無銭飲食というものを俺は初めてしてしまった。
学校では『学校の番長』と言われるくらい不良だが、正直喧嘩以外の悪い事はバイクの無免許運転ぐらいだ。
せっかくなので、少し過去の話をすると、俺、武田寅吉は、生まれてこの方喧嘩で負けたことがない。
相手に恵まれたと言われればそうかもしれないが、幼稚園の頃は小学4年生に、小学6年生の時は高校生に、中学の頃は大人に、高校生になった今じゃ自称プロボクサーや刺青の入ったチンピラにも勝ってきた。
親は小学校の頃に離婚して、お袋と2人暮らしで、お袋は夜の仕事でいつも帰ってくるのは朝だ。
そういや高校入ってからまともに会話した事ねぇな。
警察に捕まっても学校の先公が迎えに来るし、入学式も来てなかったっけ。
ってか俺も行ったっけ?
あぁ、行ってた行ってた。
そこでリュウと会ったんだっけか。
初めて俺と同じくらい喧嘩強い奴がいてビックリしたな。
俺が弱くなったと思って、色んな大人に喧嘩ふっかけたな。
わざわざ都会まで行って喧嘩した事もあったな。
あん時はヤクザが出て来て、銃出そうとしたから流石に逃げたっけ。
………。
なんか無銭飲食、可愛く見えて来たな。
いやいや、立派な犯罪だ!
皿洗いをしながらそんな事を考えていると、ホールの方からバートンの声がした。
「おい、トラ!皿洗い終わったら次はこのビールをあっちの客に出してこい。」
「あいよ!」
俺はバートンの通報をなんとか阻止して、店の手伝いをする事で和解した。
時刻は夕方。
客も増えてきて、今【キャプテン・リドリーのバー】は大盛況だ。
つか、キャプテン・リドリーって誰よ。
「トラ!次はカクテルをあっちの3人の女性客に出してこい。出したら次はチキンラップだ。」
「あいよ!」
ちきんらっぷ?チキンラップ?
ああ、トルティーヤか。
「バートン、終わったぜ。次は?」
「オーダー!」
「はいはい…。人使い荒いな。」
俺は呼ばれたテーブルに向かった。
テーブルの客は、俺が来た時からいた客だった。
まだいたのか!
「えーっと、何にする?」
「……シルク・ド・フリーク。」
「しるくどふりーく?」
そんな名前の料理あんの?
外国の料理はよく分からん名前が多いな。
「他は?」
「見た目がちょっと違うというだけで物笑いの種にし、見物料を取る非道な行為を平然とする奴らの何が面白そうなんだ?」
客は、ギロリと俺を睨んだ。
客の風貌はハンチング帽子にヨレヨレのシャツ、サスペンダーを着けた姿で如何にも外国の不審人物みたいだった。
顔はそばかすまみれで無精髭を生やし、顎が小さい40歳近くのおじさんだ。
「……あんたもサーカス知ってんのか?」
「さっきアンタらが話してるのが聞こえただけだ。フリークショーなんて犯罪行為だぞ。それをやる奴も見る奴も犯罪者だ。」
「警察か?」
「元だ。お前があのまま店を出てれば、あのバートンとかいう店主に話し掛け、お前の跡をつけようと考えていたが、無銭飲食で手伝い始めたから犯罪に手を染める前に話しかけたという訳さ。」
「それなら俺の代わりに金払って助けろよ。警察官さんよ。」
「それは警察の仕事じゃない。それに元だ。」
「そうかよ。じゃあとっとと注文してくれ、警察のお客さん。」
俺がぶっきらぼうにそう言うと、警察の客が折り畳まれたメモ用紙を渡してきた。
今日で2枚目だな。
外国人はメモが好きなのか?
「店が終わったら連絡しろ。」
警察の客はそう言うと席を立ち、代金を渡してきた。
「釣りはそのままチップだ。依頼の前金とでも思ってくれ。」
「いやいや、あんたの代金知らないから、ちょっと待ってろよ。」
俺はカウンターに戻り警察の客の代金を確認すると確かに多く払っている。
「えーっと、釣りっていくらだ?」
「だから、チップだ!」
後ろから警察の客がイライラしながら言い放った。
すぐに去ろうとする警察の客を俺は引き留めた。
「ちょっと!連絡ってどうすんの?ケータイ持ってねえよ!」
警察の客は呆れたようにため息をつき、吐き捨てるように言った。
「店のを使え。ちょっとは自分で考えるんだな、少年。」
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