テラーノベル
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共に生活していく上でお互いいくつかのルールを決めた。いや、ルールと言うほどのものでもないが。例えば掃除の仕方や当番、洗濯のタイミングや食事について。お互い好きなタイミングでお互いのやりやすいように、それでいてお互いの不満にならない程度に。どちらかといえば擦り合わせに近い。でもそれは言葉にして決めた訳でもなく、なんとなくの流れでそうなったようなものだった。
もう何年も離れてしまっていた。すれ違いで嫌な離れ方をしてしまっていた。それでもこうして顔を見て互いを肌に感じれば、まるで離れていた期間が嘘のように息が合っていく。そのことがたまらなく嬉しかった。
スンヒョンがどう思ってるかはまだわからないけど。一緒にいたときよりも少し距離を感じるし、ぶっきらぼうに冷たくなった気もする。それは2人があの頃とは違い「大人」になったからなのかどうなのか…。
「ジヨン…?」
呼ばれてハッとする。顔を上げるのが少し怖い。だって明らかに怒気が含んでる声だ。そろそろと顔を上げれば、想像通り眉を上げ口を真一文字に結ぶ彼と目が合った。
「俺が言いたいこと、わかるか?」
「はいごめんなさい」
足元に積み上げられていた雑誌をそそくさと片付ける。スンヒョンはそれ以上何も言わず小さくため息をついた。
(……なんか、)
懐かしいな。昔もこうやってよく怒られたっけ。なんだか胸の奥がむずむずしてしまう。
「……おい」
「ぅえ、?」
「何笑ってんだよ」
やばい。無意識のうちに口角が上がっていたらしい。だってなんだか懐かしくて、嬉しくなっちゃってさ。
「……んー…怒られちゃったなって、思って」
「はあ?なんでそれで笑うんだ」
呆れたような声で彼が頭を抱えた。俺は雑誌を棚に戻し終えると、ゆっくりと近づいて彼の顔を覗き込む。
「…………………ヒョンだってちょっと笑ってるじゃん」
「っ、」
耳が赤い。嬉しくてたまらなくなった。
「…るせぇ、っ」
「痛っ!」
叩かれた頭がじんじんする。力強すぎ。
シャワーを浴びて脱衣所から出る。バスタオルで頭をガシガシと拭いていると、トイレから戻ってきたスンヒョンがじっとこちらを見つめていた。
「……ん?なに?」
「………いや、なにも…」
「?そう?」
そう言いながらソファに腰掛ける。置いてあった携帯を手に取り明日の仕事のスケジュールを確認しながら、こめかみ辺りを軽く抑えた。今日は朝から少し頭が痛い。気圧のせいか偏頭痛がする。そんなに酷いものではないが、ここ2〜3年からふと感じることがあった。
すると、なにやら背後でガタガタと音が聞こえた。不思議に思って振り返ると、彼がドライヤー片手に立っていた。
「…え?」
「……」
「…どうしたの?」
問いかけになにも答えず、でも彼はコンセントをさしてくるくると丸められていたコードを伸ばしていた。
「……ほら、前向けって」
「………もしかして乾かしてくれるの?」
ゴーッという音ともに温風が頭に当たる。
「どうしたの急に」
「……別に。いつまでも濡れたままの髪でウロウロされたら困るだけだ」
騒音の奥にその言葉が聞こえた。よく分からないが、そのまま黙っておいた。
「……………頭、」
ドライヤーの音がうるさくてよく聞き取れない。
「え?なに?」
「だから、頭っ……………痛いんだろ」
「!」
びっくりして反射的に振り返りそうになる。ガッとその指で頭を抑えられた。
「おい動くな」
「……………よく、わかったね」
彼はなにも答えなかった。それは聞こえなかったのか、それともあえてなにも言わなかったのかわからない。
「本当たまにね。偏頭痛なんだけど」
髪を梳く骨ばった指が乱暴のようで、でもどこか優しい。
「…………いいから今日は早く寝ろ」
本当に素直じゃない。そんなの、心配してるって言ってるようなもんじゃん。
俺は擦り寄るように頭を寄せた。
「……うん」
「……」
「えへへ、ありがとう」
彼はやっぱりなにも言わない。俺はその指の感触を味わうようにゆっくりと目を閉じて、不器用な優しさに身を任せた。
ガチャッと玄関のドアを開けて、そこにある靴に思わず頬が緩む。今は一緒に暮らしてるのだから当たり前なのだが、玄関に置いてある靴だとか、ついてる電気だとか、そういったふとしたもので「スンヒョンと一緒にいる」ということを感じれて嬉しい。
「ただいま〜」
「おかえり」
こういう”おかえり”とか。今日は俺の方が仕事が終わるのが遅くなってしまったが、もちろん逆の場合もある。そのときは彼の”ただいま”が聞こえる。今は2人のコラボのために収録など同じ仕事の日もあるわけで、そのときは一緒に帰宅できてそれが嬉しいのだ。
「わあ」
テーブルに置かれていた料理に声を上げた。途端にお腹が鳴る。
「ヒョン作ってくれたの?ありがとう」
「大したもんじゃないけどな。俺も今から食べるところ」
「わーいやった〜お腹空いた」
さっそく手を洗って彼と向かい合って座った。ここ数日仕事が立て込んでた上すれ違いだったため、久しぶりに一緒に夕飯を食べる。
「いただきます!……ん!おいしい!」
そう言うとスンヒョンは微かに微笑んだ。思わずその顔を見つめてしまう。
「……なんだよ」
「ううん、なんでもない。美味しい、ありがとうね」
「簡単に作っただけだ」
「それでも美味しいよ。ヒョンは前から料理が得意だね」
「そんなことないよ、お前が下手なだけで」
「ぅっ…それ言わないでよ……一応最近は料理も頑張ってるんだから」
「へえ?そうなのか」
彼がグラスに入った水を煽る。少し出た喉仏が上下に動いた。
「じゃあ今度はジヨンの手料理楽しみにしてる」
「!」
なんだか照れちゃうな。だってまるで、
「……えへへ」
「ん?なんだよ」
「ううん、だってさ……」
「………だって?」
言うか言わないか迷う。俺は真っ直ぐに彼を見つめた。
「だってさ、なんか……まるで、恋人同士みたいだなって」
スンヒョンはそのもともと大きな目を更に見開いたあと、サッと視線を逸らした。眉間にシワが寄り、伏せた長いまつ毛が揺れる。
「…………なに言ってんだよ、ばか」
「……」
彼は小さな声で言うと、残っていた水を飲み干した。俺はその空になったグラスを持って立ち上がる。冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを注ぎながら、俺の心臓が微かに速くなってることに気付いて恥ずかしかった。
グラスをテーブルにゆっくりと置く。ちらっと見えた彼の耳は微かに赤い。
「………………ありがとう」
「…ん、」
かく言う俺も、顔が熱い。
コメント
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最近は忙しく、中々コメントできませんでした💦 今回も素敵なお話を私達に届けてくださり、ありがとうございます! まだ、少し距離があるような2人の、もどかしさがたまりません 甘酸っぱいですね🍓 次回のお話も楽しみにしています
あーもう、めっちゃ良かった…!特にドライヤーのシーン、心配してるくせに素直になれない感じがめちゃ刺さったわ。「頭痛いんだろ」って小声で言うとことか、不器用な優しさがにじみ出てて最高。最後の「恋人同士みたい」って台詞からの耳赤くなるお互い…こっちまで照れるわ。たぷさんのつむじさんの描く距離感の縮まり方が絶妙で、じわじわ温かくなれる話でした。次も楽しみ!🔥
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