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悠然と大きな水槽を泳ぐアオウミガメは満月の夜産卵をする確率が高い。これは満月の前後大潮になる事が大きく関係しているのだが、満ち満ちた海から砂浜までが最短距離である事を分かった上でのことだ。自然界において最も神秘的な新たな生命の誕生に向けて万全を期すための母親の知恵は数多くあるがアオウミガメの生存率はわずか0.3%程だと言う。
目の前に広がる水槽を前に大はしゃぎの32歳の男は100%の笑顔で俺の横に座ると〝ねぇ何書いてるの?〟朝のニュース番組の小ネタになればと水族館デートの最中も余念のない俺に翔太は〝ムードぶち壊しじゃないか〟とご立腹のご様子で現在スマイル75%台まで落ち込んだ。
亮平💚『で?何でコイツがいるんだよ!』
スマイル0%の俺は翔太の背後からイヤらしく腰を触る蓮を、自分史上最大の凄みを利かせて睨んだ。言うなれば俺の彼女に手を出す穢らわしい輩を追い払うようにこれ以上ない1,000%の牽制球を投げたつもりだった。
蓮 🖤『なにぃ阿部ちゃん…可愛い顔してどうしたの?』
もう散った…俺にはこれ以上なす術がない。
翔太は〝たまたまトイレで会ったんだよ〟なんて呑気なこと言って、たまたまな訳ないだろう、お人好しにも程がある。〝だからって何で一緒に周るんだよ?〟水族館デート開始早々トイレに駆け込んだ翔太はあろう事か蓮を連れて出て来た。〝せっかく会ったんだから3人で周ればいいだろう〟バカなのこの人、何処まで優しいんだよ。
蓮 🖤『阿部ちゃんごめんね初デートの邪魔だった?』
亮平💚『邪魔だよ!邪魔でしかない。それに〝初めて〟って分かっていてよく俺らについて来れるな!一人で周りなよ』
翔太💙『お前酷い奴だな…』
亮平💚『ムードぶち壊してるのはどっちだよ!』
蓮 🖤『翔太ペンギンさん見に行こうよ』
〝わぁ〜い行く行く〟なんて言いながら俺を置いて二人で見に行く始末だ。我慢の限界だ…ペンギン館に向かう二人の後ろ姿を見送ると、巨大な水槽の横に併設されたカフェに入ってコーヒーを飲んだ。〝落ち着け落ち着け…〟自分に言い聞かせるようにイライラを払い除けると、巨大なエイがダイナミックにゆっくりと俺の横を泳いで通り過ぎた。
エイの何ともやる気のない顔のような裏っ側が俺の事を嘲笑うように何度も通り過ぎる。
亮平💚『バカにしやがって…見てんじゃないよ』
正確には裏側にあるのは口と鼻で、目は反対側にあるらしい。一人で暇なのでスマホで検索して調べた。カフェから巨大な水槽を覗くと、ペンギン館から周回してきた蓮と翔太が仲良くイワシの群れを眺めているのが見えた。手を繋ごうと試みる蓮が不自然にぎこちなく手を彷徨わせ、そんな事お構いなしの翔太はシュモクザメに向けて両手を振っている。諦めた蓮がまたイヤらしく腰を撫でた。
あのまま別れた方が良かったのかも…そう思ってしまう程二人は楽しそうで、お似合いだった。俺が居ない事にすら気付いてなさそうだ。
怒りは100%を優に超えて、もはや悲しみMAX。
一度溢れ出した涙は簡単には止められなかった。
幸せなデートのが筈が一瞬で地獄だ。テーブルに突っ伏して涙が枯れるのを待った。蓮にこんな姿見られるのだけは真っ平ごめんだ。
携帯の着信音が鳴り画面を見ると翔太からだった。絶対出るもんか…電源を切って顔を伏せたものの、二人が気になって机上で腕を組み顔を乗せると横目で水槽を眺めた。向こう側のベンチで男女のカップルが仲睦まじく水槽を眺めてる。惨めな俺が映り込まないようにずっと低い姿勢を保った。幸せそうな二人の時間に俺は相応しくない。
