テラーノベル
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甘泉めあʚめめあ・めあちɞ
175
羽海汐遠
10,439
#創作
こと-koto
89
無事に街へと到着し、街の商人達も合わせ、みんなで慌ただしく荷物を下ろしていく。
「とりあえず行きは大丈夫でしたね」
アルテアは安心したように一息つき、ニティア達の方を見ると……
「すごい……これが海……」
「でけぇ!向こう側までずっと水だぜ!しかも……なんか変な匂いもするし!」
「ほんとだ……川とは違う不思議な匂い……」
初めて見る海にテンションが上がっているニティアとフィニス。そんな2人をよそ目に、アルテアの後ろでルシオがふっと笑った。
「初めて海を見たんじゃああなるのも仕方がないわな(笑)」
その言葉にアルテアも優しく笑う。
「そうですね。まだ荷物の積み下ろしに時間もかかりそうですし、少し街を見てまわりますか?」
「お!いいのか?」
「私も行きたい!」
アルテアの提案が聞こえたのか、即座にアルテアに顔を向ける2人に、ルシオとアルテアはくすりと笑った。
「そんじゃ行くか。降りて行ったところにちょっとした市場があったはずだし、ついでにそこで何か食べようぜ」
そう言って歩いていくルシオに、フィニスとニティアが浮き足だった足取りでついて行く。
まるで子供のようにはしゃぐ2人を見て、アルテアも自然と笑みを浮かべながら、ゆっくりとみんなの後をついていった。
⸻
「それでは、帰りもお願いしますね」
魚の干物や塩漬け。その他食糧を大量に積んだ荷車が出発し、街を出る。
「帰りも何事もないことを祈るばかりだな」
そう言いながら、ルシオはごろんと荷車の中で寝転がる。
「あ、そういえば気になってたんだけど」
フィニスがルシオの盾に手を触れる。
「この盾って、魔法を吸収するわけじゃん?」
「あぁ、そうだね」
「ドラゴンの吹く炎ってどうなの?あれ魔法になるの?」
「あ、確かにそういうの気にしたことなかったわね」
「言われてみれば……」
3人の視線がルシオに集まる。身体を起こしたルシオがゆっくりと口を開いた。
「あれは魔法じゃないから吸収できないな……でもまぁ、その辺の盾より耐久は強いから、防ぐことはできる……はず……」
「はず?」
微妙な答えに首を傾げるニティア。
「そういう風に言われてるけど、さすがに試したことはないもんで(笑)」
「まぁ確かにそうそうドラゴンと対峙することなんて無いしな」
「その盾って、私の防護魔法も吸収しちゃうのでしょうか?」
「いや、あくまでこれは使用者に危害を加える魔法しか吸収できないから、強化魔法とかは大丈夫」
「ふ〜ん……色々あるのね」
そんなやりとりの中、ふとフィニスの双剣に視線を移したルシオ。
「フィニスもまだ決めてないんだろ?」
そう言って双剣に指をやると、フィニスは困ったように笑う。
「まぁ、今までそういうの使ったこともないから、いまいちピンとこなくてなぁ〜」
フィニスがそう言いながら双剣を眺めていると、突然……
ドスン!
