主様は分かっていないのです。子供を寄こせと依頼してくる貴族たちは誰の種で孕んだかも分からない子供を育てたくないだろうと踏んで依頼を寄こしているのでしょう。その子は一生貴族の娯楽の為に使われるか軍に高くで売られるかの二択です。そんなの嫌でしょう?主様が下衆な貴族に体を暴かれるだけでも許せないのに、命がけで産んだ子を金の為に貴族に渡すだなんて…そんなことになるなら絶対に依頼など受けられません。主様の役割は子供を孕んで産んで金を稼ぐことではなく、天使狩りのための大事な戦力です。それだけは分かってください」
『…でも、それじゃ私皆の役に立てないじゃない…皆が最近お菓子も本もティーカップも服の生地も薬も我慢して買わないようにしてるの知ってるよ。私のせいでカツカツの生活することになってるのに私は一銭も稼げないのは嫌だよ。天使狩りだけじゃ食べていけないし、私は皆のためなら身体を好きにされても、子供を産むことになっても構わない。だから…』
「主様!そのようなことを仰らないでください!貴族たちの弱みを握って金をむしり取るようにすれば交渉でお金は手に入ります!ですからその尊い身体は誰にも触れさせないでください…お願いです…」
ルカスが珍しく主の言葉の上から言葉を被せる。いつも貴族に対して冷徹で卑劣に弱みを握って金を巻き上げている執事とは思えないほど語尾は弱くなっていた。
『じゃあどうしたらいいの…私ご飯食べるだけでお金も稼げなくて、戦闘にも参加できない…どうやって皆の役に立ったらいいの?』
主の瞳から涙がぽたぽたと落ちていく。主は元の世界で両親を失ってから引き取られた家庭で中学生の間は毎朝の新聞配達をして学校に行き家事も全てする生活を続け、卒業したら近所のコンビニでバイトをして給料のほとんどを家庭に入れていたので、金も稼げない無能が美味しいご飯を毎日お腹いっぱい食べさせてもらうだなんて考えられなかったのだ。
主が天涯孤独となって苦労してきたことを知った執事達は一層主を大切にして守らなくてはいけないと決意を固めた。
「ご安心ください、主様には主様にしかできない力の開放や魔力の譲渡などができるのです。役立たずだなんて仰らないでください。主様は居てくださるだけで私たちの士気を上げて安全に天使狩りを行えるようにしてくださる、まるで女神のような存在なのです。それを自分の快楽や見栄だけしか見えていない貴族に汚されるくらいならば、どんな方法を使ってでも全員が満足できるくらいのお金を毟り取ってきます。ですからどうかご自分を道具のように考えないでください。主様はここに存在してくださるだけで十分お仕事をなさっているのですから」
ナックの言葉に皆が頷く。
「野菜なら畑を広げればもっと収穫量も増えるから食費はまだ削れる余地がある」
「肉なら狩りに行く回数を増やして獲物も選ばなければタダで手に入るからな」
「魚なら毎朝釣りに行って調達してくるよ」
「値切り交渉なら任せとけよ!絶対に安くて美味い食材を見つけてくるんで!」
バスティン、ボスキ、ミヤジ、ロノが声を上げる。
「薬草なら育てればいいだけです。ちょっと手間はかかりますが皆の怪我も減っていますし薬代もまだまだ削れます」
「俺も!新しい生地じゃなくてもリメイクでドレスを仕立てれば新しい生地は殆ど使わないので服飾品の予算だってまだまだ削れます!」
「使い倒してボロボロになったタオルとかを雑巾にして使ったら掃除にかかるお金なんてゼロでも大丈夫だもんね!」
「毎日の紅茶の茶葉ももっと安いものに変えても大丈夫です。どんなに安い茶葉でも美味しく召し上がっていただけるよう研究しますから、紅茶の予算も減らせます」
ルカス、フルーレ、ラムリ、ベリアンが続ける。
身を切るようにしてでも主の為に節約しようとしてくれる執事達の心遣いに主は涙が止まらなくなってしまった。
ラトが主を抱きしめて頭を撫でる。
「主様はずっと頑張っています。だからこれ以上頑張らないと…だなんて思わないでください。主様の幸せが私の幸せです。それを奪おうとしないでください」
『ありがとう、ありがとう、皆…』
主はラトの腕の中で泣きじゃくって皆にこんなに大切に思われていたのだと再確認して、何もできなくてもお金を稼げなくても居場所があることに安心して、緊張の糸が切れたように眠ってしまった。
うー!うー!うー!
