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アリスに近づこうとしていたブリキのピエロがこちらを向く。
掠れた電子音が響く。
「……これで、俺の負けだろ……」
祐樹はアリスを見下ろした。
「さっさと生き返らせろ……!!」
しかし彼は床に座ったままこちらを見上げた。
「誰が負けたんですか?」
「だから―――俺だろ?」
祐樹はわけのわからないことを言い出したアリスを睨んだ。
「まだ、勝負はついていませんよ?」
「―――は?だってもう思いっきり見つかってんだろうが!!」
祐樹が叫ぶ。
しかしアリスは出血した自分の首筋を掌で拭うと、それを唇に持っていった。
「――――」
青白い唇に深紅の血が付着する。
「――――!」
視界の端に何かが光った。
祐樹はおそるおそる後ろを振り返った。
そこには毎年家族で行っていたキャンプで使うサバイバルナイフを持った、
聡子が立っていた。
アリスが高い声で笑い出した。
その声に身体が反射的に動いた。
祐樹はナイフを翳してくる母親の脇を抜けて、部屋から飛び出した。
――逃げろ。
体中を流れる血液が、
数億個の細胞が、
悲鳴のように叫んでいる。
――逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!!!
祐樹は靴も履かずに家を飛び出した。
◇◇◇◇
「―――はは。だから言ったでしょう?“明日は走る”って」
アリスはすごい勢いで彼を追いかけ始めた鬼の後ろ姿を見ながら笑った。
「アリス君―――」
クローゼットから出てきた尾山が駆け寄り、血を流しながら座り込んでいるアリスを見下ろす。
「さあ、尾山さん。高みの見物といきましょう」
アリスは額に汗を浮かべた彼を見上げて微笑んだ。
「とくと見せてもらいましょう。彼の負けっぷりを……!」