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良すぎる…泣
なみだ止まらん😭😭
号泣しながら読みました。小説で号泣したの初めて
今回は、FFさんのチャット小説を元ネタとして、ノベル版を書かせていただきました。
元ネタはこちらです。基本的に私自身死ネタは地雷なのですが、とても素敵な作品で綺麗で……書きたくなってしまいました。死ネタが地雷だよという方は、自衛のほどよろしくお願いします。
「~♪」
俺はPCに向かいながら、いつも使い慣れている編集アプリではなく、歌い手友達に教えてもらった音楽編集ソフトをいじっていた。
ずっと気持ちを伝えられずにいる相棒へ、やっと気持ちを伝える気になれたから、柄にもなく歌詞を書いて贈ろうと思っていた。そんな話をしたら、俺が曲を作ってやるからと言ってくれて、出来上がった歌詞をそいつに送ってそこから作曲をしてもらっていた。それをいつもの歌みたみたいに外のスタジオで録音とミックスしてもらうのはさすがに恥ずかしくて…。
数名の歌い手さんたちに協力してもらって、機材を借りて録音したりミックスしたり…となぜかどんどん本格的になっていくそれに、少し楽しさすら見出していた。そのミックスされたものが昨日届き、それを更にプレゼント用に編集している。
「よっし…こんなもんかな…」
出来上がったデータをいつもならそのままメールで送る所だが、今回は自分の手で渡したいと思ってCDROMにしていた。それが終わり、それをケースに入れて俺はニンマリと満足気な笑みを浮かべた。
「これ渡したら、どんな顔するんかなぁ」
「喜んでくれんかったら恥ずかしすぎだな」
作曲してくれた友人も、録音やミックスに協力してくれた友人も、編集の仕方を教えてくれた友人も、みんな俺の気持ちを知っていて背中を押してくれていた。俺がどれだけこの気持ちを拗らせていて、信じられないくらい溺れているのを知っているからこそ、全力で応援してくれていた。
「よし…予定聞くか」
俺はスマホを取り出すと、相棒へと空いている日程を聞き会いたい旨を伝えた。その時に渡したいものがあるからと少しだけ匂わせるのも忘れずに…。相棒は、二つ返事で受け入れてくれて、あちらも何やら聞いて欲しいものがあるからと時間を長めにくれと言ってきていた。そんなもの、こちらとしては願ったり叶ったりなので了承する旨を送ると、簡単なスタンプだけの返事が返ってきた。
「ふふふ…楽しみ」
スマホを見つめながら笑っている俺は、すごく幸せだった。これから関係性が変わっていくであろう相棒とのこれからを考えるだけで胸が踊り、何もかもが上手くいく…そう信じて疑わなかった。
その日は朝からどんよりとした曇り空で、手を伸ばせば届きそうなほど厚い雲が空を覆っていた。今日はやっと想いを告げる日だというのに、なんでついてないんだ…と呟きながら相棒の家へと向かうことにした。
通い慣れている彼の家への道を、いつもより少し浮かれながら歩いている僕の耳に、突如として聞きなれない機械音と、見知らぬ人の叫び声が聞こえてきた。何事かと思って振り返ると、背後から蛇行しながら走ってくるトラックが、今まさにガードレールを突き破って俺の所へと猛スピードで突っ込んでくるところだった。
「あぶない!!!!」
「きゃーーー」
「誰か!!!救急車!!!」
「もしもし警察ですか?今、目の前で若い男性が…」
あっと思った瞬間には、もう俺の体は元いた場所から遠くへ飛ばされ、気づいた時には地面にたたきつけられていた。不思議と痛みはほとんど感じなくて、体から流れていく生暖かいものだけを感じていた。
『あー俺…死ぬんだな……死んだら…ボビー泣いてくれるかな?』
最期に聞こえたのは遠くから鳴り響いてくるサイレンの音だった。
それから数日後、俺はボビーの部屋の中にいた。と言っても死んでしまっているから、いわゆる幽霊という存在ではあったが…。俺が死んだあの日、病院からの連絡で真っ先に駆けつけてくれたボビーは、変わり果てた俺の姿に泣き崩れ、キャメやりぃちょが来るまで俺にしがみついて離れなかった。広島から駆けつけた俺の両親へは、ボビーが悪い訳では無いのに、なぜか土下座する勢いで謝り倒していた。そんな姿を見ていても何も出来ない自分がもどかしくて、謝りたいのに声が届かないことが悔しくて…。葬式や通夜が終わってからも、ボビーの様子を見に来ることが出来なかった。この数日はなんとなく実家の両親のところでフワフワとただよっていた。母さんがポツリといった言葉がなかったらここにはまだ来れなかったかもしれない。
「ねぇお父さん…あの子…しろせんせーくんっていったかしら」
「ん?あの日、ニキについててくれた子か?」
「そう…あの子……大丈夫かしら?」
「あぁ…誰よりも自分を責めていたから…なぁ」
「あの子は悪くないのに…」
「そう…だな……」
そんな両親の会話を聞いて、無性に心配になってしまった。確かに、ボビーなら自分を責め続けていてもおかしくない。あいつの事だから、家になんて呼ばなければ…とかどうしようも無いことを考えていそうだ。そう思ったら心配でいても立っても居られなくて、ボビーの家まで来てしまっていた。
「ボビーどこかな?」
「寂しがってんだろうなぁ…」
「あー懐かしいなぁ…あのころと変わらない…」