「きゃっ!」
「うぉ!なんだ?!」
何かが荷台のカバーを突き破り、中で座っているフィニスの膝上へと落下してきた。膝上の物体をまじまじと見るフィニス。
折り畳まれた翼に、全身を覆う紅い鱗。子猫程度の大きさのその生き物が、身体を丸くしてフィニスの膝上で目を瞑っていた。
「あの……これってもしかして……」
恐る恐るアルテアの方に顔を向けるフィニス。
「紅炎龍の……子ども……?」
その言葉にルシオははっとした顔をし、急いで荷車から外へ飛び出す。
一度足を止めるように商人へ叫び、周囲をキョロキョロと見回すが……異常はない。しかし、どこからともなく聞こえてくる風を切るような音。子どもの紅炎龍が降ってきた上空に目を向けるルシオ。
「……っ!親の紅炎龍だ!来るぞ!!」
ルシオの声に子供を膝から下ろしたフィニスが飛び出し、ニティアとアルテアも後に続く。
「ひ、ひぃ〜!!」
先導していた商人が後ろへと避難をし、4人が列の先頭で陣を取ると、正面で向かい合うような形で降り立つ紅炎龍。
『グルルル……』
低い唸り声と共に紅炎龍が口を開いた。
「マジかよ……!アルテア!防護魔法!全員俺の後ろに!」
そう叫び、ルシオは3人の前で盾を構えた。
次の瞬間……
『ガァァァァァァ!!』
口から灼熱の炎を吐き出す紅炎龍。
ルシオの盾とアルテアの防護魔法のおかげで、全ての炎が盾の後ろにまで放射されることは無かった。
「あっつ!」
盾を構えているルシオが呟く。炎を吐き続ける紅炎龍にどうしたものかと考えを巡らせていると……
「お〜りゃっ!」
先ほどまで背後にいたはずのフィニスが、双剣を手に紅炎龍へ斬りかかろうとしていた。
ギョロリとフィニスの方へ視線を移す紅炎龍。炎を吐くのをやめ、大きな羽ばたきと共に空へと飛び上がった。
「あんにゃろう!ニティア!」
切り掛かる寸前で飛ばれてしまったフィニスがニティアの名前を叫ぶ。
「もうやってる!いくわよ!!」
バリバリという音と共に雷の槍が紅炎龍へと襲いかかる。
「ナイス!」
雷のような速さで飛び交う魔法。そんな魔法をひらりと躱し、翼で弾き飛ばす紅炎龍。
「あれ当たらないとかまじかよ……」
「しかも弾いたぞあの翼……」
「鱗ひとつひとつに魔法耐性がついているんだ……」
こちらの様子を見るように飛び回っている紅炎龍。
「全体への防護結界張り終わりました!これで荷車の方も何回かは炎を防げるはずです!」
「助かる!しばらくの間アルテアはそこで荷車の結界が維持できるように見張っててくれ!」
「わかりました!あとは適宜皆さんへも強化魔法を入れますね!」
未だ空を飛び続けている紅炎龍。ニティアも様々な魔法を放つも、殆どが躱され、当たっても対したダメージを与えられていない。
上空から飛びかかってくる紅炎龍の攻撃をルシオが盾で防ぎ、振りかぶる爪をフィニスが双剣でいなす。
焼けつくような炎はアルテアの結界で防ぎ、結界が切れそうになったら再度魔法をかけ直す。
「ニティア!この前の魔族倒した時みたいな強力なやつは撃てないのか!?」
ルシオが盾で炎をやり過ごしながらニティアに叫ぶ。
「わかってる!」
そう言い、術式を構築し始めるニティア。
(中途半端な魔法じゃ紅炎龍には意味がない……でも、強すぎる魔法じゃ紅炎龍を殺してしまう……)
一瞬だけ荷車を視界の端にいれるニティア。そして、雨の中の光景と、雨上がりの炎を思い出す。
紅炎龍がこちらに攻撃するタイミングで直撃しないように魔法を放つニティア。それを察知し、躱していく紅炎龍。何度か繰り返すうちに紅炎龍も攻撃のタイミングが分からなくなったのだろう、少し距離を置き始めた。
「硬くて全然キレねぇ……」
「さっきの魔法も当たらないのか……どうするか……」
そんなやりとりをしている2人。このままではジリ貧である。
(このままじゃやられちゃう……でも……子どもを残して親を……)
どうしていいか分からずに、杖を強く握ることしかできないニティア。そのとき……
予想外の出来事が起こった時、今一度落ち着いてみてください。ニティア……あなたには、どんな困難だって乗り越えられる力がありますから
杖を握る手の力がふっと抜けた。
(そもそもなんで紅炎龍と戦ってるの……?親……子ども……)
【……この時期は子供が巣立ち前で色々と飛び回り……その際に親が子供を守るために目に映る物を襲い、焼き払う。確かそんな生態があったような……】
(……そうか!!)
