テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
1部大きく穴の空いてしまった部屋は、荒れ果てていた。
穴を除けば、前となんら変わりは無いが、穴が空いたのが少しイタイ。
今日一日はこのまま過ごすことになった。
もう日が暮れるため、二人は夜の準備をした。
今日の出来事について、さっさと話しておきたい が本音だったが、
以外にもリンシィーは焦る様子もなく、落ち着いている。
随分立派になったものだ。
成長を1人で感じていると、夕飯の準備が出来たようだ。
「デェン師、夕食できました。食べましょう」
机の上には、2つの料理がそれぞれに並んでいる。
昔から、リンシィーの作る料理は ハズレ無し。 美味しいのは、全てだった。
「いただこう。」
食べながら、リンデェンはフラットに聞いた。
「あの鹿のことがずっとずっと頭にあるんだ。また現れるかな。」
夜の虫の音が、静かになってきた。
「どうでしょうね。 ただ、貰ったその花の耳飾りは、何か意味を成すと思います。 」
そうかもね。 とだけ言い残して、リンシィーの作ってくれたご飯をたいらげた。
次の日、目を開けるとリンデェンの肩にリンシィーがもたれかかっていた。
床で話しているうちに、互いに知らぬ間眠っていたのだろう。
何とか起こさないようそっと離して、昨日空いてしまった大きな穴を見つめた。
― 床に近いところに穴が空いてしまった……
今日中にでも、修理しようか。
リンシィーが怒る前に、朝食を作っておくことにした。
ただ、金がもう残り少ないため、作るのはリンシィーの分だけ。
上神天花だった頃、一時期一月何も食べなかったこともある。
すると、扉を3度叩く音がした。
一瞬驚いたが、返事をして 扉を開けた。
「どちら様でしょうか?」
扉を開けた先には、1人の青年がいた。
青と黒の、随分上品な服を纏っている。
綺麗な絵柄でありながら、動きやすそうな 相当良いものだろう。
「突然失礼。急で申し訳ないんだけど、何か力になれることがあるかもしれ無いって思って、尋ちゃった。」
軽い口調で、明るい好青年。
背中には、何やら色々な器具や木材などを背負っている。
「いや、とんでもない。暇をしていたからね。ところで、力になれるって?」
リンデェンが聞くと、背負っていた籠から何やら器具を取り出して話す。
「ここを通りかかった時見えたんだけど、壁に大きな穴が空いてる。そうでしょ?」
青年は、何か叩く動作をしている。
家を直せる という事だろうか。
得意げな顔は、何とも可愛らしかった。
「なるほど、直してくれるのか。それは嬉しいな。でも、私たちは今お金があまりなくてね……申し訳ないよ。」
直してもらいたい気持ちは山々だったが、本当に金銭に困っている。
そのため、この子に任せることは出来なかった。
それと、
ここ最近、暴利が増えたときく。
貶謫されここに来るすぐ前、そんな話を小耳に挟んだ。
リンデェンはそれを疑っていた。
「俺はお金を取るわけじゃないよ。最近は、 暴利が多いらしいし、お兄さんも聞くでしょ?
リンデェンは頷いて共感した。
ただ、お金を取らないなら何を代わりに?
