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第ニ章
施設の空気は、朝からピンと張り詰めていた 。
徹底的な清掃と温度管理が施されたその部屋は、野良を詰め込む薄汚い倉庫とは一線を画す「特別室」だった 。
「シルバー、今日、繁殖用の金バッジが届く。手に入れるのにどれだけのリソースを割いたと思っている。体調管理にミスは許されないぞ」
お兄さんの声には、いつもの事務的な冷酷さではなく、高価な精密機械を扱うような緊張感があった 。
「小汚い野良ゆっくりを相手にするのはそろそろ終わりにしたい。そのためにも、この金バッジが必要だ。」
シルバーは無表情に、銀の盆に載せた歓迎用のあまあまを置いた 。
「むきゅ……承知しました。完璧なお世話をいたします」
ケージの扉が静かに開くと、勢いよくちぇんが飛び出した 。
「にゃー! ここがちぇんのあたらしいおうち? まあまあだにゃ!」
ふわりと響く、屈託のない声 。
シルバーは査定者の瞳で、新入りを静かにスキャンした 。
(むきゅ……毛並みの光沢、声のハリ。どれをとっても、外で拾ってくる『廃棄物(野良)』とは比較になりませんわ)
ちぇんはシルバーが差し出した盆の上のあまあまを見つけると、挨拶もそこそこに飛びついた 。
「にゃふふ! これおいしいにゃ! 」
「つぎはちぇん、あれであそぶー!」
そう言うと無邪気におもちゃでじゃれ始めた 。
お兄さんはその様子を見て、お咎めなしどころか、満足げに目を細めていた 。
「シルバー、ちぇんの世話は任せた。お前みたいな傷物にするんじゃないぞ」
「……了解しました。」
お兄さんが未来の成功を確信した足取りで去ると、室内にはちぇんの無防備な寝息だけが残された 。
「にゃふ……ちぇん、あそびつかれたにゃ……おやすみ……」
最高級の寝床でお腹を見せて眠る「特別な商品」を見下ろし、シルバーは機械的に空調の温度を微調整した 。
そして、音を立てずに扉を閉めた。