洞窟を出て間もなく、ケットは全員を整列させる。出る頃にはすっかりと日も落ちて、洞窟の中と変わらないくらいに暗くなっていた。
「今日はお疲れ様ニャ! 泉で言ったように全員合格ニャ! おめでとうニャ!」
ケットがそう声を張り上げると、妖精たちは大人も子どもも関係なく、全員で合格を祝った。
「にゃー!」
「あおーんっ!」
「ぷぅ!」
「がああっ!」
「ぴぃー!」
暗い中で踊りを踊り始める妖精もいて、静かな樹海の中でこの場所だけはとても賑やかで騒がしかった。
「でも、今日はもう遅いニャ。そこで、近くにある少し開けた所でキャンプとするニャ! それで方向は……」
「移動なら、俺に任せろ。【テレポーテーション】」
ケットが移動の説明をしようとしたところで、ムツキは突然割って入って【テレポーテーション】を唱える。次の瞬間には、妖精たちが全員ケットの説明しようとした場所に着いていた。
多くの妖精たちは初めての【テレポーテーション】に驚いて、周りを見回す。やがて、知った場所と分かると、一瞬で移動したことに喜んでいた。
「ニャ! こんニャにたくさんの妖精たちを一度に全員【テレポーテーション】したニャ!」
「おーい、お前ら。騒いでばかりいないで、各自、テントを張るんだ! さて、主様はたしか【テレポーテーション】は一度に数人がいいところじゃなかったか?」
ケットがびっくりして驚き、クーは指示を出した後にムツキに話しかける。ムツキは腕組みを嬉しそうな表情でケットやクーを見ている。とてもご満悦といった雰囲気だ。
「俺もみんなにいい所を見せたいからな! ユウに頼み込んで改良版【テレポーテーション】を教えてもらったんだ!」
「頼み込んだということは、何か代償を払ったのですか?」
ムツキの言葉に引っ掛かって、アルが彼に問うと、先ほどまでの笑顔が少し曇る。
「交渉に交渉を重ねて、ムツキ独り占め券を3日分で手を打ってもらった……」
「独り占めなんて珍しいな。ユウはそこまで独占欲が強いはずはないが。機嫌でも悪かったか?」
クーはムツキの【テレポーテーション】以上に驚く。みんな仲良く平等に、が基本にあるユウが独占することは珍しい。たまに彼女の機嫌が悪い時に無言でムツキを拘束するくらいである。
「機嫌はそこまで悪くなかったと思うけどな。どうなんだろう、分からないな。とりあえず、ナジュミネやリゥパたちも【テレポーテーション】の改良版と引き換えなら仕方ないということで了承したから大丈夫だ。喧嘩はないぞ」
「ご主人の独断じゃ決められニャいのが少し切ニャいニャ……」
「ハーレムは合議制らしい……」
「世知辛いニャ……」
ムツキが自分一人で自分の予定も決められないことに、ケットは少し切なさを感じる。しかし、1人では呪いによってご飯を食べることすらできないムツキなら、そのような合議制になっても文句が言えないのだろうなとも、ケットは思った。
「さて、各自テントは張れたようだな。キャンプファイアはどうする?」
「任せろ。アイテムボックスに持ってきてある!」
ムツキは開けた場所の中央に木を出して組み立てようとするが、あまり器用ではないため、ほかの妖精たちが組むことになった。それをムツキは楽しそうに眺めている。
「いつになく、マイロードの準備がいいですね」
「できることは全部がんばる、らしいぞ」
「そうでしたか。マイロードはできないことも多いですが、そういう心掛けはいいことですね」
「空回りしなきゃいいがな」
「空回りしたときは周りが手を差し伸べればいいだけですよ」
「甘いな」
「ふふふ。そうかもしれませんね。あなたもですけどね」
アルとクーが笑う。その笑いはお互い様ということをお互いに理解していることの証明だった。
「おーい、クー、アル、こっち来てくれー。手伝ってほしいんだ」
「分かった」
「承知しました」
ムツキの言葉にクーとアルが反応して、彼の方へと近付く。その後、すべての準備が整い、全員がコップを片手に持つ。
「それじゃ、みんニャの合格を祝って、乾杯ニャ!」
「乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
「にゃー!」
「わふっ!」
「ぷぅ!」
「ぐる!」
「ぴぃ!」
こうして宴が始まった。
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