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#近未来
鳳蓮荘
1,340
#人間ドラマ
視点:須藤亜樹
俺たちは箪笥に隠れていた。 ガチャリ。鍵が開く音がした。それに続いてぎぃ、と玄関の扉が軋みながら開く音がする。どん、どん、どんと三和土を上り、リビングに親父が入ってくる音がした。
「ちっ、あいつまたいねぇのかよ」
そんな愚痴が聞こえる。恐らく俺のことだろう。これから死ぬとは知らずに。
どんどんという足音のまま風呂へと向かって行く。相変わらず、こういう所だけしっかりする、嫌な奴だ。
そのまま風呂場に入って行った。じゃぽん、浴槽に溜めた湯に足を入れる音がする。
箪笥から俺たちが出る。そして俺は漏電したコンセント、優里には包丁を持って行ってもらった。
目で合図を送る。風呂場に入りすぐさまコンセントを投げ入れたとしても感電するかはわからない。
だが、行く。
ばん!
扉を勢いよく開けた。
「なっ、なん―」
言い終わる前だった。コンセントを浴槽に投げ入れた。
「ぎゃああああああああああ!!!」
断末魔に近しい悲鳴が上がる。
「包丁」
「はい、亜樹」
ぐしゃっ。胸の肉と骨の間におよそ刃渡り15センチほどの包丁が入る。ずぼっ。血が流れてきた。そんなことは関係ない。まだまだ、刺す、刺す、刺す。その度に肉が断裂する音、悲鳴、生々しい音が風呂場の壁に反響する。
「あ、亜樹ぃ!」
なんだ、こいつ。やっぱり太ってるからか。刃の通りが悪いな。
「優里、灯油とマッチ、持ってきて。」
「うん!わかった!」
パタパタと可愛らしい足音が廊下を通り過ぎて行く。俺はその間も、刺す、刺す、刺す。
「がっ!いだいいだいいだい!」
「うるせぇな!黙って死ねよ!」
「亜樹ー!持ってきたよー!」
優里が灯油とマッチを持ってきた。
「灯油、中に入れて。」
「わかった!」
じょぼぼぼぼ、という音をたてながら浴槽に灯油が注がれて行く。
「おまっ…!やめっ、やめろっ!」
しゅぼっ。
「ははっ、やっと、終わりだってさ。クソ親父。」
火を放った。灯油に引火し、すぐさま親父の体を炎が包んだ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
次こそは本当の断末魔だった。醜くて汚らしい、そんな断末魔だった。
俺と優里は離れて見ていた。既に親父は抵抗できなかったようで、そのまま燃えていた。その光景を、俺と優里は夏祭りで、恋人とは打ち上げ花火を見ているかのように、眺めていた。
「優里。」
「なぁに?亜樹?」
「ありがとな。人殺し手伝ってくれて。」
「またまたぁ、辛気臭いなぁ。それが私に課せられた使命だし、好きな人の夢は手伝ってあげなきゃ!」
「そっか。益々、ありがとな。」
そのあと、1時間ほど炎を眺め、家から出た。
「……ぇ?」
そんな声が優里から漏れた。俺が後ろを振り返ると優里の手先が光の粒子になっていた。
「え、え、な、なんで!?私!亜樹の夢手伝ったじゃん!このまま生きていられるんじゃなかったの!?ねぇ!かみさ―」
そこで声が聞こえた。
「あぁ、言い忘れてた。人殺しとかぁ、その手伝いしたら、問答無用で地獄行きだよ?」
「嘘つきぃ!私はぁ!ずっと亜樹と居たかっ―」
言い終わる前に、優里が消えた。俺はそれを呆然と眺めるほかなかった。
「優、里…?」
「じゃあねぇ亜樹クン。君が死ぬまで天地の審判場で待ってるからねぇ。」
それだけ言い残し、神様とやらも消えた。
「優里!優里!」
遠くでパトカーのサイレンが聞こえた。きっと、俺を迎えにきたんだ。
数日後。
俺は殺人の容疑で逮捕された。今は留置所にいる。これから裁判があるらしい。こんなに早く来るものなのかと思った。もう俺には関係なかった。
更に数日が経った。俺は特に弁明せず、親父の殺人容疑で無期懲役を言い渡された。未成年でここまでなることはほとんどないらしい。だが、殺害方法の残虐性が認められた結果だった。
翌日、陽聡が自殺したという知らせを聞いた。俺には何も残らなかったと悟った。人は、1週間程度でここまで人生が変わるというのか。はは、滑稽だ。俺に相応しいエンディングじゃないか。
陽聡が俺に好意を抱いているのは気づいていた。だがそれに踏み込む気はなかった。そんな勇気もなかった。
さぁ、俺の人生はいつまで続くんだろうか。80歳?50歳?それとも10代中かもしれない。明日かもしれない。或いは不死身の体かもしれない。どんな時間の長さであろうと、俺は、絶望という名の暗い暗い、海を泳いで醜く生きて行くしかないのか。
コメント
1件
うわあああ…読み終わったあとしばらく動けなかったよ😭💦 最後、優里が光の粒になって消えちゃうシーン、衝撃すぎて声出た…「嘘つきぃ!」ってとこ本当に切なかった。亜樹の「優里…?」の呆けた感じも脳裏に焼きついて離れない。 重い展開だけど、それだけキャラに感情移入しちゃった証拠だね。スユキさん、ホントに容赦ないけど、その分めっちゃ作品に引き込まれたよ…!次もぜったい読むからね🌸