前回の続き 。
BL
R指定 △
地雷さん さよなら
「 太 」『 敦 』
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『君の光に溺れる ― 戦いの後 ―』
夜明け前の街は、まだ眠っていた。
焦げた鉄と雨の匂いが漂う廃工場の跡地に、敦は立ち尽くしていた。
戦闘のあと、太宰の姿が見えなくなっていた。
報告を終えても、心はどこか落ち着かない。
――また、いなくなってしまうんじゃないか。
そんな不安を抱えたまま、敦はふらりと歩き出す。
足が向かったのは、港のはずれ。
薄い霧の向こう、柵に凭れかかる黒いコートの影が見えた。
『 ……太宰さん。 』
声をかけた瞬間、心臓が強く打った。
太宰は振り返り、いつもの笑みを浮かべる。
「やぁ、敦君。早起きだね。」
『 探したんですよ……どこにもいなくて。 』
「私のこと、そんなに気にしてくれたの?」
いつもの調子。
でも、その瞳の奥には疲れがにじんでいた。
敦は無意識に一歩近づく。
『 怪我は……大丈夫なんですか? 』
「ほら、この通り。」
太宰は片手をひらひらと振って見せる。
袖口から包帯が覗いた。
『 嘘つきですね。 』
「ふふ、私の本業だよ。」
敦は小さく息を吐いた。
そして、躊躇いながらも口を開く。
『 太宰さん……どうして、あの時、僕を置いて行ったんですか。 』
「君を巻き込みたくなかった。」
『 それでも僕は、太宰さんの後輩です。 』
その言葉に、太宰の表情がわずかに崩れる。
風が二人の間を通り抜け、朝の光が海を照らしはじめた。
「 敦君。 」
『 はい。 』
「私が死に場所を探していたこと、もう知ってるだろう?」
『 ……はい。 』
太宰は目を細め、遠い水平線を見つめる 。
「でもね、君といると、それが少しだけ面倒になるんだ。」
敦は一瞬、言葉を失った。
そして、ほんの少し笑った。
『 面倒でもいいです。僕は、その面倒の理由になりたい。 』
太宰は驚いたように目を見開いた。
数秒の沈黙――
そのあと、彼はゆっくりと笑った。
「君は本当に、優しいね。」
太宰が歩み寄り、敦の頭に手を置いた。
その掌は少し冷たく、それでも温もりがあった。
「 ありがとう、敦君。 」
『 ……何がですか? 』
「私に、生きようと思わせてくれたこと。」
敦は何も言わなかった。
ただ、その手を振りほどかずに、目を閉じた。
遠くで船の汽笛が鳴る。
夜が明け、太宰のコートが朝の風に揺れる。
その姿は、どこか儚く、それでも確かに此処にあった。
二人の影が重なり、そしてゆっくり離れていく。
それぞれの道を歩くために。
けれど――
心の奥では、もう切り離せないほどに、互いを知ってしまっていた。
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