約束の日、マネージャーさんにご挨拶をして、差し入れとして焼いてきた、ラッピング済みのクッキーを1袋渡した。
「それ陽菜の手作りね?」
「お口に合わなか ったらすみません、。」
「ん、おいしい!陽菜さんすごいですね!」
「いやいや全然、!」
褒められたとき、つい謙遜してしまうのはどうしてだろう。素直にありがとうございますって言えればいいのに、。
「ねぇ、ひとり反省会してない?」
「ん、…してる、。」
「もーほんっと、!」
「もっと楽に考えていいんだって。」
「着いたよ。」
現場に到着して、吉田さんの後ろをちょこちょこ追って歩いていれば、「陽菜ー!」って聞き慣れた声がした。
「舜ちゃん…!」
「陽菜ー、久しぶりー!」
ぎゅって、ハグをされる。
「相変わらずちっちゃいな。」
「っさいなぁ~!」
身を捩ってハグから抜け出せば、待ってや!って私の手を掴んだ。
「っ、!…痛い!!」
「え、…?」
「はぁ、はぁ、じん、と、く、」
「泣くな!っるせーなー!」
「や、…やだ、…やだ、…」
頭の中に、昔の記憶が鮮明に流れ込んでくる。息が苦しくて、縋るように手を伸ばせば、
「大丈夫大丈夫。お父さんじゃないからね」
吉田さんの声がして、
あぁ、今の全部昔の記憶か、ってやっと現実に帰ってこれた。
「ごめん、」
泣きそうな顔で、本当に申し訳なさそうに謝ってくる舜ちゃん。
「へへ、びっくりさせてごめんね、?」
お互い謝って、吉田さんがもうおあいこって決着をつけてくれて、3人で楽屋に入った。
「おはよーございます。」
「陽菜、仁ちゃん家快適?」
「はい、もう快適すぎて、。」
「え、一緒に住んでんの?」
「家庭の事情で居候させていただいてます。」
「あぁ、そういうこと?」
「です。」
慣れない現場の空気に、緊張して固まっていたら、現場のスタッフさんがおいで~って呼んでくださって、撮影中の様子を見せてくれた。
「どう?かっこいいでしょ。 」
「…はい、。」
どんな衣装も着こなして、カメラに笑顔を向ける5人が眩しくて、私の住んでいる世界と180度違うんだってことを改めて実感させられた。
「どの写真がいい?」
いくつもの写真が映し出されるモニターを見ながら、佐野さんが私に聞いてきた。
「…私は…これが好きです、。」
じっくり吟味して答えを導きだしたら、センスあるんじゃない?って、周りの人たちがよいしょしてくれた。
「そんな、!おこがましい…。」
「よし、戻るか。」
佐野さんに手を引かれて楽屋に戻れば、インタビュー中の吉田さん。
仕方なく楽屋の隅っこに座って、暇潰し用にと持ってきていた小説を開いた。
「陽菜、こっちおいで。体冷えちゃうから。」
吉田さんに呼ばれて、吉田さんの隣に座る。
甘えたくなって、吉田さんの肩に頭を乗せた。
「陽菜、疲れた?」
「ん。ねぇ今日の夜ご飯何がいい?私作るよ」
「…陽菜の得意料理で。」
「じゃあオムライスだ。」
「足りないものって何かあった?」
「…玉ねぎと鶏肉ぐらい。」
「じゃあ買って帰るか。」
「そうね。 」
「陽菜ちゃん、仁人とうまくやってる?」
「…はい、!」
「以上になります。」
「ありがとうございました」
撮影終わり、玉ねぎと鶏肉、足りそうになかったケチャップも追加で買って、吉田さんの家へ一緒に帰る。
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