テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ある日の午後、私は厨房で高間さんの作業を手伝っていた。
実家のお店でもたまに作業を手伝うことはあったから、久しぶりなこともあって楽しくなる。
父も母も上手いし技術もそれなりだと思っていたけれど、高間さんは上澤家お抱えだけあって技術面も優れていて、手際よくチョコレートを飾り付けていく姿に思わず感嘆の声が漏れる。
「すごい……この繊細さ、父や母よりもずっと上です!」
「はは、褒めすぎだよ。来栖さんの実家の店ってPatisserie KURUSUでしょ? 開店当時、良く話を聞いていたけど、ご両親は俺よりもずっと上手いと思うよ。お店、常連さんが多いんじゃないの?」
「そんなの、もう昔の話ですよ。人気店のRoseが近くに移転して来てからは、お客さんもすっかり減っちゃって……」
「Roseが? それはまた……。噂では、あそこの店ってわざわざ人気のある店の近く弟子たちの店を建てたりしてるって聞くから、Rose自体が移転するなんて、来栖さんのお店は余程ライバル視されちゃったのかもしれないね」
「ええ!? そうなんですか? そんなの、酷い……」
「まあ、あくまでも噂だけど……。お客さん、戻るといいね」
「そうですね、とにかく私は金銭面でサポートをして、両親には経営を頑張ってもらいたいです」
「頼もしいね、ご両親は来栖さんに感謝してると思うよ」
「娘として、当然のことをしているだけです。大切な場所を無くしたくないので」
「素敵な考えだね」
「ありがとうございます」
高間さんとお店について語っていた時、ガタッと扉の先で何かの音が聞こえてきたのだけど、特に気にすることは無かったのだけど、その後で巴さんにお菓子を届けに出向いた時に、音の正体を知ることになる。
「巴様、お菓子をお持ち致しました」
「入れ」
「失礼致します」
十五時のおやつの時間になり、お菓子を届けに来た私は部屋へと入る。
「ショコラケーキになります」
席に着いた巴さんの前に、ケーキの乗ったお皿とフォークを置いて、紅茶の準備をする。
全てが揃い、巴さんが食べ始めるのを見届けた私はドアの側へ下がっていく。
すると、二口程食べた巴さんがこちらに視線を向けて、
「高間とは、随分親しいみたいだな?」
突然、そんな言葉を投げ掛けてきた。
「え?」
「少し前、楽しそうに話していただろう? 勤務中に大声で」
「巴様、厨房にいらしていたのですか?」
「たまたま通りがかっただけだ」
巴さんが厨房の前を通りがかり、私と高間さんが話している場面を目撃した――その話を聞いた時、厨房で聞いた物音は巴さんが出した音だったのでは無いかと悟る。
けれど、それには触れずに彼の話を黙って聞いていくと、
「お前の実家の店は、Roseの近くにあるようだが、経営が上手くいっていないのか?」
恐らく、高間さんとの会話を聞いて気になったのだろう。
巴さんはお店のことについて質問をしてきた。
「……はい、恥ずかしながら、経営難で、それを助ける為に、ここで働かせてもらっております」
思えば巴さんにはお店についてや私が働く理由について詳しくは話していなかった。
でもそれは、巴さんが私のことをいちいち知りたいと思わないだろうと思っていたから。
まさか巴さんの方から聞いてくるだなんて思わずに驚いていると、
「場所に問題があるなら移転をすればいい。金が必要なら、上澤家で少しばかり援助するように、親父に頼んでやる」
とんでもないことを口にしてきた。