テラーノベル
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私は言われた通りにダイニングのカウンターに座る。それからテーブルに頬杖をつき、壱月の料理姿を見守っていた。
――はずだった。
「あーいね!」
頬を小突かれて意識が覚醒し、慌てて体を起こした。
しまった!
「寝過ごした! 花斗のお迎え!」
すると、壱月がケラケラ笑う。
「寝ぼけてる?」
「え?」
慌ててキョロキョロと辺りを見回す。
そうだ、デートの途中だった!
すると今度は、デートの途中で寝てしまった最低な彼女だという現実を突き付けられる。
なんてことだ。ガーン。
頭を抱えていると、壱月はそんな私を見て、再びケラケラと笑った。
「飯、できたぞ」
なるほど、鼻から息を吸い込むと、いい匂いがする。
お肉とスパイスが織り成す、ハーモニー。なんて、コマーシャルまがいのことを思い、思わず笑ってしまう。
しかし、匂いのほうを見て、思わず目を見開いた。
「すっごい!」
目の前に並ぶのは、高級レストラン顔負けのランチ。
サラダにスープにメインは鶏肉の香草焼き(多分)、それにクロワッサンとロールパン。
「デザートもあるから」
得意げにそう言う壱月に、思わず声を上げてしまった。
「これ、全部壱月が!?」
「ああ……パン以外、は」
壱月はそう言って、ニカッと笑う。
「パンは朝寄ったサービスエリアで買った。有名らしい」
言いながら、まだエプロン姿のままの壱月は私の目の前に腰かける。
いつもはここに花斗もにいるから、なんだか変な感じがする。
改めてふたりきりなのだと不意に意識してしまい、胸がドキドキと高鳴っていく。
「なんか、隠れ家レストランみたい。しかも、シェフが目の前にいるなんて」
照れ隠しにそう言って、「いただきます」と手を合わせる。
どれもこれも、優しくて温かい味がした。
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*
ランチの後は湖畔を散策し、ボートでのんびり湖に出たりした。
日が沈むと急に冷えるからと、早めにコテージに戻る。
するとすぐに、壱月は暖炉に薪をくべ始めた。
「そんなに?」
「ああ、冷える。山の中、なめるな」
「いや、別になめてる訳じゃ……」
そう言いながらも慣れた手付きで暖炉に火を整えた壱月は、ふう、と息をつくと今度は
「夕飯の支度だ~」
と鼻唄を歌いながらエプロンを手に取った。
その背中に、やっぱり壱月は頼れるな、なんて思いながら、私も彼の背中を追いかける。
「今度は手伝う」
「いいよ、休んでて」
「さっき十分休んだ。寝ちゃったし」
はにかみながらそう言うと、壱月は「そうだったな」とケラケラ笑う。
「じゃあ、アシスタントお願いします」
「かしこまりました」
そんなちょっと馬鹿らしい会話をしながら、壱月の隣で野菜を切っていく。
たまに壱月の方を向くと、不意に目が合った。
「今、見てただろう」
「見てません」
「嘘つけ」
「……嘘です、見惚れてました」
キッチンに並びながら、そんな話をした。
一緒に住んでるはずなのに、なんだか新婚みたい、なんて思ってしまう。
「あとは俺がやるから、愛音は休んでて」
野菜を切り終わると、壱月にそう言われた。
仕方がないので、昼と同じようにダイニングに腰掛け、私専属イケメンシェフの料理姿を見守ることにした。
緩んだ頬が落ちないように、両手で引き上げながら。
コメント
1件
ああ、もう、この回めちゃくちゃ好きです……! 愛音さんがデート中に寝ちゃうところ、完全に気が抜けてる証拠ですよね。壱月が笑い飛ばしてくれるのが本当に優しくて。それに、あの手際よくご飯を作る背中に「やっぱり頼れるな」って思う愛音さんの気持ち、すごくわかります。そしてキッチンでの「見惚れてました」のやり取り、甘すぎますよ……! 新婚さんみたいな距離感、こっちまでほっこりしました🤍