同棲していた頃の記憶が甦って、懐かしさにフワフワと家の中をさまよっていた。家の中にあるひとつひとつに思い出がある気がして、見ているだけでも笑顔になれる気がした。ふと、ボビーの姿が見えないことに気づいた俺は、キョロキョロと辺りを見回した。さほど広いというわけではないが、今いるリビングにはすくなくともボビーの姿はなかった。
「ぼびちゃーん !ぼびちゃんどこー?」
「って聞こえるわけないか…」
リビングから出て廊下に出たところで、かすかにボビーの声が聞こえてくるのを感じた。その声を頼りに移動すると、寝室の中から声が聞こえていた。どうやら歌を歌っているようだった。部屋の中へ入ってみると、ボビーの手には数枚の紙があり、それは手書きの楽譜のようだった。
「~♪」
消え入りそうな声で辛そうに歌うボビーの歌声は、たまに途切れてしまってはいたが、切なくなるような憂いを帯びていて、胸が苦しくなった。耳をすませて歌詞を聞いていると、ボビーらしく英語や難しい言い回しなんかをつかっている。俺には意味がわからないところもあったけど、切ないほどの恋心を綴った歌のようだった。
「~♪ ~…グスッ」
「ニキ……あの時、俺が傍におったら…」
「俺がニキの家へ行っていれば…」
「この歌…聞かせてやれたんかな…」
「ボビー……」
その歌が、俺への気持ちを綴ったものだと気づいた俺は、胸の奥の方がキュッと痛み抱きしめてやりたい衝動に駆られた。でももう、抱きしめてやることも慰めてやることも出来ない。俺はポケットから渡せずに終わってしまったCDROMを取り出してじっとみつめた。それは事故の時に、割れて粉々になってしまったもの。渡せたらなにか変わったのだろうか…。
「ボビー俺もね……ボビーに曲を書いたんだよ?」
「聞いて欲しかった…」
「死んじゃってごめんね…抱きしめてあげられなくて」
「こんなに泣かせて…ごめんね……」
死んでしまって体は無いのに、俺の目からは熱い涙が流れているようなそんな感覚を感じていた。目の前にいるのに、そばに居るのに触れない。抱きしめて慰めることもできない。そんな自分がもどかしくて悔しくて…悲しかった。
「ボビー…歌って?俺は聞いてるから…」
「ちゃんと気持ち…教えて?」
俺がそういったのが聞こえているはずは無いのに…。ボビーは続きを歌いはじめた。涙で途切れ途切れになるそれは、切なくて胸が苦しくなるほど真剣で、優しいものだった。
「ニキ…俺はずっと…お前のことが好きだった」
「ふふふ…そういうとこストレートに言えるの好きだよ」
俺が笑ったと同時に、風もないのにフワッと部屋のカーテンが揺れた。そして、カタンと音を立てて俺とボビーの写真の入った写真立てが倒れた。それを見たボビーは目を見開いて辺りを見回した。
「ニキ………?そこにおるんか?」
「なぁ…ニキ…」
「死んでもおてるのに…心配してくれたんか?」
「お前…やさしいもんな……」
「死んでも……心配かけてすまんなぁ…」
そう言って写真立てを抱きしめて嗚咽を漏らすボビーを俺は見つめることしか出来なかった。ふと、俺は手の中にあるCDROMをボビーの机の上に置いてみた。すると不思議なことに実体を持って、カタンと小さな音を立ててそこに存在させることが出来た。その小さな音に、ビクンと体をふるわせて反応をしたボビーは、音の方を振り返った。
「CDROM?……こんなんあったか?」
不審に思いながらも、ケースを開いたボビーは目を丸くしていた。そこには、生前俺がボビーへと向けて書いたメッセージの書いてあるメモが入っていたからだ。
「ボビーへ
言葉で言うのは恥ずかしいから、曲作ってみたんだ!
歌詞は俺が考えて、作曲とかミックスとかは友達に手伝ってもらってて……。なんかめっちゃ恥ずかしいくらいみんなに協力してもらっちゃったけど、かなり本格的なの出来たと思う!!俺の気持ち…聞いてみて?返事はいつでもいいから。とりあえず聞いて貰えたら嬉しい!
お前の最高の相棒 超絶イケメンのニキより」
「ふは……アイツ…こんなん用意してたんか…」
「しかもそれ、届けに来てくれたんやな」
「ありがとう…」
涙を浮かべたまま笑うボビーは、とても綺麗だった。そしてそのCDROMをPCの中へ入れると、イヤホンをつけて聴き始めた。目を閉じてそれを聴くボビーは、時折ハニカミながら目の涙を拭っていた。そして最後には、やさしいやさしい笑顔を浮かべて天井を仰いでいた。
「ニキ…ありがとう」
「お前のおかげで…俺……生きていけそうやわ」
「俺な、お前のことずっとずっと大好きやで」
「傍におらんくなっても……」
「見えなくなってしまっても……」
「ずっとずっと大好きや……」
「これからもこの気持ちは変わらん……」
「せやから……安心してな?もう……泣かんから」
見えていないはずなのに、俺の方を向いて笑うその顔は俺の大好きだった顔で……。それを見たら心に残っていたトゲがスーッと消えていくような感覚を感じた。そして、足の先の方から、フワッと温かいものに包まれていくのを感じ、あーもう時間なんだなと思った。
「ボビー俺はずっと、お前のことを見てるから」
「俺の分まで生きて……どうか幸せに……」
「っ…………ニキ?……ニキ!!!」
俺の最後の声が聞こえたのか、驚いた顔をして俺を探すボビーを見つめながら、俺は空へと溶けて行った。もう思い残すことなどないから……
彼が前を向けたのなら俺はそれで充分だから……
彼がこれからも笑顔で幸せになってくれることを願って……