翔太もこんな気持ちだったのかな…俺と佐久間がキスするところを見た時は〝忘れろ〟〝何も見てない〟そんな風に己に言い聞かせていたのかもしれない。俺に翔太を責める資格があるだろうか。
亮平💚『帰ろう…』
二人で潜った海のトンネルを一人で地上に向かって登っていく。二人で眺めた景色は今から始まるデートがロマンチックなものになる期待に胸を膨らませて、色とりどりの魚たちが僕らを祝福しているみたいに見えた。いつか翔太と一緒に本当の海に二人で潜りたいって思った。
明るい光と共に、地上の熱い空気が前方から襲ってくる。エスカレーターを降り重い足を前に繰り出すと水族館を後にした。
蓮 side
翔太💙『どうしよう蓮…亮平と逸れちゃったよ』
本当に逸れたと思っているらしい翔太は、恋愛関係に於いてあまり視野が広くないのだろうと思う。明らかに阿部ちゃんは俺のことを煙たく思っていたし、翔太に怒っていた。まぁそうさせているのは俺だけど。何かに夢中になると特に周りが見えなくなる…面白い程に。
蓮 🖤『翔太にぬいぐるみも買えたし、俺は先に帰るよ』
翔太💙『えっそうなの?もう少し見ていけばいいのに…ごめんねわざわざありがとう』
蓮 🖤『えっ?』
翔太にここの水族館を教えたのは俺だ。どうしても阿部ちゃんと水族館に行きたいからオススメを聞かれて、まだ翔太と行ったことのないこの水族館を教えた。まぁ二人のスケジュールを見れば日にちは簡単に推測がつく。〝わざわざありがとう〟と言った翔太はどうやら俺が二人を心配して見に来てくれたと勘違いしているようだった。
蓮 🖤『あっあぁまぁね見つかるといいね阿部ちゃん…そう言えばさっきあっちのカフェに座っている人が阿部ちゃんに似てたよ!』
だいぶ前に立ち上がってどっか行ったけどね…翔太の背中に舌を出すと踵を返して水族館を後にした。
蓮 🖤『頑張れ初心ラブあべなべ』
応援する気持ちなど全くないし、拗れてくれれば万々歳だ。我ながら正確悪いな…
時間あるし佐久間くんとお風呂にでも行くかな…
前を歩く見覚えのある細身の男が足取り重くとぼとぼと歩いている。ちょっとやり過ぎたかな・・・
蓮📩『翔太、阿部ちゃん水族館出てもう帰ってるよ。駅の方に向かって歩いてる』
〝ごめんね…阿部ちゃん〟前を行く阿部ちゃんに聞こえないように言うと、タクシーに乗り込みその場を後にした。
翔太 side
亮平らしき人が居たというカフェに付くとテーブルに置かれた紙に目が止まった。〝何これ…可愛い〟亮平の字で魚の生態などが書かれたその紙に手描きでアオウミガメとエイの絵が描かれていた。お世辞にも上手とは言えないがちゃんと特徴を捉えていてそれと分かる絵だ。いつかの企画で書いたパンダのようなタッチで描かれていてすごく可愛い。
見回すけれどこの辺りには居なくて、電話も繋がらないしどうしちゃったんだろう。走り回って探すけど見つからない。お腹でも痛いのかな?トイレ覗いてみるか…蓮からメッセージが届き慌てて水族館を出ると駅を目指して走った。何で何も言わずに帰るんだよ…
暫く走ると路地を曲がろうとしてる亮平を見つけた。全速力で追うとまた逃げた。
翔太💙『ねぇいい加減追いかけっこやめない?』
亮平💚『アンタがやめなよ』
こっちは水族館からずっと走ってきて体温まってるんだ〝負けないからな〟謎の闘争心が芽生え、お互い譲り合わない追っ掛け合いっこをした。結局最後は二人同時に力尽き逃げないように亮平の腕を掴んだ。
翔太💙『何で勝手に居なくなるんだよ?随分と探したんだよ。どうしたの?具合悪い?』
亮平は肩を震わせて泣いてる。〝なんか変な物でも食ったのか?〟そう言った途端に〝バカバカ〟とバカを連発して暴れ出したので元気はあるみたいだ。
翔太💙『ああっ!ぬいぐるみ置いてきちゃった!どうしよう…亮平戻るぞ!』
