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第五章 封じられた真実
第七話 神官の迷い
夕暮れが、帝都を淡く染め始めていた。
教会から少し離れた、裏路地近くの小さな広場。
人気は少ない。
大通りの喧騒が遠くに響いている。 その神官は、何度も周囲を確認していた。
「……ここなら、誰も来ません」
小さな声。
ハヤトは神官を見つめる。
「あなたの名前は」
「……クラウス、と申します」
薄い青色の瞳。
そこには迷いと不安が浮かんでいた。
「話したいこととは?」
クラウスは、ぐっと拳を握り締めた。
「……殿下達は、帝国の古い歴史について調べているのですよね」
シュンタとジュウタロウが視線を向ける。
ハヤトは静かに頷いた。
「そうだ」
クラウスは少し俯く。
「やはり……。
大神官様の様子がおかしかったので」
風が吹く。
神官の服の裾が揺れた。
クラウスは、覚悟を決めるように顔を上げる。
「教会には、表に出されていない地下区域があります」
空気が変わる。
ハヤトの目が細まった。
「地下区域?」
「はい……。
古い禁書や、危険と判断された遺物を保管する場所です」
シュンタが小さく呟く。
「やっぱ地下あるんや……」
クラウスは頷いた。
「ですが、普通の者は入れません。
限られた神官だけです」
ジュウタロウが静かに問う。
「お前はなぜ、そんなことを知っている」
クラウスの肩が、僅かに揺れる。
「……一度だけ、大神官様について入ったことがあります」
静かな声だった。
「その時、感じたんです」
シュンタが眉を寄せる。
「何を?」
クラウスは言葉を探す。
「……上手く説明できません。
ですが……、普通の場所ではないと」
「空気が重くて……近付きたくないような感覚がありました」
シュンタの表情が変わる。
それは、自分が教会で感じたものと近かった。
「大神官様は、そこで一冊の本を手にしていました」
「古代文字で書かれた……黒い表紙の本です」
クラウスは続ける。
「私は古代文字の解読を得意としていたので、連れてこられたのだと思います」
ハヤトが問う。
「なぜ大神官は、その本を持ち出さなかった」
クラウスは少し考える。
「おそらく……
禁書庫の資料は、外へ持ち出すことを固く禁じられているからです」
「それに、誰にも知られてはいけない内容だと、考えていたのかもしれません」
「十年以上前のことです。
全てを鮮明に覚えているわけではありませんが……」
クラウスは、遠い記憶を探すように続ける。
「そこには、我々が信じてきたものとは違う認識の文言がありました」
ジュウタロウの銀の瞳が、
静かに細まる。
「……どういうことだ」
クラウスは一瞬迷った。
そして、小さく答える。
「……我々が厄災と呼んでいる存在。
黒い少女、月蝕の子についての文言です」
風が止まる。
その沈黙を破ったのは、シュンタだった。
「なぁ」
真紅の瞳が、真っ直ぐクラウスを見る。
「その地下、今でも入れる?」
クラウスの顔が強張る。
「危険です!
もし知られれば、私は破門されます」
「最悪、帝都から追放されるかもしれない……」
それでも、クラウスの瞳には迷いが残っていた。
ハヤトが静かに口を開く。
「なぜ、俺達へ話した」
クラウスは、しばらく答えなかった。
やがて、
「……最近、教会の空気がおかしいんです」
掠れた声。
「夜になると、地下へ入る者が増えました」
「しかも、皆どこか怯えている」
シュンタとジュウタロウが視線を交わす。
クラウスは続けた。
「それに……」
言葉を切る。
「私は、分からないんです。
教会が、本当に正しいことをしているのか……」
ハヤトの黄金の瞳が、静かに揺れる。
三百年前。
黒い少女、月蝕の子。
幽閉塔事件。
そして、消された歴史。
それら全てが、一本の線で繋がり始めていた。
教会の地下。
そこに真実が隠されている可能性は、もう疑いではなくなっていた。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第50話、読み終わりました。 クラウス神官の“迷い”がすごく伝わってきました…。 秘密を明かすかどうかで揺れる瞳、空気の重さ、全部リアルで、読んでて息を詰めました。 「夜になると地下へ入る者が増えた」っていう一文がめっちゃ不気味で好き。 シュンタくんの「なぁ、その地下、今でも入れる?」の問いかけ、静かな迫力があって痺れました…。 ついに真実の鍵が見え始めた感じ、次が待ちきれないです。 comiさんの世界観、本当に丁寧なので、これからもずっと追いかけます🌙