樹海から少し離れた場所。ある山の中腹にユウがいた。外出用の青地の白のワンポイントやフリルが入ったワンピース、靴は黒のローファーを履き、長い金髪を束ねることはないが、飾り用の大きな青いリボンを後頭部につけていた。風が強く、帽子や日傘が使えないようで身に着けていない。
「たしか、ここら辺だと思うんだけどな」
ユウはムツキたちがモフモフ洞窟探検隊を始める頃に起きて、ここへとやって来ていた。彼女が山道を歩いているのは、とある魔力を微弱ながらに感知したからだ。
その魔力はあまりにも微弱過ぎたので、彼女が【テレポーテーション】や【レビテーション】などの魔力を出すと感じられなくなるために仕方なく山道をトコトコと歩いている。
「やっぱり、アニミダックの魔力に似ている……」
ユウの出した名前、アニミダックは、ユウが最初に生み出した4人の内の1人である。魔人族の始祖ともいえるディオクミスとアニミダックの2人、人族の始祖ともいえるレブテメスプとタウガスの2人。
彼ら4人は全員がユウの元恋人である。娯楽のなかった彼女が唯一の楽しみにしていたことが彼らとの会話のやり取りやデートだったのだ。
「どうしよう……ムツキのこと知ったら怒るだろうな」
ユウはとてつもなく長い時間を4人と過ごしていた。4人は彼女のことを愛しており、彼女が長い眠りについた際に、彼らもそれぞれ眠りについたと魔人族に伝わる神話で語られている。
「肌まで許して、結婚って形まで取っちゃってるし」
しかし、ユウは4人とムツキで扱いが全く違っていた。それを知った4人がどうなるのか、悪い想像しか頭に浮かばなかった。彼女は彼らに愛されている自覚がある。
「うーん……私、今、ムツキ一筋だから、お友達になりましょう……は絶対に無理だろうな……。えー、ってなっちゃうだろうしなー。あー、どうしよう……かといって、今の私は多夫にするつもりないからなー……」
ユウは誰がいるわけでもないのにお喋りが止まらない。考え事をする時に独り言を呟き続けるタイプのようだ。
「そもそも、恋愛は付き合うのも別れるのも自由だからいいよね! 自然消滅したってことで! いや、ダメだー。絶対にひと悶着あるよ……ムツキに迷惑がかかっちゃうー」
ユウは考えが一向にまとまらないようだが、ある所でピタリと歩みを止めた。山の中腹にあって、わざわざ岩が積まれたような場所の岩と岩の隙間から微量に漏れている魔力に彼女が気付いた。
「ん。ここか……やっぱり、アニミダックかな……眠りから目覚めそうになって……魔力が強くなってきているのかも……。あ、ここ、ちょっとどければ入れるかな」
ユウは今まで感じ取れなかったアニミダックの魔力を今さら感じ取れるようになった理由を考え始める。彼女は中がどうなっているのか分からなかったため、魔法で無理にこじ開けることをしないで何とか隙間を子どもの体格で入っていく。
隙間から差し込んでくる光で一部が照らし出されている。照らし出された場所にあるのは多数の触手だった。触手は色も様々で、黒色もあれば、赤、青、緑、黄などもあった。乾いたものもあれば、湿り気を帯びたものもあり、粘性がありそうなものまで様々である。
「んしょ……っと……やっぱり、この触手……アニミダックね……本人はいないのかな」
4人はそれぞれ固有の魔法を持っており、アニミダックの固有魔法は【触手生成】である。多種多様な触手を無数に生成することができ、単純な手数ではアニミダックの右に出る者はいない。
「一応、ムツキから【バリア】を張ってもらっているけど、自分でも追加でかけとこ」
ムツキはナジュミネとリゥパが初めて会った際にナジュミネが危険な目に遭ったことから、女の子たちに何かあったらいけないと思い、それ以降【バリア】を張るようにしていた。【バリア】は危険な攻撃を受けそうになった際に発動するようになっている。
「【バリア】。さて、その次は……」
ユウが【バリア】を張った後、何本かの触手が突如反応した。
「え、何……これって、私の魔力に反応した? うっ……くっ……まさか……私用の……催眠……ガ……ス……? ムツ……キ……」
ユウはふらふらになりながら、外へ出ようとするが、触手が出入り口を塞いでしまう。やがて、彼女は深い眠りへと落ちてしまった。
「すー、すー……」
触手が【バリア】を壊そうとするもまったくビクともしない。しばらくして、触手は【バリア】を壊すことを諦めて、【バリア】が張られたままのユウを運んでいった。
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