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二人が扉の方向に目をやり、構えを取ると
なにがが不意に飛び出してきた。
二人は動揺せず、しっかり避ける。
そのまま壁にぶつかったのは、思った通り
彼、イヂィンだった。
見た目は変わらずいるように見えたが、体全体の活気がないように見える。
皮もシワシワで、まるで死人のようだ。
まさか、とは思うが 二人とも感じていることがあった。
それは、
呪化ではないか と。
リンシィーが1歩近づいた瞬間、イヂィンから
何やら黒い煙が漂ってきた。
その煙は異臭を放っていて、息を止めずには居られないほどだ。
2人で顔を見合わせる。
これは…… 呪化 だったのだ!
二人で呪化を駆除できるだろうか。
不安しか残っていないが、やるしかない。
リンシィーの顔を見ればわかる。
二人は1度距離を取った。
「この古屋の中はまずい。一旦外へ!」
リンシィーが全開の扉から勢いよく外へ出た。
リンデェンも下がろうとすると、なにやら
イヂィンがブツブツ唱え始めた。
まずい……
1歩足を下げたとき、全く見えない速度でイヂィンが襲い掛かってきた!
思いっきり床に打ち付けられたリンデェンは、動けなかった。
すると、リンシィーの声がした。
「デェン師!」
叫ぶ声がよく聞こえる。
何とか起き上がろうとした時、突然目の前に
なにかが自分の上に覆いかぶさった。
顔らしき部分の半分は、緑色で腐っている。
これがイヂィンなのか。
出ていゆく前の老爺とは、全くの別人だった。
「イヂィン殿?」
リンデェンが口を開いた途端、イヂィンは
リンデェンの口の中に何かを入れ込んだ。
思わず噎せ、咳き込んだ。
「デェン師、大丈夫ですか!なにが?」
リンシィーの声が微かに聞こえた。
きっと大声なのだろうか、今は何故か 声が聞こえにくい。
何を飲まされたんだ?
息が苦しくなる訳でも無く、ただ一時的に無噎せただけだった。
イヂィンは覆いかぶさったそのまま、リンデェンを見つめている。
流石にまずいと思ったリンデェンが反撃に出ようとしたら、いきなり
イヂィンの手がリンデェンの首を絞めた。
「リンシ、……」
声が出ない。
苦しくて足掻くが、余計に息がしにくくなるばかりだった。
横目でリンシィーの方を向くと、動けないよう呪をかけられたのだろう。
全身で動こうと抗っているが、まったく身体が反応していなかった。
イヂィンの方を向くと、さっきよりも絞める力が強くなる。
このままだと本当に死んでしまう。
手足は棒のように動かない。
リンシィーだけでも生き延びるよう願い、死を覚悟したその時 ̄
いきなり、イヂィンの姿が見えなくなった。
そして、絞められていた手首も無くなる。
いきなり息が出来るようになり、返って過呼吸になっていた。
しばらくして荒い息を収めると、目の前の光景に唖然としてしまった。
古屋の壁を突きぬけ、遠くにイヂィンが。
それと、まるでイヂィンに立ちはだかるように
1匹の鹿 ― だろうか。
青みがかった体と、青光りしている角。
耳の部分に、花のようなものが付いている。
だれかの家畜とは絶対に思えない。
光る生き物を見るのは、数百年ぶりだ。
あまりの光景に言葉を失っていた。
すると、後ろから声がした。
「デェン師、動けます。大丈夫ですか?」
リンシィーはいつの間にか、動けるようになっていたそうだ。
軽く首を慣らしている。
「何とか私は大丈夫だ。これは一体……? 」
不思議で仕方がない。
リンシィーは青く光る鹿を警戒している。
剣を棹から抜いた。
だが、リンデェンには危険な雰囲気が微塵も感じられなかった。
むしろなんといいか……
可愛かった。
1歩ずつ、ゆっくり近づいていく。
その間、鹿はずっとリンデェンを見つめていた。
「デェン師、何をされているんですか。
危険性がありますから、離れましょう。」
リンシィーの声は何となく聞こえたが、止まることはなく、目の前まで来た。
そっと、鹿の頭を撫でてやった。
すると、鹿は嬉しそうに喉を鳴らす。
その姿を見て、リンシィーは驚きの声を漏らしていた。
「君は……そうか。助けてくれたのか。
どうもありがとう。 おかげで生きている。」
何度も撫でながら繰り返した。
嬉しそうに反応する鹿が可愛かった。
すると、突然リンシィーが隣へ来、
「彼奴が……」
と口を挟んだ。
それを聞いて、遠くにいたイヂィンの方を見る
イヂィンが身体を変形させながら、こちらへ近づいて来ていた。
なんとも気持ち悪い見た目で、相変わらずの異臭である。
ただ、黒いモヤは消えていた。
「まずいですね、デェン師どうしましょう? 」
リンデェンに尋ねた。
この鹿はどうしようか。
戦おうとも、さっきの同じ結果になるのは目に見えていた。
思わず、鹿の方を見つめる。
「この子は……どうしようか。」
声に出して聞いてみた。
すると、意外にもリンシィーは答えてくれる。
「そうですね……先程のことや行動を見る限り、戦力になるかもしれませんが、
言葉は通じるのでしょうか。」
きっと自然にリンシィーも、ただの鹿ではないと考えている。
一度試してみることにした。
「私はリンデェン。君は、一緒に戦ってくれる?それとも、ここを去っても良い。
もし言葉が通じるなら、合図がほしいかな。」
駄目元で一応話してみた。
すると、その鹿は前足を大きく上げリンデェンに身体を擦り付ける。
言葉が通じたのだろうか。
希望が見えてきた。
さっき、リンデェンを助けてくれた時のは
ただの飛び蹴りには見えなかった。
なにかの力があるのでは?
