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あれからさらに時は経ち。
俺はリリーに課せられた鍛錬を何とか続けられていた。
季節はもう春だ。須藤は無事に4回生(四年生)に上がれたと聞いた。
アイツは所謂陽キャでスポーツも出来て勉強はそこそこだ。
ここまで来たら大学とか器用に上手いこと欠席したりしていそうなもんだが、アイツはその辺は不器用で真面目だから、出席日数に関係なく欠席したりしない。
高校にもテストの成績関係なく先生からの信頼度が高い奴が居たと思うけど、まさにそんな奴だ。
須藤が凄いのは、普通そういう奴は陰で周りに嫌われそうだが、アイツはみんなに好かれているところだ。
何でこんな話をしたかと言うと、俺は真面目に毎日鍛錬しているのに、リリーもそうだが周りの評価が上がらないからだ。
おかしい…やはり『但しイケメンに限る』なのか…?
「セイくんは別にそこまで頑張らなくてもいいと思うよ?むしろ差が縮まらないからやめて欲しいかな」
「待ってくれ。頑張ってる子に努力しちゃダメとか言ったらあかんやろ」
何となくそんな気はしていたが、ハッキリ言われると動揺して母国語が出てしまった。
まぁ関西には縁もゆかりもないけど。
「セーナの言う通りだ。セイは他にも色々出来すぎるんだから、仲間のポジションを脅かすのはやめろよな」
いや、ライルは俺のキャラを脅かしているぞ?イケメンなところ以外……
「心配するな。別にライルが急に弱くなっても仲間なのは変わらん。聖奈もな」
「そういうことじゃねーんだよなー」
「ねー」
なんやコイツら。あれか?リア充が非リアを仲間はずれにするやつか?
俺達が昼から馬鹿話に花を咲かせていると、リビングの扉が突然開いた。
俺たち以外に誰も居ないはずなのに。
ガチャッ
「ただいまです!エリー帰還ですっ!」
そこには少し髪が伸びたエリーが立っていた。
着ている服は変わっていないが年季が入って見えて、エリーに風格が……いや、気のせいだな。
「おかえり。納得出来たか?」
そう。何もエリーが強くなることを俺達が課したわけではない。エリーが自分に納得がいけば、それでいいんだ。
「はいですっ!まだまだ強くなれそうですが、それはこれから自分で頑張るですっ!」
「という事は、誰かに師事していたのか?」
そんな口振りだったが、まさか…男じゃないだろうな!?
「はい!師匠というより先輩ですね!師匠と呼ぶと怒るのです!」
「まさか男じゃないだろうな?」
しまった。
聞く気は無かったのに、つい口に出てしまった…これじゃあ嫌われるお父さんまっしぐらだ……
「先輩はお姉さんです。たしか23歳だったかと思うですっ!」
「エリーちゃん。その情報はいらなかったかな。でも、お帰り!後はミランちゃんだけだね!」
23歳…丁度いいじゃねーか!
二人でエリーを育てましょう!顔も知らんけど。
「ミランはまだですか?偶に会っていたので、今日帰ると伝えたから帰ってくると思うですよ?」
ガタッ
「ホントかっ!?」
「セイくん。動揺しすぎだよ」
「ミランって言うのが、セイの女なのか?」
おいっ!語弊がある言い方はやめろ!二人が睨んで来ただろ!!
「娘みたいなもんだ」
「じゃあ、母親は誰だ?やっぱりセーナか?」
おい!やめろ!本気で殴るぞ!聖奈さんも、うんうんじゃねーよ!
また俺達が馬鹿話をしていると、再び扉が開いた。
ガチャ
「ただいま戻りました。皆さんお揃いですね」
扉を開けたのは、少し大人っぽくなった金髪美少女だった……
天使かな?
「ミ、ミランか…?」
「はい。ミランです」
「本当か…?」
「セイさんは私のことを忘れたのですか?随分と筋肉質になられたみたいですけど、まさか頭まで…」
うん。時々悪気なくナイフで刺してくるこの子は、ミランで間違いないな。
「忘れるわけないだろ?
あまりにも可愛かったから、どこかのお姫様が間違えて入って来たのか思ったんだよ」
「もう!セイさん!」
よし、可愛いけど揶揄うのはこの辺にしとこう。日が暮れてしまうからな!
「ミランちゃんお帰り!準備は出来たかな?」
「はい!私もエリーさんと同じように、先輩に師事してやれる事はやりました。貴方は、あの時の人ですよね?ミランと申します」
「おう。セイに世話になっている。ライルだ。よろしくな」
うん。世話はしてないぞ?むしろ働いてもらうから世話になるな。
みんな、俺の世話をよろしくな!
