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agent67
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夜。
部屋の中で唯 の光は、モニターから放たれていた。
蓮司は机に向かって座り、少し前かがみになりながらヘッドフォンをつけていた。画面は色とスキルのエフェクト、そして素早い動きで明滅している。彼の指はほとんど無意識にキーを叩いていた。
長い間プレイしていた。長すぎるほどに。
窓の外では、街は静まり返っていた。音よりも重く感じられるような静けさだった。どこか遠くで車が一台通り過ぎ、その音はすぐに消えていった。
蓮司の目は画面に向けられたままだったが、思考はそこにはなかった。
あの通りのことが頭に浮かぶ。
人混み。
美雪。
あの 瞬の視線――何かが彼の中で変わっていた。まるで世界を別の角度から見てしまったかのように。
もし物事がゲームみたいに単純だったなら……
負けてもやり直せる。勝てば、それで終わりだ。
画面の中で彼のキャラクターが倒れた。
「……くそ」
蓮司は呟き、ヘッドフォンを外して椅子にもたれかかった。部屋は再び、痛いほどの静寂に包まれる。壁の時計はとっくに真夜中を過ぎていることを示していた。
蓮司は目を閉じた。
――そして、街のどこか別の場所で。
路地には人があふれていた。
男女が密集した流れとなって前へ進んでいく。まるで同じ場所へ引き寄せられているかのようだった。会話が重なり合い、笑い声はどこか不自然に大きく、まるで緊張を隠そうとしているようだった。
路地の奥には扉があった。
開いている。
その先は空っぽの空間だった。古びた市場。むき出しのコンクリートの床、露出した壁、かすかな湿気の匂い。余計なものがすべて削ぎ落とされた場所。
一人の少年が、その扉の向こうから現れた。
入口で立ち止まり、静かに群衆を見渡す。その存在だけで、場の空気が変わった。ざわめきは弱まり、人々の動きは緩やかになる。
群衆の中央から、もう一人の少年が前に出て、彼と向き合った。
「誰の差し金だ?」
少年は問いかけた。
「名前は?」
続けて問う。
短い沈黙。
「シンヤだ」
彼は言った。
「京斗シンヤ」
低いざわめきが群衆の中に広がった。
「理由もなく来たわけじゃないよな?」
中央の少年が言う。
シンヤは一歩前に出た。
「いや」
彼は答えた。
「理由があって来た」
声に攻撃的な響きはなかった。
だが、迷いもなかった。
福岡。
駅は騒音に満ちていた。人々は行き交い、話し、笑い、言い争う。アナウンスが次々と響き、スーツケースの音が絶え間なく床を転がっていく。
そのホームに、一人の少年が立っていた。
白い髪。
十五歳。
手にはスーツケース。
彼は人々からわずかに距離を置くように立っていた。早く来すぎたのか、それとも遅すぎたのか――そんなふうに見える位置で。
視線は下に落ちている。
電車がホームに滑り込んできた。金属音が駅に広がり、群衆は見えない何かに押されるように一斉に動き出す。
そのとき、雨が降り始めた。
最初は静かに。
やがて強く。
雨粒が屋根を打ち、縁を伝い、ホ ムの床を濡らしていく。濡れた床は光を反射し、人々の姿を歪ませて映し出した。
少年は動かなかった。
人々が肩にぶつかっても、反応しない。スーツケースはそのまま横に置かれている。それはまるで、ただの荷物以上の重みを抱えているかのようだった。
電車のドアが開く。
ゆっくりと、彼は顔を上げた。
騒音、光、そして雨が混ざり合い――
それはまるで、すでに終わったものと、これから始まるものの狭間に立っているような感覚だった。
電車は、彼を待っていた。