「一緒に挑んでくれるのか。優しいね。」
口任せに言っておき、またイヂィンの方を見やった。
鹿は得意げにリンデェンに向け大きく鳴く。
少しリンデェンがよそ見をした時、いきなり
イヂィンが飛び掛ってきた。
早すぎるその動きに反応しきれなかった 。
それをリンデェンも理解し
「あ」
と、一言零す。
すると、いつの間にか目の前にはその鹿が居た。
代わりに攻撃を受けてくれている。
そのおかげで一瞬できた隙を見逃すことなく、
リンデェンは思いっきり刃を降った。
真っ二つに切り裂くその手前、突然力が入らなくなってしまった!
なんとか踏ん張ってみるが、動かない。
それ以上刃が奥へ進むことはない。
すると、リンシィーが咄嗟にリンデェンの力に加担し、倍の力がかかる。
そのおかげで、イヂィンを裂くことに成功し、
次には動かなくなっていた。
「リンシィー、ありがとう。」
これは心からの感謝だった。
何故突然に、力が入らなくなったのか。
原因はわからない。
ただ、これはあまり軽視できるのとではないも思う。
また話さなければならない事が増えた。
もう説教はいやだし、落ち着き次第早く報告はしておこう。
「あ、あと君もありがとう。助かったよ。」
きっとこの鹿が受け止めてくれなければ、リンデェンの骨のどっかは折れていただろう。
鹿の体は大丈夫なのか心配で見てみるが、
特に怪我もなかった。
なんと丈夫なのだ。
関心していると、リンシィーが尋ねてきた。
「此奴は呪化で間違いないですよね。でも、どうしてこんな所に……」
呪化 とは、鬼の中でも知能があり、化けることからそこらの鬼よりも上級である。
ただ、だからこそか、ここに居るはずも無かった。
本来なるば、もっと都のほうに居るはずだ。
「私も不思議だ。こんな森奥に、呪化が来てしまったのか、検討もつかない。」
二人は、シワシワに萎んだイヂィンをしゃがんで見つめている。
異臭も無くなっていた。
色々考え合っていると、リンデェンの背中をなにかがつついた。
「なんだ、君か。どうしたの?」
鹿の青く光る角だった。
するとその鹿は、リンデェンの前に一輪の光る花を鼻で押し出した。
「この花は……綺麗だね。ねぇ、リンシィー
名前を知っているかい?」
花を色々な角度で回しながら見つめながら、リンシィーに聞く。
「いえ、分かりません。とても幻想的なお花ですね。」
リンシィーも隣で見蕩れている。
「君が耳に付けている花飾りと、同じ花かな」
特徴もよく似ている素敵な花だった。
「そうでしょう。この鹿は一体……」
リンシィーが言い終わる前に、鹿は突然山の奥の方へと走り去っていった。
まって! と声を掛けるが、一度振り返ってから、止まることはなく消えていく。
残された一輪の花を見て、ただの花では無いことに気がついた。
「裏に金具が着いている。これは……耳飾りなんだ。」
リンシィーも同意した。
「そうっぽいですね。デェン師、付けておいてはどうです?」
リンシィーの言う通り、せっかくの縁で左耳に付けておくことにした。
風に揺られ、微か爽やかな匂いが香る。
二人は、イヂィンの処理を終わらせ、古屋へ帰っていった。