亮平💚『はぁ?ちょっと離してよやだ一人で行けよ』
亮平の腕を掴むと水族館までの道のりをまた戻って行く。
今朝は二人早起きをした。二人で洗濯物を干して、二人でキッチンに立って亮平が目玉焼きを作って俺はお皿に野菜を盛り付けた。俺は半熟80%、亮平は硬めの半熟具合25%だ。亮平の卵は扱いが難しい…何だか亮平みたいだ。早すぎても遅すぎてもダメ。
思い通りに行く人生なんて滅多にないのに亮平は融通が利かない。自分で作った半熟具合0%のカッチカチの目玉焼きにイライラしていた亮平のお皿に俺のトロトロの半熟目玉焼きを4分の1乗っけた。
翔太💙『はいこれで25%だよ。あ〜んして///ふふっ可愛い』
亮平は〝翔太のは80%だからこれの4分の1は…〟なんてくだらない計算を始めたので、残りの目玉焼きを口に突っ込んでやった。〝早く食べて出掛けるよ〟
初めてのデートは水族館と決めていた。亮平はダイビングが好きだ。ずっと行けてないって言ってた亮平にせめて海の中を体現して欲しくて水族館なら喜んでくれるかなって思ったんだ。
亮平💚『ここで待ってるから…』
亮平は水族館のロビーのベンチに座って動かない。俺はチケットを亮平に差し出すと受け取った亮平の腕を引っ張った〝行かないったら…〟本当気難しい奴だな。
翔太💙『やり直し。ねっデートのやり直ししよう?ごめんね俺なんか怒らせたよね?』
亮平は目にいっぱい涙を浮かべている。〝俺より可愛いとかやめてよね亮平〟
亮平💚『翔太より可愛い奴居るわけないでしょ////』
カウンターで忘れ物の中からぬいぐるみを受け取ると、朝乗ったエスカレーターに再度乗り、海のトンネルを手を繋いで潜った。亮平は俯いたままだ。
翔太💙『あっアオウミガメだ!』
トンネルをなぞるように雄大に泳いでる。〝生存率0.3%らしいよ〟ようやく顔を上げた亮平は水槽じゃなくて俺を見ていた。〝正確には卵から孵化した赤ちゃんの生存率だよアホ〟
翔太💙『あっエイだよ!あの変な顔見たいなところあれって鼻なんだって』
〝裏っ側にあるのが鼻で表側が目だボケ!それに 人のメモ勝手に見ないでよ…〟亮平はまた泣き出した。俺より口悪いし泣き虫じゃん。一番大きな水槽の前のベンチに座ると泣き疲れたのか亮平は俺の肩に顎を乗せてる…あざといな…
持っていたぬいぐるみを亮平に見せる。
翔太💙『どっちがいい?ウミガメさんとエイさん』
カフェで亮平のお絵描きを見てショップに買いに走った。〝白アザラシが良かった〟
翔太💙『ふはっはあっはぁっ何それ?水族館に居なかったし!』
亮平💚『白アザラシが良かった!』
〝俺より可愛いのダメって言ってるだろ〟亮平は俺の手を握ると顔を近づけてきた〝これでも可愛い?〟イヤらしく俺を見つめる亮平は…
翔太💙『カッコいい…ねぇキスしたい…』
平日のお昼なのにやたら子供が多いのは〝夏休みなんかクソ喰らえさっさと学校行けよ〟失言を吐く俺を他所に耳元でクスッと笑った亮平はエイを鷲掴みすると〝隠れ蓑にイイね〟なんて言いながらぬいぐるみに隠れてキスをした。
翔太💙『ふふっ…ペンギンさん見に行こう?』
口を尖らせて〝さっき蓮と見たでしょ〟なんて言って嫉妬していたんだと分かった。蓮と楽しそうな姿に嫉妬したらしい…初めてのデートなのに二人きりが良かったって…確かに反省すべき点だらけだ。
翔太💙『ごめんね許してよ…いつか亮平と海に潜りたいな…亮平の好きな景色一緒に見たい///もちろん二人きりでねっ』
亮平💚『なんでそんな嬉しそうなんだよムカつく』
嫉妬する亮平は〝やっぱり可愛い〟
水族館を周回通りにくまなく見て回った。帰り際、
