「何だよ……?」
雅次は眩しさに眉間に皺を寄せながら聞いた。
「あの日―――6月24日、花崎さんが死んだ福島県梨里村の山守橋の上で、復讐という花言葉を持つキショウブを手向けたあなたに、死神が話しかけた。
自分の命と引き換えに、花崎祐樹を蘇らせるかと」
「――――」
「あなたは二つ返事で了解し、その条件として、自分もこのゲームに参加することを選んだ」
「―――それがどうした……?」
眉間に皺を寄せたまま雅次が答える。
「遡ること6月19日、あなたが写真を見て、花崎さんをあぶり出すのは夜の7時。
花崎さんが新幹線で最寄りの大宮駅に着くのは午後2時。そこに5時間のタイムラグがあります」
「――――!」
「わかりますね。花崎さんは母親と翔真君の死体を隠します。それも、完璧に――」
雅次は眩しくて見えないアリスを睨んだ。
「そもそも根拠があなたの車の目撃情報しかないなかで、家に証拠である死体もなく、今までの少年たちの死体を遺棄したと見られている時間帯に、仕事というアリバイがある花崎は、捜査対象から外れます」
「―――そんな……」
「このままでは、花崎祐樹は逮捕されません。彼は生きて犯罪を繰り返す。あなたが自殺した後の世界で―――」
「……させるか……!!そんなこと……!!」
雅次は叫んだ。
「ですよね。そう言ってくれると思いました」
光の中、アリスは微笑んだ。
「……?」
「……僕の両親は、花崎さんと同じバスに乗っていました。病気である僕を見舞った帰りの出来事でした」
「―――?」
雅次は目を見開いた。
「君は……人間だったのか……?」
「ええ。そうです」
アリスは微笑んだ。
「生き返った花崎さんが、あのバスを停めるかバスの運転手に注意喚起してくれるだけでも、助かる命でした。でも彼は、それをしなかった」
アリスが目を伏せる。
「6月24日、僕はあの日、山守橋にいた。生きていても病気のため、長くはない命でした。どうせなら両親が眠る場所で一緒に死にたい。―――自殺をするつもりでした」
「――――アリス君……」
「そこであなたと死神との会話を聞きました。駆け引きに応じたあなたがその場で倒れ、僕はあなたの死体を介して死神と向かい合った」
「………死神と……?」
「おそらく、自殺なんかしなくても死期が近かったので、見えたのだと思います」
「もしかして、君は―――」
アリスは頷いた。
「あなたを生き返らせてくれるように死神に頼みました。僕の命と引き換えに」
ドアの外から入ってくる光が強くなる。
「……アリス君!」
『ゲームはあなたの負けです。でもまだ終わってませんよ』
アリスの声が遠くなる。
『今日は走ると言ったでしょう?』
「待て!君は……!君はどうなる……!?」
『今ならまだ間に合う。翔真君を助けてあげて下さい』
アリスは光の中で笑った。
『最後のゲームの名前は〇〇〇〇ですよ?』
「――――!?」
『忘れないでくださいね』
アリスは唇に人差し指を付け、ドアを開け放った。
その瞬間、雅次の身体は、飛び込んできた白い光に溶けていった。
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