その日はライルの歓迎会プラス二人のおかえり会をして、楽しく過ごした。
そして夜。
「明日は完全休養日にして、明後日からダンジョン攻略を再開したいがいいか?」
「おう」
「うん!」「「はいっ!」」
よし。漸くフルメンバーだな。
翌日は関係各所にライルを紹介して回った。
そして、遂に…俺達は、ダンジョンへと舞い戻ってきた。
「いきなりオークの階層だけど…大丈夫か?」
朝までは11階層から始めようと思っていたが、女性陣から待ったがかかった。特にエリーが心配だが、いきなりのリベンジ戦になった。
「じゃあ作戦通り行くぞ?」
一応それぞれに何が出来る様になったのかを聞いたので、それも踏まえて作戦も立てている。
「俺は基本自由なんだろ?」
「そうだ。明らかな強敵じゃない限りは、ライルは遊撃として自由に動いてくれ。とは言っても、仲間達のフォローを頼むことになる」
ライルはパーティで最速だからな。
「私は斥候とセーナさん、エリーさんの援護ですね」
「そうだな。まだ実際に見ていないからわからんが、聞いた話だとそうなる。もちろん臨機応変に、これまで通り銃を武器にしてもらう場合もあるからな」
ミランは冒険者の先輩から、斥候としての技術と近接戦の訓練を受けてきたらしい。
流石に火力不足だから、女性二人に付けて守りに徹してもらう。
「私は魔法ですっ!」
「そうだな。なんか今までと変わっていない気もするが、魔法を頼む」
エリーも冒険者の魔法使いから、実践的な魔法の使い方を学んで来たらしい。
特に発動をストック出来るようになり、連射速度を上げているらしいから、俺としては一番気になる存在ではあった。
問題は、普通の現代人である聖奈さんだが……
「ふふふっ。私のことは軍曹と呼んでくれたまえ!」
「うん。聖奈は前と同じように頼むな」
聖奈さんは驚いた事に、アメリカで軍の訓練を受けてきたらしい。
そこで基礎的な体力や筋力はもちろん、銃火器やサバイバルにかなり詳しくなれたらしく、『次のキャンプは任せてね!』なんて的外れなボケのレパートリーを増やしていた。
「じゃあ隊列はミラン、俺、聖奈、エリー、ライルの順で進むぞ。ミランは敵が接近した時点で何も考えず聖奈とエリーの元へ行くように」
「おう」「うん!」「「はい!」」
俺は相変わらず魔力波を使いながらコンパスと睨めっこだ。
知ってる階層だからコンパスは不要だが、慣れるためだな。ちなみにコンパスはちゃんと同じ方角を示す。ホントに北を示しているのかはわからんがな。
「距離220m先、右30度、二体です」
ミランの指示がより的確になっていた。
「聖奈」
パンッパァンッ!
「2発とも命中しました。敵の消滅を確認。進みます」
「了解」
ヤバい…ホントに軍隊みたいでかっけー!!
俺は『聖奈』と『了解』しか言ってないけど……
いいんだ。まだ言葉も発っして…出せていないのが二人もいるから。
聖奈さんは体力と筋力が付いているから、速射と連射がかなり早く、正確にもなっていた。これなら安心して岩蟻を任せられるな。
「距離280m、左74度、三体です」
俺達が通らない所にいる敵も報告してくれる。だがそろそろ本隊が近くなるから、その前に倒す必要のない敵でエリーを試すか。
「エリー」
『ウインドカッター3連』
は?
ヒュンヒュンヒュンッ
「命中。敵の殲滅を確認しました。進みます」
「りょ、了解」
えっ?エリーさん?何それ?
連射速度ヤバいな…それよりもさらにヤバいのが、魔法攻撃範囲が桁違いに伸びていることだ。
誰だよ育てたの…エリーがヒロインになっちゃうじゃん。ポンコツだけど。
そして俺達はオークの群れを捕捉した。
さあ。リベンジの時間だ。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
ガチャ
聖「ミ、ミランか?ミランなのか?」
ミラン「?誰ですか?この筋肉ダルマは」
聖奈「さあ?何故か家にいたんだよね。それよりおかえりなさい!」
エリー「さっ!私達四人でご飯を食べるです!」
ライル「そうだな」
聖「…え?俺だよ!ミラン!?忘れたのか!?」
ミラン「私に筋肉ダルマの知り合いはいません。気味が悪いので出て行ってください」
ガバッ
聖「待ってくれぇえー!!?!!」
ライル「んあ?また同じ夢か?いい加減にしろよな」
聖(くっ…早く帰ってきてくれ…ミラン…エリー…)
聖の悪夢…完。
そうです。小話が思いつきませんでした。思い付かない時は長く、そして夢オチに逃げるという二段構えなのです!