深夜に非常ベルが鳴り響き、執事達と主は飛び起きて天使がどこに現れたのかを確認する。
「東の大地との境界線に近いところですね。サルディス家も軍を派遣したと連絡が」
「それなら民間人の被害は少なくて済むかもしれないが…サルディス家か…」
ハウレスの報告にボスキが渋い顔をする。
「サルディス家の軍と一緒に戦うのですか…主様が不快にならなければいいのですが」
ラトが恨めしそうに主の肩に顔を乗せてそう呟く。
『サルディス家の軍って…人間を使ってるっていう…?』
主がフィンレイがパーティーで言っていたことを思い出してそう尋ねる。
「人間の村落を襲って管理下に置き、人間の魔力と獣人の身体能力を持つ子供を産ませて軍で使っているという噂もある。その軍でないといいのだが…」
バスティンが眉を寄せながら馬と馬車を用意して主を馬車に乗せる。
馬車と馬でできる限り早く移動する間、主は人間を物のように使っているサルディス家にとって主は格好の獲物だから力の開放が終わったら戦場から離れて待機するようにと言いつけられた。主の護衛にはベレンとシロが選ばれ、2人は主から絶対に離れないと両脇を固めていた。
天使が現れたであろう場所に到着する頃には太陽が昇っていないのに空が光り輝き、無数の天使達が空から舞い降りてきていた。そして、天使に囲まれながら戦っている獣人達が居るのを確認し、あれが恐らくサルディス家の軍だと思われる。天使に囲まれて劣勢に見えるので今すぐにでも加勢するべきだと判断して執事達は己の武器を握って馬車と馬から飛び降りて天使達に向かっていく。
『執事達の力を開放せよ!』
主が力を開放すると執事達の身体にうっすらと光が宿る。今まで力を開放しても光るほどの魔力を譲渡できたことはない。今なら無数に舞い降りてくる天使達を倒してサルディス家の軍を助けることも出来るかもしれない。執事達はいつも以上に軽い身体と武器を最大限活用してどんどん天使を消していく。
サルディス家の軍を包囲していた天使達が消えるとサルディス家の軍はその隙間から抜け出して逆に天使達を囲んでいく。
「数で勝て!!悪魔執事達の支援を最優先にしろ!!一匹も逃がすな!!」
良く通る声で指示を飛ばすサルディス家の軍の指揮官はどんな人なのだろうかと主が少し離れた馬車の近くから探していると、見覚えのある三つ編みと鈴の髪飾りを付けた人物を見つけた。その人物は徐々に天使達から距離を取って軍へ指示をすることに集中していて戦っている悪魔執事と軍人たちへ絶えず声をかけ続けていた。
『ユーハンさんだ…でもなんで直接戦わないんだろう?前は戦ってるって言ってたのに…』
その疑問にベレンが答える。
「人間ってさ、弱いんだよね。怪我をしたら治りにくいし止血にも時間がかかるし痛みにも弱いし…だったら膨大な魔力で味方のサポートをするほうが合理的なんだよ。あのユーハンって人間は軍の全員に魔力を分け与えて勝率を上げるために派遣されたと考えたほうがいい」
『そうなんだ…』
主は確かに自分が体を鍛えて天使を倒すよりも執事達に魔力を譲渡して戦ってもらったほうが合理的だということは理解していた。だからこそ怪我をしたり体力切れになったりした執事達を癒すために体力と魔力は温存して離れたところから執事達が戦うのを応援している。ユーハンも同じなのかな?と観察していると、サルディス家の軍に囲まれて逃げられなくなった天使達を悪魔執事達がどんどん消していく。ユーハンはこれ以上できることはないだろうと判断したらしく主達のところへ駆けてきた。
「お久しぶりですね、悪魔執事の主。貴女は最初に魔力を譲渡した後は何もしないのですか?常に魔力を供給することで身体強化ができるはずなのですけど…」
『お久しぶりです…私は身体能力の強化は悪魔の力の開放でしかできなくて、魔力の譲渡をすると体力と怪我が回復するんです』
