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佐々国小説〜佐々城探偵社員if〜
⚠︎ 注意 ⚠︎
口調迷子、下手
「国木田様。もうお昼はお済みですか?」
顔を上げると、佐々城が相変わらず穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「いや、まだだが」
「でしたら、ご一緒にいかがですか。この前の休日に、なかなか良さそうなカフェを見つけまして」
そう言って、彼女は携帯の画面をこちらに差し出す。
映っているのは、どうやら古民家を改装したカフェのホームページらしい。木目調の外観に、落ち着いた内装――いかにも最近流行りの店だ。
「悪いが、俺はそういう場所はあまり得意ではなくてな。」
「そうですか……国木田様とゆっくり食事ができると思ったのですが」
佐々城は少し残念そうに息をついた。
「……他の者を誘ったらどうだ」
「そうですね。それでしたら、太宰様にお声がけしてみます。こういう場所、お好きそうですし」
――待て。
今、なんと言った?
太宰を誘う?
冗談じゃない。佐々城と太宰を二人きりにするなど、理性が許容できる範囲を明らかに逸脱している。
「では、失礼しますね」
「待て。太宰と行くのはやめておけ」
「……理由を伺っても?」
「いや、その……太宰以外にもいるだろう。与謝野女医とか、ナオミ、鏡花もいる」
「先程から、どうして女性の方ばかり勧められるのです?」
「それは――」
言えるわけがない。
自分が、佐々城が異性と二人きりになるだけで冷静さを欠くなどと。
そんな私情を、理性の化身たるこの俺が口にするなど……断じて、あってはならない。
「……とにかく、太宰と行くのはやめておけ」
「……国木田様、失礼ですが。もしかして、妬いていらっしゃるのですか?」
「は……?」
思わず間の抜けた声が漏れた、その瞬間だった。
佐々城は俺の反応を逃さず、口元を押さえてくすくすと笑う。
「国木田様は、意外と分かりやすいですね」
分かりやすい?
俺が?
そんな馬鹿な。
確かに、虚言やごまかしが得意な方ではない。だが、感情が顔や態度に出るほど未熟なつもりはない――はずだ。
(……多分)
「妬いている、と言う言葉が不適切でしたか?」
佐々城はわざとらしく首を傾げる。
その仕草一つ一つがこちらの反応を観察するために計算されているのが分かって、内心歯を噛み締めた。
「国木田様。そのご様子ですと……嫉妬というより、独占欲に近いように思えますが」
「待て。独占欲だと? そんなものがあるはずがない」
思わず語気が強くなる。
「俺は嫉妬などしていないし、ましてや独占欲を滲み出すなど――断じて、ない」
「ですが、先程から随分と焦っていらっしゃいますよね」
「それは……」
言葉が詰まる。
即座に反論できないこと自体が、致命的だと分かっているのに、思考が追いつかない。
「いや、その……状況的に合理的な判断を――」
「ふふ」
佐々城は、小さく笑みをこぼした。
「すみません。国木田様の反応があまりにも可愛らしくて、つい、からかってしまいました」
……可愛らしい、だと?
俺を揶揄しているのは分かっている。
分かっているはずなのに、妙に胸の奥が落ち着かない。
(そんなに、俺をからかうのが楽しいのか……)
不快感とも、羞恥ともつかない感情が入り混じり、俺は複雑な思いのまま視線を逸らした。
「やはり、同じ元教師と言っても……数学と心理学では、思考の柔軟さに差が出るようですね」
――今、さりげなく見下されなかったか?
一瞬そう思ったが、反論するほどの決定打もなく、俺は言葉を飲み込んだ。
「……それよりもだ。昼食はどうするつもりだ」
話題を強引に切り替える。
「ただでさえ貧血を起こしやすいんだ。きちんと食事を摂らないと、また倒れるぞ」
「国木田様は、時折……母親のような言動をなさいますね」
「誰が母親だ」
即座に切り返したものの、否定の語気ほどには胸がすっきりしない。
世話を焼いている自覚は、ない。
ないはずだ。これはあくまで、健康管理という合理的配慮であって――
(……なぜ、こうも自然に口を出している)
内心で首をひねりながら、俺は再び視線を逸らした。
「一人で食事をするのも味気ないですし……今日はこのまま、食べずに業務へ戻ろうかと」
「それは駄目だ」
思わず、被せるように言ってしまった。
「食事を抜いて、また貧血で倒れられても困る」
「ですが、国木田様にはお断りされましたし。太宰様を誘うのも、やめるよう仰いましたよね」
「……確かに、そう言ったが」
「一人で食べても楽しくありませんから。今日は食べません」
胸の奥に、ちくりとしたものが走る。
古民家カフェが苦手だと言って断ったのも、太宰を誘うなと口出ししたのも――どちらも俺だ。
「では、失礼しますね」
背を向けかけた彼女を、無意識のうちに呼び止めていた。
「……待て」
「何でしょうか」
「その、さっき見せてきたカフェだが……ここから何分ほどで行けるんだ」
「苦手だと仰っていませんでしたか?」
「だから言っているだろう。食事を抜いて倒れられては、業務に支障が出る」
あくまで、合理的判断だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「ふふ……国木田様は、お優しいのですね」
そう言って微笑んだ彼女の表情に、思考が一瞬だけ鈍る。
(……優しい、などという話ではない)
そう否定しようとしたはずなのに。
可愛らしく、どこか安心しきったようなその笑顔を前にして、言葉が続かなかった。
胸の奥に残った、説明のつかない温度を無視するように、俺は手帳を閉じた。
コメント
4件
からかい上手の佐々城さんでアニメだそう。