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列車は小さく揺れながら停止した。ドアがシューッという音を立てて開き、金属と熱いアスファルト、そして他人の生活の匂いが流れ出した。
玄蔵は東京駅のホームに足を踏み出した瞬間、街の重圧が一気にのしかかってくるのを感じた。地方の駅の静かなざわめきなどここにはない――これは轟音だった。脈動だった。行き先をすでに知っているかのように動く無数の人の流れ。そして、大阪から来たただの少年に道を譲る者など誰一人いなかった。
彼はリュックのストラップを直した。それは突然重く感じられた――まるで中に入っているのが服や教科書だけでなく、もっと危険な何かであるかのように。
十五歳――本気で望めば人混みに消えられると、まだ信じていられる年齢。玄蔵は、心からそうしたいと思っていた。
頭上では巨大なディスプレイが光り輝いていた。日本語と英語のアナウンスが混ざり合い、白い雑音のように響く。
「山手線、14番線… 銀座線へのお乗り換え… ドアが閉まります、ご注意ください…」
彼は地下へと続くエスカレーターへ向かった。人の流れが川のように彼を運ぶ――逆らえば、溺れる。誰かが彼の肩に強くぶつかった。玄蔵はよろけたが、なんとか踏みとどまった。振り返ると、黒いコートの男はすでに流れの中に消えていた。黒い背中と、高価な香水に混じったどこか金属的な匂いだけが、一瞬残っていた。
玄蔵は頭を振った。長旅の後の被害妄想だ。それ以上でもない。
彼は山手線のホームへ降りた。そこはさらに混雑し、さらに騒がしかった。広告スクリーンが明るく点滅する。制服姿の少女たちが不自然なほど大きく笑い、新型iPhoneが誰かの手の中で輝き、「ワンクリックで完璧な人生を」という声が響く。
玄蔵はスマホを取り出し、地図を開いた。渋谷まではあと数駅だった。今朝、母からメッセージが来ていた。
「迎えに行けないの。お父さん仕事で動けないのよ。自分で何とかしなさい、もう大人なんだから。」
その時は鼻で笑った。大人、ね。
彼は黄色い線の後ろに立ち、電車を待った。車両の窓に映る自分の顔――青白く、寝不足で目の下にクマがある。髪はあちこちに跳ね、シャツの襟は乱れている。どこにでもいる普通の少年。まさか誰も気づかないだろう――
……リュックの中、教科書と着替えの下に、小さな折りたたみナイフがあることなど。
父がくれたものだ。「念のために」と、山でハイキングした時に。あの時は笑った。でも今は、笑えなかった。
電車が到着した。ドアが開く。玄蔵は中に入り、手すりに背を押し付けた。車内は満員だった――学生、会社員、大きなスーツケースを持った観光客。汗と香水、コンビニ弁当の匂い。
彼はトンネルに向かう窓を見つめた。黒いガラスには光と顔だけが映る。時折、その反射の中に見覚えのある誰かがちらつく気がした。会ったこともないのに、なぜか重要な顔。
有楽町駅で、一人の男が乗り込んできた。背が高く、細い。暑さにもかかわらず黒いロングコート。顔はマスクと帽子のつばに隠れている。男は玄蔵の真正面に立った――この混雑では近すぎる距離。
玄蔵は体を強張らせたが、スマホを見ているふりをした。
男は静かに、ほとんど囁くように言った。
「武田、だよな?」
玄蔵はびくりとした。顔を上げる。男はまっすぐ彼を見ていた――古い井戸の水のように静かな黒い目。
「どうして――」
「関係ない。」男は少し身を乗り出した。「一つだけ答えろ。浅川って名前を……聞いたことはあるか?」
玄蔵の背筋に冷たいものが走った。その名前。聞いたことがある。ずっと前に一度だけ。両親が彼が寝ていると思って話していた夜の会話の中で。囁き声で語られた言葉――口にすれば現実になるかのように。
「知らない。」玄蔵は反射的に嘘をついた。
男はマスクの下で笑った。目尻がわずかに歪む。
「嘘が下手だな。でもいい。これからいくらでも学べる。」
電車が揺れ、次の駅でドアが開いた。男は振り返りもせず、そのまま降りていった。玄蔵はその場に立ち尽くし、手すりを握る手に力を込めた。指先が白くなるほどに。
あれが誰なのか、分からない。
なぜその名前が胸の奥に奇妙な反響を生んだのかも分からない――恐怖と、どこか渇きにも似た感覚。
だが一つだけ、はっきりしていることがあった。
東京は、彼を飲み込んだ。
そして――決して吐き出すつもりはない。
夜のこーひー