「興味深いですね。魔力の質は変わらないはずなのに…個体差が大きいということでしょうか?私の魔力の譲渡では味方の身体能力を上げることしか出来ないのです」
『個体差…なんですかね?』
「それとも純血の人間と混ざりものの違いか…是非貴女を徹底的に調べてどうして怪我や体力を回復させられるのか解明したいところですね」
『混ざりものって…?』
「…この世界の純血の人間の数はご存じですか?近年調査したところ60人前後と言われています。そしてその半数がサルディス家の管理下に置かれています。サルディス家は人間と獣人の間にも子供ができると知ってから人間と獣人のハーフを作って魔力の高い獣人を生み出して軍事利用しているのです。私は獣人の父と人間の母の間に生まれましたが人間の血が濃くて獣人の特徴を持たない見た目で生まれて珍しいからとフブキ様に献上されたのです。でも獣人の身体能力があったので軍事利用に回されて今では少佐です。人生どうなるかなんて分かりませんね。これからも我が主であるフブキ様のお役に立ってもっと上を目指したいです。そうすれば人間を家畜やペットではなく自分の意志を持って戦える生物だと証明できますから」
主は人権など認められていない環境で少佐にまでなったユーハンは魔力の量も能力も高いのだろうなと思った。悪魔執事達の支援で手いっぱいの主に比べて頭も良くて冷静で軍をまとめ上げて指示を飛ばせるユーハンに主は若干コンプレックスを感じてしまった。
もっと自分が頭が良くて身体能力が高かったら執事達に守ってもらうだけでなく戦闘にも参加できたかもしれないのに、と胸がチクリと痛んだ。
大体の天使を消し去り、サルディス家の軍も消耗して撤退の指示待ちをしている頃、明るくなった空が一層眩しく光り輝く。
「やっぱり捨て駒は捨て駒でしかないね」
「数で勝てると思ったがやはり悪魔執事は邪魔だな」
「人間も居るだなんて聞いてないよ」
そんな言葉を放ちながら大量の天使達を連れて3人の羽の生えた男性が下りてくる。
「悪いけど、ここで死んでもらうからね。俺達の邪魔にならないように」
そう言って1人が手で突撃の合図をした瞬間、天使達が光り輝いて地上付近まで下りてくる。
「死になさい、命の為に」
何重にも重なるその声と共に眩い光が爆発して執事達とサルディス家の軍を飲み込む。
主の魔力である程度の攻撃を防げるようになっていた執事達は何とか意識を繋ぎ止めて吹き飛ばされまいと踏ん張る者も居れば爆発のエネルギーで身体が宙に舞う者も居た。
光が収まるとサルディス家の軍はほぼ壊滅、執事達は何とか生きているが戦えるほどの余力はないくらいダメージを受けていた。
「それじゃあ、悪魔執事の主は殺しちゃおうか」
「人間…珍しい生き物だから飼い殺すのもありかもしれんぞ?」
「人質にでもする?」
知能天使達が楽しそうに会話しているとラトが近くの木に登って知能天使達にナイフを投げつけ戦闘を始める。
「主様は渡しません。殺させもしません。私の主様なのですから」
他の執事達はよろよろと主のもとに歩いてきて回復をしてもらって戦闘に参戦しに行く。
半数以上の執事達が戦闘に参加するようになると、分が悪いと言って知能天使達は大量の天使達を置いて空へと戻っていった。
全員の回復が済んで新たな天使達を消し終わった執事達はサルディス家の軍人達が倒れて死んでいるのを、天使の光で消されてしまったのを認識して悔しそうに眉を寄せた。
ユーハンは無言で死体が残っている者のドッグタグを回収していく。
ドッグタグを集め終わるとユーハンは真っ青な顔のまま主に一礼してさっさとその場を離れた。
『まさかこんなことになるなんて…ユーハンさん大丈夫かな…』
「「死になさい、命の為に」以外の言葉を発してコミュニケーションが取れる天使なんて今まで居ませんでした。恐らく知能のある天使…知能天使とでも呼びましょうか。それの今後の対策は考えなくてはいけませんね」
