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2025.8.13
黄目線
今日も後ろ手に袖を引っ張られながら、彼の負担にならぬよう香りの壁として廊下を歩く。見慣れた教室に近づいたとき、前から歩いてくる俺よりも背の高い赤いやつがこちら側に手を振った。
「あれ?スマさんじゃーん!珍しいね!!」
「え、なにお前スマイルと知り合い?」
類は友を呼ぶというか無礼なやつは無礼なやつと仲良くなるというかと、頭に流れた文字をそのまま読み上げる。ぶるーくはなかむ経由でねーと相も変わらずへらりと笑いながら答えを返す。
背中からの刺すような視線には気づかないことにしよう。
二人で立ち話をしている途中でふいに一歩、ぶるーくがこちら側に近づくと、しかめっ面のスマイルは俺の腕を引っ張りながら一歩下がった。
「うーん、やっぱやんさんじゃないとだめかー。僕も落ち着く香りなんだけどなぁ」
「……なかむの匂いがついてる。甘すぎ。」
「あ、やっぱり?w」
「マーキングされてんだよねぇ、なかむは無意識だけど。これで僕のこと好きだって隠してるつもりなのほんっとうに可愛いよねぇ。」
またいつものようにへらりと笑うが、スマイルにしか分からないくらい僅かに滲み出たなにかの感情にその整った顔を歪めた。
「……はぁ、こんなやつに好かれるなんて可哀想だな。」
「えぇ、侵害だなぁ。僕ら”同じ匂い”なんだよ?これが俺たちの幸せなの。」
俺でも分かるくらいにぶわりと葉の香りが広がる。
茶葉に混じった違う葉の香り。
とっさに鼻を覆ったがあまりにも強い感情を嗅いだスマイルは、嘔吐きながらしゃがみ込む。ぺたりと廊下に座り込んでしまった彼は呼吸すらまともにできないまま、俺の脚に縋り付く。
「あぁ、もう。お前さぁ……スマイルのこと知ってんならそんな感情だすなよ。」
知り合いだから大丈夫だと判断し会話させてしまった自分と、こんな感情を出したぶるーくに対して怒りをぶつけようと思ったが、これ以上スマイルに負荷をかけぬよう抑え込む。
「ごめんなスマイル。大丈夫だから、俺のことだけ考えて。俺の声だけ聴いて。」
周囲からの視線など気にせず、ろくな思考ができなくなった彼を閉じ込める。俺以外の匂いがしないように。スマイルには俺しかいないのだと思い込ませるように。
「っは、ハッハッ、うぁ”…きいやっきいや……かひゅっ……ぅぐっ…うぇっ……」
「大丈夫、大丈夫だよ、ゆっくり呼吸して。ここにいるから。ほら、俺の匂いしかしないでしょ。そのまま俺のことだけに集中して?」
「……ごめっ、どっかいかないでっ…捨て、ないで、ください…こんなのでごめんなさいっごめんなさい……」
「捨てるわけないじゃんwだいじょーぶ。ずっとそばにいるから。」
感情に支配されたスマイルを覆い隠すように抱きしめ、優しい言葉をかけ続ける俺をぶるーくはどこか悟ったような顔で見下ろしていた。
「っ……きりやん、離して///」
「ん?落ち着いた?いい子だね、スマイル。」
「…助かった……ありがと…」
「礼なんていーよ、俺が好きでやってるだけだから。」
俺の腕から顔を上げたスマイルは涙の跡がみえたものの、顔色は上気し、彼の思考を取り戻したようだった。
「ほら、やっぱり僕ら”同じ”じゃん。」
……
俺らを眺めながら呟いたぶるーくのその言葉は誰かに聞こえることはなく、静かに泡となって弾けた。
コメント
6件
すっごい最高!! やばい!!え?凄い…神
最初の頃にあったやつの続き物ですか?すっごい懐かしく感じてもう1回読んできました! なんというか、みなとさんは僕にはない表現力を持っているなと常々思っています。 今回のも最高に良かったです!