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「私、親が離婚していて、母子家庭の三人姉妹なの。お父さんと10年くらい会っていないかな。
私が14歳の頃、子育ても落ち着いてきた時期に、お母さんに彼氏が出来たんだ。
私としては複雑だったけど、お母さんが喜んでくれればそれでいいって思ってた。お母さんは久しぶりに化粧もファッションも楽しむようになって、生き生きしていた。」
深く息を吸い込む音が聞こえる。
傘に表情が隠れて、崎野の今の顔は見えない。
「でもその頃、私が病気で倒れて、余命宣告されちゃったんだよね」
僕は、一言一句聞き逃さないように、隣を歩く崎野の言葉に耳を傾ける。
だが、依然として、彼女の声からは読み取れない。何を思って、何を感じたのか、彼女が過去を語る時は、そういったものが全くといっていいほど分からないのだ。
崎野は、変わらぬ調子で話を続けた。
「同時期に、お母さんの彼氏が、妻子持ちだって事が判明して…お母さん、鬱になってODしちゃったの。
一時は症状が改善したんだけど、去年の冬、私が体調崩して入院した時に、症状がまた繰り返しちゃって。ああ、これ、私がお母さんの重荷になってるんだなって思った。だから、一人暮らしを始めることにしたの。」
「…お母さん、今はどうなの?」
他人事のように話す崎野とは対称的に、僕の声は震えていた。
「私が島留学に行っていると思い込んでいるみたい。健康で、年相応の青春を送っていて、…お母さんは、そう思いたいんだろうねきっと。もうあの家には帰れないな。」
気軽に聞いて後悔してしまった。話したくないだろうことを話させてしまった。
「ごめん。嫌な事思い出させてしまって」
「いいよ、別に。君は、この島の人達と違って、いいふらすなんてことしないでしょ」
そうしているうちに、崎野が暮らしているというアパートの前にたどり着いた。
築20年ほどだろうか。新しいというには無理があるが、決して古い建物ではなかった。
一時、島移住が流行り、移住者受け入れのアパートが建ったが、すぐに廃れてしまったと聞いたことがあった。恐らく、このアパートはその名残だろう。
「また明日ね」
そう言って崎野は手を振った。
帰り道を一人で歩く。そして、僕は唐突に理解した。
崎野がやけに自分の死について受け入れているのは、諦観しているのは、きっと、彼女の人生の全てにおいて、希望を失ってしまったからなのだろう。
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