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「遊んだわね〜」
文奈はお腹をさすりながらマクドを出た。
涼はあいかわらず気に食わなそうな顔をしている。
時刻はもう午後八時をまわった。それでも栄の人波が凪ぐことは無い。高校生もまだ遊んでいるみたいだった。
こんな夜遊びはじめてのことだ。
車に戻って帰路についていると、大津通のあたりで、後ろについていた尊たちの車が前に出た。ちかちかと眩しくポンピングブレーキをかましてくる。たしか運転しているのは文奈の筈だが……。
「なんだあいつ……」
涼の怪訝そうな声が聞こえる。
「待って」
そこで、黒樹はひとつ気づいた。
涼の様子が変だ。
「あれ、ほら短いのと長いのが交互にこう光ってる」
「……たしかに」
「……モールス信号、つ……いて……き、て……」
「”ついてきて”……?」
文奈の車は、こちらに何かを伝えたいようだった。
涼は車を走らせてついていくことにした。
気乗りはしないが、ここで反発して喧嘩になるのも嫌だし、なにより黒樹は二人を嫌がっていない。だからついて行った。
二台はバスレーンをそのまま北上して一気に大曽根まで出た。超近場だ。
平安通に入ると、文奈の車がウィンカーも点けずにビルに入った。
「なんだここ……」
「知らない」
気づけば文奈の車もどこかに駐車したのか見えなくなって、涼はすぐそこに空きのスペースを見つけて車を停めた。
その刹那。
扉が外から開かれて、袋で何かを吸わされた。
それは恐らく催眠ガス……。
二人は意識を落とした。
目を覚ますと、ケミカルなピンクの照明がゆれる部屋に寝かされていた。雑魚寝ではなくベッドにいたので身体は痛くない。ただ、そこはかとない気持ち悪さが残る。
「黒樹」
涼はもう起きていた。
向こう側を向いて、ベッドに腰掛けている。その背中の向こうは月の裏面みたいに暗く見えない。
「涼、ねぇここって」
「来るな!!」
黒樹が寄ろうとすると、強く拒絶された。
それが辛くて、その場で固まる。
「ごめん」
涼の謝罪も、響かなかった。
「あら〜起きました?」
その時、扉が開いて、文奈の高い声が二人の間をかすめた。
「そんな顔しんでよー、怖いなー」
文奈は笑っている。
すると後ろから、上裸の尊が入ってきた。よくみると文奈も髪が濡れていた。
「さて!いきますか」
尊が肩を回す。
「さあそこの二人もぉ」
文奈の手が涼の肩にかかる。
不意打ちで触られた涼は驚きで思わず後ろを向いた。
すると涼が背を向けていた理由がわかった。
その気になっていたわけだ。
「あんたも若いわね。それなら文句ないじゃない!夢の4Pね!!」
黒樹は何が起きているのか全く理解できなかった。歳を一三の彼にはまだわからないのだ。
奇妙な思考のなか、黒樹はひとり、取り残されていた。