小脇にエイのぬいぐるみを抱えた男とアオウミガメのぬいぐるみを胸に抱きしめた30過ぎの男が二人ショップで白アザラシのぬいぐるみを物色中の異様な光景に先程まで群がっていた小学生も若干引き気味だ。お気に入りのアザラシをゲットした亮平は嬉しそうだった。
亮平💚『翔太にそっくりで可愛い』
どの辺がだよ…ただ白いってだけじゃないか。嬉しそうなので余計な事は言わないでおく。
お昼ご飯を食べに近くの個室のあるレストランに入った。少し遅めのお昼は閑散としていた。
朝ごはんで目玉焼き食べた亮平はとろっとろのオムライスを注文している。
翔太💙『オムライスはトロトロで平気なんだね』
亮平は訳がわからないと言った風で小さなお口に放り込んでいく。俺は熱々のスパグラを頼んであまりの熱さに悪戦苦闘している。〝翔太どう?美味しい?〟熱くてまだ一口も運んでいない〝ふうーふぅーするの手伝って〟真っ昼間から二人でスパグラをふぅーふぅーしてる。
亮平💚『ほら食べてみて』
何だか亮平楽しそう〝ねぇまたデートしようね、ああっ!〟俺の手首を掴んだ亮平はスプーンに乗せられたスパグラを自分の口に運んだ。
翔太💙『そんなっ俺の最初のひと口なのにっ////ンンンンッ!』
押し倒してスパグラを口移ししてきた亮平は楽しそうだ。ぬるっとしててちっとも美味しくない…
亮平💚『初めては何でも二人で…スパグラは分け合う物じゃないねっ冷めるまでイチャイチャする?』
翔太💙『冷めたら美味しくないでしょ!』
〝残念でした…止められない〟亮平は融通が利かない。意外と我儘で、意外と獣だ。何処でもがっついてくる。
〝ンッ待って…〟長い亮平の指がお腹を撫でる。やばい…これはエッチしたい合図だ。既に亮平はベルトに手を掛けている。
翔太💙『ダメってダメって言ってるでしょ亮平』
亮平💚『バカね分かってるよ!そこまで変態じゃない…だから一人でイッてね…』
カチャカチャとベルトを外すと一気にズボンを下着ごと下ろすと、ばたつかせる俺の足を掴むと顔を寄せてきて〝静かにしてね♡〟
翔太💙『嘘でしょ!ンンンンッ…////』
〝しーっ〟なんて言ってすごく楽しそうな亮平はどっから見ても変態だ。扉一枚隔てた向こう側ではレストランの従業員が通路を行き交う音がする。
俺のモノを口に含み顔を上下に動かすと、快感で声がでる。慌てて亮平が口に手を当てると〝バカ静かに〟どっちがバカだよ〝もうやめてよ〟と目で訴える。
亮平💚『ヤダぁもうそんな目で誘わないでココに指入れちゃうゾ』
と後孔をトントンと叩いた。 やばいやばいこいつマジで頭おかしい…
興奮した亮平は膝で呼び鈴を押してしまい二人同時に青ざめる。スタッフの女性が〝はぁ〜い〟なんて言いながら小走りで近づいてくる音がする。
亮平💚『ごめんなさい間違って押しちゃいました』
扉が少し揺れ、手が掛けられているのが分かる。〝承知しました…お水入れましょうか〟
翔太💙『いらねぇよ!さっさとあっちい…ンッ』
亮平💚『すいませんお水大丈夫ですから…あんたバカじゃないの』
どっちがバカだよ生きた心地がしない…
亮平は〝 あらっ小さくなっちゃった〟なんて呑気な事言ってるからぶん殴ってやった。レストランを出てからずっと俺に謝ってきたけど絶対許さないからな。ロマンチックな初デートの筈がひとつもロマンチックに働かない。
亮平💚『ねぇそのペンギンの人形は何なの?』
翔太💙『んっ?あぁ…』
言ったら怒りそうだよな…察しがついたようで〝ふぅ〜ん言えないんだ〟形勢逆転の亮平はネチネチと家に着くまで文句を言い放つと、部屋に入った途端にペンギンは宙を舞った。荒々しく亮平に抱かれると、二度と怒らせまいと心に誓った。
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