テラーノベル
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続きです!
前回とても分かりにくいところで切ってしまったので、若干被せます。
それではどうぞ!
家に入り母さんにただいま、と挨拶をし、二階にある自室に入る。荷物を降ろしてくつろごうとした時、スマホが鳴った。着信画面を見る。
ハクからだ。
「ハク?」
「あ、湊……。」
こころなしかハクに元気がないような気がする。
「聞きたいことがあるんだけどさ。今大丈夫?」
「うん。何?」
「”澄川玲”って人知ってる?」
“スミカワレイ”
知っているも何も名前を聞いたことすらない。
「なんか、聞き覚えある。」
それなのに。
俺の口から出たのは心と正反対の言葉だった。
「……そうか。そろそろ、話した方がいいか。」
独り自分を置いて話が進んでゆく。こういう流れは大体危ない。分かっているのに、聞きたいという好奇心が抑えられない。
……いや、知って損はないんじゃないか?
「な、何を?」
「一年半前にさ、この学校の近所のビルでうちの生徒が誰かに突き落とされて死亡した事件があったの覚えてるか?」
「うん。」
そのことなら、何となく覚えている。もう一年半も前のことだから詳しいことは覚えていないが、この事件で学校が随分と騒がしくなったので印象に残っている。ただ、その事件で死んでしまった人が誰なのかは覚えていない。
「その事件の、被害者の名前だよ。」
その瞬間、新しい違和感を感じた。今まで空白だった所に、何かがすっぽりとはまったような感覚だ。先ほどまでの違和感が、打ち消されていくような。
「その人、俺らの学年なんだ。もっと言えば、その時、俺らと同じクラスだった。」
一年生の時に同じクラスだった……?そんな名前覚えがない。ハクの記憶違いじゃないか?
「覚えてなかったらそれでいいよ。無理に思い出す必要ねぇし。」
“無理に”?どういうことだ?
何かがおかしい。
何か。自分だけが知らない何かがある。
違和感が強くなる。
気持ち悪い。
頭の中がぐるぐると動いている。
違和感が何かの文字を模っていく。
見たことのない映像が頭の中を流れていく。
自分がニュースを見て泣き叫んでいる姿。
公園で知らない誰かと話している様子。
いつもと違う帰り道を知らない誰かと一緒に歩く自分の姿。
教室で知らない誰かを目で追う自分の姿。
どの映像の自分も、こころなしか今より少し小さく見える。
“知らない誰か”はどの映像でも同じ。
見覚えがある、と感じた。
何処で見たんだ?
違和感が模った文字が鮮明になってくる。
きっとそれは違和感の正体だ。
やっと分かる。
嬉しいはずなのに。
怖い。
その文字を見ることが怖い。
蓋をしていたものが溢れ出てくるような感覚に襲われる。
それでも自分の意識はその文字に引き付けられていく。
文字が見えた。
“澄川玲”
あぁ_______そうか。
スミカワレイ。
すみかわれい。
澄川玲。
_______そうだ。何で忘れていたんだろう。俺はこの人を知っている。
“名前すら聞いたことがない”?自分が一番口にしていた名前だろう。
“何処で見たんだ”?いつも隣にいたじゃないか。
“怖い”?あんなに好きだったのに。
「……思い出した。思い出したよ。」
“澄川玲”は。
俺の、大切だった人の名前だ。
一年半前、俺と玲は付き合っていた。お互いに一目惚れだった。美津紀とは対照的で、静かで穏やかな人だった。一緒に出掛けるのは賑やかなショッピングセンターとかではなく、映画館や図書館など、居心地のいい静かな場所。俺はその時間が大好きだった。玲と静かな場所に居れば、不思議と心が落ち着いた。
あの日も、同じだった。学校帰りに公園に立ち寄って、二人で話していた。唯一違ったことは、その途中で、玲のスマホが鳴ったことだった。一分くらい電話の先の人物と話した後、玲は「ちょっと用事が出来ちゃった。ごめんね。」と言って立ち上がった。俺は特に気にも留めず、「分かった。じゃあね。」とだけ返した。
それが最後だった。
家に帰って一時間位が経った頃だっただろうか。母さんが半ば叫ぶような声で俺を呼んだ。何事かと思ってリビングに行くと、「テレビ。テレビ見て。」と取り乱しながら母さんが言った。特に考えも無しにテレビ画面に目を向けると、ついていたのはニュースだった。
最初に目に飛び込んできたのは「女子高校生飛び降り」の文字だった。次に、アナウンサーの声が聞こえた。
「繰り返します。速報です。東京都杉並区のビルで、女子高生が転落していると通報がありました。女子高生はうつ伏せで倒れており、その場で死亡が確認されました。死亡したのは高校一年生の澄川玲さんです。警察は、自殺と他殺両方の可能性を視野に入れて捜査中を進めています。」
聞き終わった後、暫くの間は何も感じ無かった。悲しくなかったんじゃない。何が起きたのか分からなかった。心を置き去りにして頭が状況を整理していく。数分が経った頃、やっと今何が起きているのかを理解した。
死んだのだ。死んでしまった。
さっき公園で別れたばかりの玲が。
いつもと変わらずに優しく笑っていた玲が。
顔から血の気が引いていくのが分かった。
視界が飽和し、体の感覚を失う。
凡てを理解した時、俺は泣き叫んでいた。
「あ、あ、あああああああああああああああああああ!」
その声が自分の喉から発せられているものだとは到底思えなかった。
頬を伝う涙が床を濡らしていること以外、何も分からなかった。
母さんがその時どんな顔をしていたのかも、その後のアナウンサーの言葉も、何も。
後のことは何も覚えていない。気が付いたら次の日の朝だった。
最近感じるようになった違和感の正体。
それは、そういうことだったのか。
俺は玲のことを忘れていたんじゃない。無意識の内に自分の中から存在を消していたんだ。
そうすれば、苦しまなくて済むから。
悲しまなくて済むから。
だから次の日,登校して友達に挨拶をした時、気まずそうな、心配そうな顔をされたんだろう。それはそうだ。普通恋人が死んだら悲しむだろうから。でも玲の存在ごと記憶から消していた自分からすれば、そういった反応をされたことが怖かった。
そしてその日を境に、俺の中から”澄川玲”という名前の人間は消えた。
読んで下さりありがとうございます!
明日から三日間合宿が入ってしまい、投稿は来週になると思います。
変な所で切っておきながら申し訳ありません……。
また読んでくれると嬉しいです!
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