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「はぁ……」

 これは溜息と言ってもうっとり思い出し溜息だ。

 初めて自分から松田くんを求めぶつかり合うようにぐちゃぐちゃに抱かれたあの日をつい思い出してはドキンと心臓が波打ち、熱く艶めいた溜息が出てしまう。

 とは言え今は仕事中。新商品の発売がもう目前と迫っているので日々残業、休日出勤に追われていたのであの日から松田くんとの甘い夜を過ごしていない。だからなのか尚更あの日を思い出してしまうのかもしれない。



 新商品の文房具は新学期で文具を買い揃える人や、お年玉をもらい自分で買い物をする子供達をターゲットにお正月に発売をする。

 とはいえやっと仕事も落ち着いた。マーケティング部は他の部よりは落ち着いた方で営業部なんて帰る暇もないくらい忙しそうだ。正月発売と聞いた時はゾッとしたがマーケティング部は年末年始の休みもちゃんとあると聞いて、ホッとした。

 多分休みのない営業部や管理職の人達には申し訳ないが。



 そして今日は待ちに待ったクリスマスディナーの日。残業なんて絶対に避けなければと朝から気合いを入れて仕事をこなしている。

 隣のデスクをチラッと見ると同じように物凄い速さのタイピングでパソコンを打っている松田くん。



 あぁ、彼も同じ気持ちなんだなと思うと、ふふ、と思わず笑みがこぼれた。



 今日のクリスマスデートで行くディナーのお店は結局誠がオススメしてくれたあの時のお店にそのまま予約してある。

 あの日誠が完璧な男に戻った時以来私はまだ忙しくて一度も誠とは会えていないが、ちょこちょこ松田の家に急に泊まりに行っているらしい。

 本当いつも急で困るとか言いながら話す松田の笑顔が前よりももっと楽しそうに見えるのはきっと気のせいじゃないと思う。

 きっとこれからは松田くんと誠と私、三人で仲良く過ごせるんじゃないかな、と勝手に思っている。



 私も松田くんに負けじとパソコンにデータを打ち込む。



「おい、眉間に皺が寄ってるぞ」



 その声と同時に頭上にズシっと重みを感じ上を見上げると、ウシシと笑いながら橅木が私の頭にミルクティーを乗せていた。



「なんだ、橅木か、ちょっと考え事してたからかな」



 私の頭上に乗せていたミルクティーを「はいよ」と私に差し出してくれた。ちょうど疲れて飲みたいなぁと思っていた所だったので「ありがとう」と受け取ろうとした時、横からシュッと物凄い速さでミルクティーが持ち去られた。犯人は明確だ。隣を見るとグビグビと松田くんが一気にミルクティーを飲み干していた。



「ああっ! 私のミルクティー〜」



「俺が買ってあげますよ」



「ったく、ミルクティーにまでヤキモチ妬くなよな〜」



 橅木のツボに入ったのかお腹を抱えながらケラケラ笑っていた。勿論松田くんの顔は至って真剣な表情だった。



「水野さん、買いに行きましょう」



「え、あの、ちょ! えっ!?」



 ヒラヒラと手を振りながら橅木が「行ってらっしゃーい」と見送る中、私は松田くんに手を引かれ休憩室に連れ込まれた。



「ちょっと、手を離しなさいっ!」



 松田くんはスッと手を離すとさっきまでのムスッとした表情はどうしたのか、今は満面の笑みでニコニコしている。本当に松田くんの幼少期は感情が少なかったのだろうか? と思わせるくらい感情の振り幅が凄い。



「真紀、今日のクリスマスデート楽しみですねっ」



「ちょっ! 誰かに聞かれたらどうするのよ!」



 会社で急に名前を呼ばれドキッと嬉しい面もあるが誰かに聞かれたんじゃないかとハラハラしてしまう。



「でも、まぁ……楽しみよ」



 喋る音量が周りを気にしてどんどん小さくなってしまう。

 松田くんの耳が私の口元に近づき彼の柔らかい髪の毛が私の顔にフワリと触れた。



「ん? 聞こえない」



「なっ、だ、だから楽しみって言ったのっ!」



 ハハハと笑う松田くん。これは絶対聞こえてたやつだ……



「ったく、早く戻って仕事終わらせないとヤバいわよ!」



「はーい、ちゃちゃっと終わらせてラブラブデートしましょうね」



「今言わない!!!」



 今日はクリスマスイブなだけあって他の社員も予定がある人が多いのか部内はいつもより殺気立っていて、ゆっくり歩く人はほぼ居ない。殆どの社員が小走りまではいかない速さでスタスタと歩いている。

 もちろん私と松田くんその中の一人。

 涼子も子供達とクリスマスパーティーをする為に朝から鬼の形相で仕事をこなしている。

 この前は子供の欲しいプレゼントがどこも売り切れだ! と大騒ぎしていて私と松田くんもネットで探しまくった。サンタさんも大変だな……と改めて思い、いつか私も……なんて思ったりもした。



 定時時刻の十七時半。

 心の中でヨッシャーとガッツポーズ。急いで鞄に荷物を詰め松田くんより少し早く時間差で会社を出た。



“一時間後に迎えに行きますね”



 松田くんからのメールを確認しニヤケないよう顔の筋肉に力を入れる。別々の電車車両に乗りアパートに帰った。

 部屋に入るなり急いでスーツを脱ぎ、クローゼットを開ける。



(よし、今日は気合い入れるわよ……)


