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ダンジョン五層の小部屋で冒険者たちの遺体を確認するも、その数は十三体。やはりシャーリーのものはない。
そのまま地下七層まで降りると、獣達は暇そうにしていた。
「集合!」
俺の第一声がフロアに響き渡ると、白狐を皮切りに、首を傾げながらもぞろぞろと集まって来る獣たち。
「九条殿、どうしたのだ? もう外に出てもいいのか?」
そんな白狐に溜息を一つ。俺は神妙な面持ちを維持しつつ、わざとらしく咳払い。
「オホン。お前たち、俺に何か隠してないか?」
更に首を傾げる獣たち。思い当たる節はなさそうだが……。
「はぁ……俺は悲しいよ。正直に言ってくれれば許そうと思っていたのに……」
「まさか! 九条殿にここまでしてもらって裏切る者がいるのか!?」
ワダツミが声を荒げるも、他の者達は何を言っているのかわからないと言った様子。
仕方ない。ここまで言って出てこないなら……。
「この中に、侵入者の亡骸を食った奴がいる……かもしれない」
「「――なんだとッ!?」」
そう、俺が気掛かりだったのはこのこと。シャーリーの亡骸が、獣たちに食べられてしまった可能性である。
それを隠蔽するため、シャーリーの身に着けていた装備やプレートをどこかに隠したのでは――と、疑っていたのだ。
やわらかそうな若い女性の肉体。獣たちには、さぞ美味しそうに見えたであろう。……知らんけど……。
そんな俺の言葉に、信じられないと驚きの声を上げる獣たちであったが、その視線は一点に集中していた。
「なっ、なんで俺を見るんだ!? ……嘘だろ!? 違う! 俺は食ってない!」
遥か西から避難してきた、黒毛のウルフの族長コクセイだ。それを避けるように獣たちはその場を離れ、コクセイだけが孤立する。
「コクセイ。隠したプレートはどこだ? 今ならまだ間に合う。怒らないからそれを渡せ」
「そんな目で見ないでくれ九条殿! 本当に食ってないんだ! 新鮮な生肉が旨そうに見えたのは確かだ。だが、俺は我慢した。そもそも九条殿を裏切るわけがないだろう! 俺は九条殿の強さを見たのだ。逆らうはずがない! 俺はあの時、心の底から忠誠を誓った! それは今も変わっていない!」
それに疑いの目を向けたのはワダツミだ。
「怪しい……」
「ワダツミ! 貴様、我々は常に一緒にいただろう! それにお前こそ死体を運んでいる間に旨そうだと言っていたではないか!」
「そんなこと言った覚えはない! 言いがかりだ!!」
「野蛮なウルフ種同士の争いは見苦しいのぅ」
「なんだと! 白狐たちも肉は食うだろ! お前等も同罪だ!」
「確かに肉は食うが、人の肉など食うたことはない。なぁカガリ?」
コクコクと頷くカガリ。
「わかった! わかったからワダツミもコクセイも落ち着け!」
仮にコクセイがシャーリーを食べていなかったとしたら、炭鉱にいる可能性は高い。
ダンジョン内に生きた人間の反応がないのは108番から聞いている。
しかし、道を知っている彼女が炭鉱で迷うなんてことがありえるのだろうか?
少しでも可能性があるなら調べるしかないが、行方不明になってからすでに丸一日が経過している。
死んではいないだろうが、問題はどうやってあの迷路を調べるかだ。
「ひとまずコクセイの容疑は保留だ。申し訳ないが皆はもう少しここにいてくれ」
「そんなぁ……。ホントに食ってないんだぁ……。信じてくれぇ……」
半泣きのコクセイが少々不憫ではあるが、疑われるようなことをしなければ良いのだ。
そんなことよりも広大な炭鉱を一人で探すとなると、相当な時間が掛かってしまう。
スケルトンを大量に召喚して人海戦術で探すという手もあるが、そこからグレゴールが俺だとバレる可能性は否定できない。
「カガリ。シャーリーの匂いは覚えてるか?」
「誰です? それ」
「……まぁ、そうなるよなぁ……」
これだけ鼻の利く獣達がいるなら匂いで探すことは出来ないだろうかと考えたが、覚えるべき匂いがわからなければ意味がない。
そこでふと気が付いたのだ。逆の考え方ではいけないだろうかと。
「聞いてくれ。五層に置いてある冒険者たちの遺体。それとは別の匂いがダンジョン内に残っていないか調べることは出来ないか?」
「ふむ。やってみないとなんとも……。でもなぜ?」
「実はコクセイが食ってしまった冒険者を探しているんだ。冒険者は十四人だったんだが、一人足りない」
「だから食ってないって!」
「そういうことか……。やれやれ、コクセイの疑いを晴らすため、協力してやろうかの」
「俺もやるぞ! 俺は食ってないからな! 絶対に!!」
「すまない。助かる」
白狐とワダツミは仕方なくといった感じだが、コクセイのやる気は十分だ。
冒険者たちの亡骸に鼻を寄せる獣たち。その匂いを覚えると、一斉に部屋を飛び出した。
地面に鼻を近づけ、スンスンと匂いを嗅いでいる姿は和やかでもあり微笑ましくもあるが、数が数だけに壮大だ。
その数に物を言わせた甲斐もあり、目的の物は意外とすぐに見つかった。
「あったぞ! 九条殿!」
面目躍如と言うべきか、見つけたのはコクセイだ。
それに群がる獣達が次々匂いを嗅ぐも、これで間違いないと皆が声を揃える。
「周りの水でわかり辛いが、これだけはどの匂いとも違う物だ」
そこにあったのは小さなボールのような何か。ゴミだと思っていたそれは、シャーリーが所持していた可能性が高い模様。
拾い上げたそれに鼻を寄せるカガリ。
「あちらの方角ですね」
それは炭鉱へと続く道。
「ありがとう。みんな」
「俺の疑いは晴れたか!?」
「それはシャーリーを見つけたらだ」
「じゃぁ、俺も行くぞ!」
「いやダメだ。ここで待っててくれ」
全員で探した方が効率は格段に良くなるだろうが、俺とウルフたちの関係がバレるのは困る。
その点カガリなら問題はない。村でミアと一緒にいるのを見ているはずだ。
「よし、じゃぁ頼むぞカガリ」
新たに匂いを覚え直すカガリ。
シャーリーは本当に炭鉱で遭難しているのだろうか……。それともコクセイに食べられてしまったのか。
その謎を解明すべく、我々は炭鉱の奥地へと向かった。