無利益にそんなことをしてくれるはずも無い。
金よりもなにか……
「俺は今、家でしてるから住まいに困ってるんだ。少しの間泊めて欲しい。だから、絶対に金はもらわない。 」
へへっ と笑う彼の姿は、愛らしかった。
申し訳なさそうに言うその表情には、若さ特有のなにかが感じられた。
「別に壁を修理して貰わなくても、うちに泊まっていけば良い。1人増えたって、何も困らないからね。」
上がっていくか と尋ねると、青年は喜んで中へ入っていった。
少しだけ持ってきた菓子と清水を青年に渡し、向かい合って座った。
すると青年は、一口で飲み干してリンデェンに聞いた。
「ところであの人は?」
指を指した方向には、リンシィーが寝ていた。
まだ朝早かったため、寝ている。
「もしかしてお兄さんの女?」
いたずらっ子なのだろうか。
ニヤニヤと笑う彼は、どこか愛らしい。
ただ、そのように見た事のなかったリンシィーをそう言われると、
世間からそう見られてしまうのか
そう思った。
「ちがうちがう、彼女はリンシィー。 私の弟子たった子だよ。」
少し焦りつつも、弁明する。
すると青年は冗談だって と笑っていた。
「私はリンデェン。」
「俺はロンレイ。よろしく。」
握手を交わす。
ロンレイの手は、温かみが無く、どこか冷淡さが感じられた。
「リンデェンとリンシィー。名前が似ているけれど、なにか理由があるの?」
ロンレイは、菓子を口に含みながら、まるで楽しそうに聞く。
「ああ、そうだね……私が昔リンシィーという名前を付けたんだ。名前がなかったから。
少しだけ名前を似せたのは、わざとだよ。
大切な一番弟子だからね。」
昔のことを簡単に人に話す訳にはいかず、なんとか曖昧に答える。
すると、ロンレイは興味深そうに 深く頷くと
相槌で話を切り上げた。
「あ、そうだ。俺は、どのくらいここに居てもいいの?壁を直したら、とか色々気使い合うのも後々つかれるし。」
精神力のある若者だ と思った。
リンデェンのこの頃は、ここまで堂々と対話が出来ていただろうか。
「私は別にいつでも構わないよ。帰りたいと思ったときに、好きに帰るといい。」
するとロンレイは、パッと笑顔になり
「本当にありがとう。」
と何度も繰り返した。
本当にいい子なんだな、と思う。
「この壁はいつ頃直りそう?」
リンデェンが話の間を埋めるように聞く。
すると、ロンレイは立ち上がって穴の空いたその場所まで近づいた。
「どうしてこんな穴が空いたのかは分からないけど、木が腐らないように空いてるよ。
普通じゃ、木目がズレてすぐ変色していくことが多いんだ。」
偶然なのか、意図的なのかそうらしい。
ただ、あの鹿がどうこう出来るわけでは無いはずの為、偶然だと思っていた。
「偶然かな、良かったよ。 」
ほっと息を付いた。
すると突然、ロンレイは近くに置いていた籠から何やら大きな器具を取りだし
穴の1部を思い切り切り落とした。
「ロンレイ?」
思わず、驚いたリンデェンは声に出した。
「壊してる訳じゃないから安心して。 一部分、木の薄皮が剥がれていたから取ったんだ。」
ああ…… と、何となく返事をした。
ロンレイは、やっぱりちゃんと修理ができるのかもしれない。
のかもしれない、というよりそう思っていた。
すると、近くで寝ていたリンシィーが突然起き上がった。
流石に物音が大きかったか。
初めは寝ぼけたいたものの、始めてみる男の姿に驚いたのか 身を質した。
「ええと……こちらの方は?」
そう言いつつ、乱れた髪をまとめる。
本当にしっかりした子だと思う。
「この子はロンレイ。少しの間、この小屋に泊めてあげたいんだ。いいかな?」
それ聞き、リンシィーは顔を暗くした。
ロンレイの顔を見つめている。
「ロン道士……身内は分かりませんが、どうされたのですか。」
同い年程の相手にも、しっかり道士 を付ける
リンシィーを見て、
謎の優越感で溢れた。
教え子がこんな丁寧ないい子だとは……
「家出をしているそうでね。住まいを貸す代わりに、壁の修理をしてくれるらしい。
詳しいことは私も分からないが、泊めてあげることはできると思ったんだ。」
どう? とリンシィーに聞く。
一応、勝手に決定する訳にはいかない。
「出来れば泊めて欲しいんだ。しっかり修復はするし、手伝えることは手伝うよ。」
ロンレイは、なんとか泊めてほしいようだ。
やはり、家出には何か理由があるのだろうか。
「私は構いませんけれど……デェン師の判断にすべて任せます。」
リンシィーはそう言いながら、外へ顔を洗いに出ていった。
リンデェンは少し息をはく。
「彼女は、私を信じすぎている。そこまで頭が回るわけでもないのに。 」
ぼそっと独り言を呟いた。
すると、それに気を使ったのかロンレイが反応した。
「お兄さんは頭が回るとか、そういうのじゃなくてこういう優しさを信頼してると思うよ。
もちろん、頭もいいだろうけどね。」
お世辞にもそう言った貰えたことが嬉しく、
思わず口角が上がっていた。
少し笑いながら、 どうもありがとう と。
人から褒められるのは数十年もの間、そうはなかった。
それだけの事をできる神でもなければ、人では無いからだ。
「それじゃあ、リンシィーが帰ってくる前に朝食をある程度作っておこうか。」
気を取り直して、ロンレイに少しだけ仕事頼んでみた。
ロンレイは嬉しそうに 手伝ってくれる。
やっぱりいい子だな、と改めて思う。
2人は、リンシィーが来るまでに、ある程度の準備を済ませ、少しの間話で盛り上がっていた