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side mtk



彼女の中で、欲を吐き出す。

今まで埋まらなかった寂しさも、孤独も、すべて満たされた気がした。



僕の世界が、一瞬で色づく。

――まるで、最後のピースが、ぴたりとパズルにはまったように。


しばらくは余韻に囚われ、動けなかった。

腕の中で、彼女は静かに寝息を立てている。


そっと体を離し、後処理を済ませる。

僕のTシャツを着せ、彼女の下着を履かせると、唇に軽くキスを落とした。


一息つこうとキッチンで水を飲む。

その瞬間、僕が歌っている姿が脳裏に鮮明に浮かび上がる。

コードも、歌詞も、情景も――すべてが一気に押し寄せてくる。

これは、彼女のために捧げる歌。


寝室へ戻り、ベッドの端に腰を下ろす。

寝息を立てる彼女の髪をそっと撫で、浮かんだメロディを口ずさむ。

優しい音が、夜の静けさに溶けていく。


やがて、抑えきれない衝動に背中を押され、僕は制作部屋へ向かった。



side mio


与えられた快感に身を委ね、甘い波に呑まれたあと――

彼の腕に抱かれたまま、意識を手放した。


目を覚まし、上体を起こす。

見知らぬベッド、カーテンの隙間から差し込む月明かり。

まだ夜は明けていない。


「……っ!」

もときさんとの行為を思い出し、顔が一気に熱くなる。

けれど、隣に彼の姿はなかった。


着替えさせてくれたらしく、大きめのTシャツとショーツ姿になっている。

そっと寝室を出ると、真っ暗なリビングを抜け、廊下の奥の部屋から明かりが漏れていた。


音を立てないよう、足音を殺して近づく。

かすかにもときさんの歌声とギターの音が聞こえる。

ドアは半開きで、その隙間からそっと覗き込んだ。


そこには、ギターを抱え、PC画面を見ながら歌う彼の姿。

包み込むような声に、思わず息を呑む。


あこがれ――それだけじゃない。

いつの間にか、心の奥まで彼でいっぱいになっていた。

……わたし、もときさんのことが、すきなんだ。



side mtk


完成した曲を弾き語りながら歌っていると、右側の入り口から視線を感じた。

「……みおちゃん?」


ギターを置き、そっと顔を上げると、半開きのドアから彼女がこちらを見ていた。


「……ごめんなさい、じゃましましたか?」

おそるおそる中へ入ってくる。

僕のTシャツを着た姿が、やけに可愛くて。


――いや、今はそれよりも。

そうだ、ちゃんと気持ちを伝えよう。


僕はトントンと自分の膝を叩き、片手を差し伸べる。

「…おいで」


少しだけためらったあと、澪ちゃんは向かい合わせで僕の膝に座った。


「……おもくない、ですか?」

恥ずかしそうに目をそらす。


「おもくないよ。むしろ、もっとごはん食べて。僕のためにも」


その一言で、彼女の頬がみるみる赤く染まった。


「……もときさんの歌、やっぱり好きです。

うまく言えないんですけど……もときさんのこと、すき、です…」

潤んだ瞳が、まっすぐ僕を射抜く。


そっと抱き寄せ、耳元で囁く。

「……みおちゃん、僕も好きだよ。

みおちゃんの痛みも、苦しみも、全部受け止めて、溶かしてあげたい。

だから……そばにいて? 僕と付き合ってほしい」


「……わたしなんかで、いいんですか」


「みおちゃんじゃなきゃ、いやだ」


彼女は涙をこぼしながら、触れるだけのキスをくれた。



――やっと見つけた、僕のヴァルキリー。

その温もりは、剣よりも強く、僕のすべてを抱きしめてくれる。




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