 皺にならないようクローゼットに掛けてあった黒のロングワンピースに着替える。長袖部分がレースになっていて腕部分の肌が透けて見えるところが一目見て気に入ったのでこのワンピースを購入した。

 髪の毛は丁寧に巻いてからアップにしバレッタで留めた。

 


(この格好ならお洒落なレストランでもきっと大丈夫だよね……)



 よれていたメイクをキッチリと直し、会社より少しチークを濃いめに塗り、リップも色の濃いものを塗り直した。全身鏡で隈なくチェックし、変なところはないか確認し、ベージュのロングコートを羽織る。

 スマホで時間を確認するとちょうど松田からのメールが届いた。



“あと五分で着きます”



 思わず笑みが溢れる。いつもちゃんと五分前に連絡してくれるところは出会った時から変わっていない。

 黒のパンプスを履き玄関を出るとちょうど松田の車が到着した所だった。

 運転席から降りてきた松田くんは会社の時と同じスーツなのに髪型が少し違うだけで雰囲気がガラリと変わる。会社ではいつもあげている前髪を斜めに流しており眼鏡は外している。

 松田くんの綺麗な黒い瞳がしっかりと見え、眼鏡を外すのはキスがしづらいからとこの前言っていたのを思い出して思わずドクンと身体が疼いた。



「うわ……めっちゃドレス似合ってます! 髪の毛アップにしてるの初めて見たし、凄い可愛い、特にこのうなじの部分が色っぽすぎ」



 首の後ろに松田くんの吐息が当たり背筋がゾクゾクと波立つ。



「ま、松田くんも……やっぱ何でもない! 早く行きましょう!」



 松田くんはクスクスと笑い「はいはい」と車に乗り込む。

 予約してあったフレンチレストランまで車で三十分程で着いた。

 その間の車内では松田くんがずっと私を可愛い、綺麗だの褒め続けるのでずっと私の身体は嬉しさと恥ずかしさで沸騰したままだった。



 松田くんは車のドアをさりげなく開けてくれエスコートをしてくれる。この男は出会った時からいつもスマートだ。



 スタッフに案内されレストラン内に入るとまるで外国に訪れたのかと思うくらい非日常的な空間。床は大理石で輝いており、上を見ればシャンデリアが煌びやかに輝いていている。壁に掛かっている絵もどれも個性的で目を引かれる物ばかり、素敵すぎてつい周りを見渡してしまう。


 さすがはクリスマスイブ、店内はカップルや夫婦が多くBGMのクラシックの音楽が静かに流れ、大人の雰囲気が漂っている。



 光沢のある白いテーブルクロスが上品な席に着くと既に料理は松田くんが注文済みだったのかスタッフが食前酒を注いでくれた。

 テーブルコーディネートもクリスマス仕様で凄く素敵だ。テーブル中央に飾られている花は真っ赤な薔薇。綺麗に折られたボルドー色のナプキンはもう芸術品の様だった。



「すっごく素敵な所だね」



「ですね、なんでこんな所誠のやつ知ってたんだろう」



 料理も運ばれて来て松田くんとの何気ない会話を楽しみながらフレンチを堪能した。

 どれもちょうどいい量でやっぱりお肉が絶品。柔らかくて美味しかった。

 食後のデザートのクリスマス限定フルーツのケーキもペロリと頂いた。



 ゆっくりコース料理を堪能したので既に時刻は九時を回っていた。

 バックに忍ばせているプレゼントを渡すタイミングが掴めず「そろそろ帰りましょうか」と松田くんが言うので「そうね」と彼の後を着いていく。

 会計はどうするんだろうと私が一人あわあわしていると「ここは俺からのプレゼントですからね」と小さな声で耳打ちすると支払いは松田くんが既に済ませてくれていたらしい。私は素直に「ありがとう」と言うことができた。




 帰りの車の中ではプレゼントはいつ渡そうかと私の頭の中はプレゼントでいっぱいだった。

 いつの間にか松田くんの家に着いていてウーンウーンと悩みながら歩いていたらあっという間に松田くんアパートの中にいた。



「真紀」



「は、はいっ!」



 思わず力んで返事をしてしまった。クスクスと笑う松田くんに吊られて私も笑ってしまう。



「とりあえず入ってください、寒いでしょう」


 

リビングに入り二人で気が抜けたようにソファーに座る。



「美味しいけどやっぱりかしこまった場所は疲れちゃいますね」



「そうね、美味しいけど私は松田くんの作ったご飯の方が好きだわ」



 ギジリとソファーが軋み肩に重みを感じる。松田の頬が私の肩に重なり肩が熱い。ハァと溜息をつく松田くん。



「なんでそんなに嬉しいことばっかり言ってくれるのかなぁ……」



 顎を触られ、ゆっくりと顔を近づけ唇を重ねる。息をするのに口を開けた瞬間にすかさず松田の舌が私の中に入ってきて、舌を絡め取るように吸われ舌の付け根がジンジンする。お互いの唇からは最後のデザートで食べたフルーツケーキの味がした。



「真紀」



 力強い瞳、真っ直ぐに見つめられ息をするのを忘れるくらい彼の視線に囚われた。

ここは会社なので求愛禁止です〜素直になれないアラサーなのに、年下イケメンに溺愛されてます〜

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