「アルテア!荷車の中!」
「!?」
ニティアの声に驚き、フリーズするアルテア。
「早く!!」
再び響き渡るニティアの声に頷き、急いで荷車の中へ入り込むアルテア。
ニティアは再び術式を構築し、紅炎龍の動きに合わせて牽制の魔法を撃ち続けた。
「おいニティア!そんなんじゃ牽制にしかならねぇぞ!」
紅炎龍のブレスを必死に交わしながらニティアの元へ近づくフィニス。
「これで大丈夫……」
フィニスに聞こえるように小さく呟くと、紅炎龍の子どもを抱き抱えたアルテアが荷車の中から姿を現した。
我が子を前に理性を失ったのだろう。激しい咆哮をした後、ニティアの魔法が直撃してもなお、アルテアに向かいまっすぐ飛んでくる紅炎龍。
「アルテア!」
ルシオがアルテアの前に立ち塞がろうと走り出す。しかし、ルシオが盾を構えるよりも紅炎龍の牙がアルテアに届く方がはるかに早い。
そんな状況なのにも関わらず、アルテアは優しく微笑み、腕の中で眠っている小さな生き物に回復魔法を使用した。
ぱちりとつぶらな瞳を開け、小さく鳴き声を上げた後アルテアの腕の中で身体を起こした紅炎龍の子ども。その姿が見えたのか、アルテアに突撃していた紅炎龍は、アルテアのすぐ目の前で停止し、ゆっくりと顔を近づける。先ほどまで感じていた敵意が全くと言っていいほど無くなっていた。
「……止まった?!」
駆け寄ろうとしていたルシオがぽつりと呟く。
「もう大丈夫ですよ」
そう言って腕の中の子どもを親へ返すように持ち上げると、再び小さな鳴き声を上げた後、パタパタと飛び上がり、親の頭の上に乗っかった。
「な……急にどうしたんだ?」
「よかった……」
その様子を見て驚くフィニスと、安心するニティア。
親の紅炎龍が鼻先をアルテアの身体になすりつける。
「気付くのが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」
そう言い、今度は親の紅炎龍を回復するアルテア。
目を閉じてクルクルと喉を鳴らす紅炎龍。アルテアが鼻先を優しく撫でると、紅炎龍は頭に子どもを乗せたまま、空高く飛び上がり、はるかかなたへと飛んでいってしまった。
「なんだったんだ……」
唖然としながら呟くフィニス。
「巣立ちの練習で飛んでいる子どもを守るために、親は警戒をして危険を取り除こうとするって言ってたでしょ?」
「あぁ、確かアルテアが言ってたな」
「あの子ども。私たちが乗っていた荷車に突っ込んできて、そのまま寝ちゃったでしょ?まだ子どもで体力がなかったのか……突撃してきた衝撃でどこか怪我をしちゃってたのか……どっちにしても、アルテアに回復させて、どこか飛んでいってもらっちゃえば親もそっちの方向へ行くんじゃ無いかなって」
ゆっくりと2人の元へ歩いてくるアルテアとルシオ。
「実際、翼の付け根のところに怪我をしていたんですよ。おそらく飛ぶ分には問題なかったでしょうけど、それでも痛くて休んでいたのかもしれません」
「せめてそう言う危ない事は俺の後ろでやってくれないと……勘弁してくれ……」
ルシオは苦笑いし、その場に座り込んだ。
「ニティア」
座ったまま、ルシオがニティアに視線を移す。
「お前、やろうと思えばもっと早くやれただろ」
「……」
俯くニティア。
「ごめん。やろうと思えば……もっと早く殺せたと思う」
ゆっくりとルシオに視線を移す。
「でも……子どもの前で、親を殺すなんて……したくなかったから……」
「ニティア……」
そう呟いたフィニスは、ニティアの頭にそっと手を置いた。
「まぁ、なんとかなったわけだし、お前が本気で暴れたら荷車にも影響出てただろうしな(笑)」
「私も生態の事を知っていたのに……最初に気づくべきは私でした。すみません」
「……別に咎めてるわけじゃ無いんだ。ただ……次からはもっと教えてくれ……そうすれば俺らもいいアイデアとか出せるかもしれないんだからさ」
「うん。ごめんね」
「ま、一件落着って事で!早く帰ろうぜ!」
くすりと笑った4人。
後ろに避難していた商人に声をかけ、再びゆっくりと王都を目指すのであった。
コメント
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わあ、第45話読み終えました!今回も見どころ満載でしたね。 まず、初めての海にはしゃぐニティアとフィニスの姿が可愛くて、つい微笑んじゃいました。でもその後の紅炎龍の親子のエピソードが本当に印象的で…。子どもが突然膝の上に落ちてくるシーンはドキドキしましたし、親子を♡♡♡ずに解決しようとしたニティアの優しさが胸に響きました。生態を思い出して「そうか!」と閃くところ、すごくニティアらしいなって思います。 アルテアが回復魔法で子どもを助けた場面も、静かで温かい空気が伝わってきて、本当に良かったです。4人の連携もバッチリで、今回も読み応えたっぷりでした!