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「ここが、きょうと…?」
小走りで付いてきながら桃華はきょろきょろと辺りを見回していた。
隣にはいつの間に仲良くなったのか、皇后崎の姿が。
「桃華、こけるなよ」
「うん!じんくん!」
その姿はまるで兄妹の様に見える。
ほほえましく思いながら歩いていくと、ある店で店主であろう老婆が「お待ちしておりました」と守達を出迎えた。
店の畳の下にある階段を下っていき、地下を歩いていくと明かりが見える。
その明かりに向かって歩いていくと、ふすまのような戸が見えた。
すぱんと小気味良い音をたてながらその戸を開けると、中にいる援護部隊の人達のある人物への怒号が響き渡っていた。
「カリカリせずもっと悠々といこうよ~」
そう言いながらある部屋から出てきたのは明るい髪色とピアス、白衣が特徴的な男だった。
男はこちらに気づいたかと思うと怖いもの知らずにも無陀野に「ダノッチじゃん!」と話しかけてきた。
「いつ来たの!?メッセしてよ~!」
ダル絡みに動じない無陀野を置いていったマシンガントークを終えたかと思うとぽかんとした顔の桃華の後ろにいる漣水鶏に気付き、声を上げた。
「あれ、可愛い子いるじゃん!俺前髪大丈夫?!ちゃんとセットして~!」
前髪をいじったあと、メアドを交換しようとして撃沈した男は、無陀野の肩に腕を回した。
無陀野はそれを無視して男の紹介をする。
「こいつは花魁坂京夜。鬼機関京都支部援護部隊総隊長だ」
「ダノッチとは羅刹学園の同期なのよ~!」
淡々と説明する無陀野と「イェイ!」とビースまで決める男_花魁坂。はっきり言って間逆な二人だが、一際目を丸くしている者がいた。
桃華である。
「きょうにい…!?」
大きく目を見開いて花魁坂を見ている。
「そうだよ~!君の大好きな京兄だよ~!」
無陀野と守以外の者を置いてきぼりにして桃華を抱きしめ、頭を撫で回す。
無陀野はそこに触れず「じゃあそのワンパク共よろしく頼む」と、さっさと外へ出ていった。
そこに間髪入れず襖が開き、女性が顔を出す。
「守さん?…ということは羅刹の生徒達ね。早く着替えて手伝いなさい!」
そう言われて着替えたのは少し暗めの赤色をした服。
桃華も子供用を着せてもらって張り切っているのだが、 その横ではさめざめと泣いている守がいた。
守が着ているのは女性用のワンピース型ではなく男性用のセパレートタイプのズボン。
「守さん!似合ってるって!」
「…」
「よっ!良い男!」
「馬鹿お前…!」
口々に四季達が慰めるが、その内の一人の言葉によってさらに守の涙腺が崩壊していく。
もう駄目か、と思ったとき、救世主が 現れた。
「おねえちゃん、まだないてるの?」
桃華である。
桃華はぺふぺふと守の肩を叩きながらこう言った。
「ぼく、おねえちゃんががんばってるとこ、みたい」
その言葉が決め手となり、「守、ふっかーつ!」とピースを決めながらしゃきんと立ち上がると、キリッと引き締まった顔で言った。
「さ、京兄、俺何すれば良い?」
花魁坂は苦笑したが、すぐに総隊長の顔になって言った。
「すぐに輸血パックが必要になる。守、持ってきといてくれる?」
そう言う花魁坂の目の前には、両手両足の無い、肺まで傷ついているのか苦しそうに息をする戦闘員の姿があった。
輸血パックを守が持ってくると、隊員が花魁坂に針を刺していく。
何本もの管で輸血パックと繋がれた両腕を広げ、花魁坂は言葉を放った。
「さあ、職場体験を始めようか」
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