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「婚約、ですか? 私が?」
お父様に呼び出されて婚約の話だと聞かされて、私は少し驚いていた。
パルキスト伯爵家の一件があってから、その辺りについては非常に不明慮になっていた。
どちらがアーガント伯爵家で婿を迎える立場になるのかとか、そういったことも含めて、色々と聞きたい所である。
「それは、アーガント伯爵家に婿を迎えるという話なのですか? それとも、私が嫁に行くという話なのですか?」
「婿を迎える話だ」
「なるほど……やっぱり、エルメラはアーガント伯爵家を背負いたくないのでしょうか?」
「まあ、それはそうだが……どの道、長女であるお前が背負うのが筋というものだ」
結局はぐらかされて何もわかっていないのだが、エルメラがブラッガ様と婚約したのは、アーガント伯爵家を侮辱されたからだったのだろう。
つまり、エルメラの主張は変わっていない。彼女は、あくまでも研究などに注力して、私がアーガント伯爵家を背負っていくことになるようだ。
「えっと、それにしてもよくこんなにも早く婚約者が見つかったものですね。パルキスト伯爵家であんなことがあった訳ですから、もう少し時間がかかるものではありませんか?」
「その辺りに関しては、色々とあった。まあ、今回の縁談を熱望していた者がいてな」
「熱望?」
「恐らく、お前にとってもいい知らせだと思う」
お父様の歯切れは、なんだかとても悪かった。
凛々しくて厳しいお父様がそんな風になるなんて、少し意外だ。一体何があったのだろうか。
「お前の婚約相手は、ドルギア殿下だ」
「ドルギア殿下?」
「ああ、よく知っている方だろう」
「ええ、それはもう、とても良くしてもらっていますから……」
お父様の言葉に、私はとても驚いていた。
ただ、これは言っていた通り、私にとってはいい知らせである。
あのドルギア殿下と婚約できるなんて、光栄だ。彼程、紳士的な人はそういないし、とても良き婚約相手であると思う。
「でも、よく王族との婚約の話が出ましたね?」
「ああ、熱望していた者がいたからな」
「それはどなたなんですか?」
「……」
「……?」
私の質問に、お父様は目をそらした。
その熱望していた人というのは、明かすことができない人なのだろうか。
「まあ、それについては本人の心の整理がついたら話す可能性がない訳でもないかもしれない」
「……お父様、いくらなんでも歯切れが悪すぎる気がします」
「これは、仕方ないことなのだ。とにかくお前は、婚約のことだけを考えておいてくれ」
「は、はい……」
ドルギア殿下との婚約は、私にとってとても嬉しいものだった。
しかしそのきっかけなどがわからず、少しだけもやもやが残ったというのが、正直な所だ。
◇◇◇
お父様との話が終わった後、私はエルメラとのお茶会に臨んでいた。
一時は取りやめも視野に入れていたこの催しではあるが、結局続けている。
それに対して、エルメラは特に何も言っていない。ということは、彼女も続けることには賛同しているということだろう。
「あのね、エルメラ。あなたに伝えておかなければならないことがあるのだけれど……」
「……なんですか?」
しかし、今日のエルメラはとても機嫌が悪そうだった。
いつも不機嫌そうな顔をしているのだが、今日はその比ではない。彼女とは長く共に過ごしてきた訳だが、この表情を見るのは初めてである。
だが、そんな中でも私はエルメラに伝えなければならないことがあった。
もしかしたら、既にお父様やお母様から知らされているのかもしれないが、大切なことなのできちんと私の口から話しておくべきだろう。
「私の婚約が決まったの。相手は、ドルギア殿下で……」
「……おめでとう、ございます」
「あ、ありがとう……」
エルメラは、私の言葉にとてもぎこちない口調で言葉を返してきた。
なんというか、エルメラの歯切れも悪い。お父様といい、今日は一体どうしたのだろうか。
「えっと、ドルギア殿下との縁談なんて、すごい話よね? 私、正直とても驚いているの」
「そうですか」
「よくわからないのだけれど、私とドルギア殿下の婚約を熱望していた人がいたみたいで」
「熱望? いや、熱望なんてそんな訳が……」
「え?」
私の言葉に、エルメラはおかしな返答をしてきた。
熱望という言葉に違和感を覚えたようだが、それに引っかかるということは、エルメラは今回の婚約を望んでいた人のことを知っているということになる。
反応が悪かったのは、もしかして既に婚約に関するあれこれを知っていたからだろうか。その可能性は、ない訳ではない。
「エルメラ、あなたはもしかして今回の縁談を提案した人を知っているの?」
「……いえ、そういう訳では」
「本当に?」
「ええ、本当ですとも」
私の質問に対して、エルメラは珍しく動揺を見せた。
この妹が、このように感情を見せるということは、私の予測は当たっているかもしれない。
「エルメラの知り合いとなると……研究者とか、偉い人かしら?」
「お姉様、私は違うと言ったはずですが」
「ああでも、そうなると、目的はエルメラとの繋がりなのかしら? 王家との婚約で、アーガント伯爵家に恩を売りたいとか」
「いえ、そういう訳ではありません……あっ」
私の予測に対して、エルメラは少し前のめりになって言葉を発した。
その露骨な反応に、私は少し驚いてしまう。この妹がこんなにも必死になるなんて、一体この婚約には何が隠されているのだろうか。