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テントに現れたでっかい大男は、ミスター・トールというらしい。
彼は、俺を自身の部屋であろうコンテナまで連れて行き、そこで話をすることになった。
倉庫テントからコンテナまでの道で色んな人にジロジロ見られたが、俺の方も色んな姿形をした彼らを見ていた。
本当にここは何処なんだ?
「日本から来た留学生…か。なるほど。」
トールはそう言い、紅茶をすすった。
「はい。家に帰ろうとしたんですけど、ここはあまり土地勘が無くて、道に迷ってここに。」
本の世界の外から来ましたなんて言えない…。
絶対怪しまれるし、信じてもらえない。
「昼間に迷子とは珍しいが、仮に迷ったとして何故倉庫の中へ?」
「いや、それは…不法侵入とかで見つかったら警察に突き出されるかもと思って。」
「ふむ…もういいだろう。君ももう下手な芝居を打つのは止めたまえ。とても見てられん。」
トールはカップを机の上に置き、やれやれといった素振りで首を横に振った。
やっぱり無理あったか。
「君はどうやらこの世界とは違う所から来ているな。運命の外側から…。違うかね?」
図星だ。何でわかるんだ?
『②物語の中には神みたいな存在が必ずいて、2人が外の世界から来ていることに気付くはずだから、力を貸してもらえるなら貸してもらった方がいいよ。』
「あ。」
この人の事か!
「実はそうです。」
「やはりか。たしか、ウエスギと言ったかな?」
「リュウでいいです。みんなもそう呼ぶので」
「リュウか…良い名だな。リュウ、君は運命を変える存在だ。良くも悪くも。故に君は気を付けねばならない。この世界には君のような存在を好まない者がいる。その者の企ての邪魔をすれば必ず君を襲うだろう。」
俺は背筋に寒気を覚えた。
こんな感覚今まで味わったことがない。
「その者っていうのは、誰なんですか?」
「デズモンド・タイニー、運命を操る者だ。」
「デズモンド・タイニー…。」
その時、部屋のドアから視線を感じ、俺はすぐさま振り返ると、ドアが少し開いたままになっていた。
まるでさっきまで誰かが見ていたかのように。
「おそらくリトル・ピープルだ。」
「リトル・ピープル?」
「さっき話した者の部下だ。ウチで5人ほど面倒を見ている。下働きとしてよく働いてくれている。きっと君の事を報告に行ったのだろう。」
「え!?」
それってマズイんじゃないか?
それにトラ、あいつ無事なのか?
この事を知らせないと…。
「きっとまだ手を出しては来ないだろう。君達は運命の外側にいたが、今は運命の中にいる。それに私が君を守ってあげよう。実を言うと、私は中立なのだが、君は例外だ。」
外側?今は中にいる?
運命って未来の事を言ってるのか?
何だかよく分からないな…。
「ありがとうございます。」
トールはおそらく俺の様子を察してくれたのだろう。
俺の肩にポンと大きな手を置いて話し掛けてくれた。
「そう不安がる事はない。ミスター・タイニーは今、別の事の方に興味がある。さっきも言ったが、邪魔さえしなければ君に危害は及ばない。」
トールにそう言われ、俺は不安を感じつつも少しだけホッとした。
「はい。」
俺がそう言うと、トールはニッコリ笑い立ち上がった。
その時のトールの頭は天井にぶつかりそうだったが、直前でかがんで回避していた。
慣れてるんだな、きっと。
よく見たら、天井のいくつかが凹んでおり、妙な擦り痕もあった。
あそこに置いてるシルクハットの擦り痕か?
「では、君の寝床と仕事を与えねばな。」
「仕事?」
「おや、言ってなかったかね?ここはサーカス、『シルク・ド・フリーク』だ。公演日も近い。忙しいぞ!」