ルカスが真剣な顔で考えて、他の執事達もそれに頷く。
「さっきの人間…と獣人のハーフの少佐は…厳しい処罰を受けることになるかもしれないな。軍に居たのは大体混血だった。それを失ったとなるとサルディス家の戦力はかなり落ちてしまうからな…」
バスティンがそう言うと主はユーハンのことが心配になる。やっとこの世界で見つけた混血であっても人間に近い人物が居なくなってしまうかもしれないのは寂しかった。
とりあえず屋敷に戻って執事達は怪我の手当てをしたり、食事の支度をしたり、主に体力を回復させてもらおうと列を作ったりして過ごしていた。
全員の手当てや回復が終わり、寝不足だった主は眠たそうに欠伸をする。
ユーハンのことは心配だが、とにかく執事達が無事でよかった。そう安心して食事を摂って昼寝をしようとベッドに入ったが、しばらくしてノックの音で目が覚めた。
「主様、お休みのところ申し訳ありません。ですが、火急の要件です。主様のご判断を仰ぎたくて…」
ベリアンが心配そうな顔で、ルカスが真剣な表情でメモ用紙と書類を主に渡す。
主は書類に目を通し2人にこれが本当のことなのか尋ねた。
『ユーハンさんの裁判の証人になれって…ユーハンさんはどうなってしまうの…?』
「サルディス家の名に泥を塗ったことになりますから…恐らく終身刑か死刑か…もっと残酷な刑罰になるかもしれません」
『それじゃ…私はどうしたらいいの?ユーハンさんは何も間違ったことはしてないし、ちゃんと指揮を執れてたよね?知能天使に殺されたって言って信じてもらえるかな…』
「客観的な視点からの証言は何よりの証拠になります。…しかし、サルディス・フブキがどう判断するかまでは分かりません…最悪の事態を想定したほうが良いかもしれません」
ベリアンの言葉に主はどう反応していいか分からず、布団をぎゅっと握りしめた。
「シノノメ・ユーハンは死刑だ。その家族が暮らしている村も取り潰しだ。人間だけ生かして捕らえて量産施設に送ることとする」
主はユーハンの無罪を主張し、知能天使という新たな脅威が加わったことを必死で説明したがフブキの怒りが収まることはなく、ユーハンには極刑が言い渡された。
『どうしよう…ユーハンさんが死んじゃう…しかも家族も村もめちゃくちゃにされて…』
主は帰りの馬車の中で涙を流していると、ベリアンが元気づけるように主の手を握った。
「大丈夫です。極刑が言い渡されたということは居なくなっても何も問題がないということです。彼を悪魔執事として迎え入れませんか?主様ほどではないですが魔力もあって頭も良いですし前線で指揮を執って戦っていた実績もあります。いかがでしょうか?」
『いいの?助けたら怒られたりしない?』
「大丈夫です。東の大地では有名かもしれませんが、中央の大地で知っている人達などペットの見せびらかし合いをしている貴族だけです。獣人のふりをさせれば誰も分かりませんよ」
ルカスが優しく、けれども決意のこもった言葉をかける。
主はそれに頷いてユーハンを助けるべく、ユーハンが放り込まれた人食い虎が居ると言われている竹林へ急いだ。
#クロスオーバー注意
ぷち
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コメント
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いやあ…今回、胸がぎゅっとなりました。主が「どうしたら役に立てるの」って涙する場面、本当にもう…。自分を安売りしそうになる気持ちも分かるけど、それを全力で止める執事たちの姿が熱かったです。節約案を一人ひとりが挙げていくシーンにじんときましたね。そしてユーハンとの再会と裁判…!まさか極刑になるとは。主のコンプレックスもリアルで、でも救いに動くラストで次が気になりすぎます。執事たちの「法を超えたところで守る」覚悟がかっこよかったです。