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うわあ、第26話…初夜のシーンから始まって、ナーシャが子爵家の温かい日常に溶け込んでいく流れ、すごく良かったです。特に「ナーシャ」って何度も呼ぶジェストの優しさに心がキュッとなりました。あの短い夜着で待つ覚悟とか、可愛いのに切ない…。そして最後の侯爵が倒れた知らせ、この幸せな日々に影が差すのか…続きが気になります!
食事を堪能した後、ナーシャはセリナと子爵家の侍女等に、新しい家族との食後のお喋りもそこそこに、案内された部屋へと押し込まれ、湯浴みから始まり体中を磨かれる。 湯浴みの途中で、みんなから「お肌がお綺麗です」などの褒め言葉や「私どもにお任せください!」と意欲満々の言葉、そして皆の顔に浮かぶ眩しい笑顔、そこまでくれば流石に鈍いナーシャでも気付いた。
ジェストとは突然結婚したから、心積もりもないままだった。|子爵領《ここ》に来るまでも同じ宿には泊まっていたが、ナーシャはセリナとずっと同じ部屋だった為、《《その事》》に思い至らなかった。
デリス家に嫁いだ事を先程実感したばかりで戸惑うけれど、どうしてそこに思い至らなかったのか、ナーシャは自分自身に呆れてしまう。結婚してから慌ただしかったジェストとナーシャ。既に婚姻して5日も過ぎている。漸く子爵領に到着したのだから、今夜が初夜だと誰もが考えるだろう。
そして理解すれば自ずとそれを考えて、顔がどんどん真っ赤になっていくのを自覚する。
だが、ナーシャのそんな思いは、準備を手伝ってくれる侍女らには、湯浴みで逆上せたように捉えられてしまい、早々に上がらされて四方からタオルで風を送られる。
余計な手間を掛けさせてしまって、ナーシャは皆に申し訳なくて情けなくなってきた。
「ナーシャ様」
振り向くとセリナがナーシャに見えるように手にしているのは、白い夜着で、よく見ると胸の辺りに可愛らしくフリルがあしらわれているのだが、それ以上に衝撃なのは丈が恐ろしく短い物だった。
「そ、それ?」
「はい、可愛らしくてナーシャ様にお似合いだと思います」
ナーシャはその夜着を見た途端、不思議なことに覚悟ができた。それから大きく深呼吸をする。皆がナーシャの気持ちを慮って、その調いを待ってくれた。
そして気持ちの落ち着いたナーシャは、白い夜着に身を包み、ジェストの訪いを部屋のソファに座って待っていた。
部屋の扉をじっと見てノックを待っていたナーシャ。遂にノックの音はしたのだが、ナーシャが見ていた扉からではなかった。
まだまだ緊張していたのだろう、部屋には違う場所にも扉があって、そのノックはそこから聞こえた。
「ハイ」
覚悟は決まってはいるけれど、口から溢れた返事は、とてもか細い物だった。
扉が開いてジェストが入ってくる。ジェストのローブも白で、胸元が少し開いている。その姿は、ナーシャが今までジェストに感じたことのない、大人の男性の色気漂う姿だった。
見ないようにしようと思っても、その胸元につい目が行くから、下を向いて誤魔化そうと思った。そんなナーシャの気持ちを知ってか知らずか、ジェストはナーシャの隣に座って、顎に手を添えクイッと顔を持ち上げた。
「ナーシャ」
「ハイ」
「ナーシャ」
「ハ、イ」
「フッ」
いつまでも小声のナーシャが可愛くて、ジェストは堪らなかった。
「ナーシャ、心から愛してる、これからはずっと一緒だ。俺から離れちゃだめだよ」
「はい、私もジェスト様を⋯アイシテマス」
ナーシャの声に応えるように、ジェストは優しく抱きしめる。そのままナーシャを抱き上げてベッドまで運び、宝物を扱うようにそっと優しく下ろされると、ジェストの顔が静かに近づいてきて、ナーシャに幸せなキスをくれた。
二人で過ごす初めての夜が静かに始まったが、意外にもジェストが情熱的な人だということを、ナーシャはその日初めて知った。
◇◇◇
子爵領でのナーシャは、毎日充実した日々を過ごしていた。
大家族の子爵家では、朝食と昼食は各家族で各々取ることも多いが、夕食だけは大食堂と呼ばれる部屋で、可能ならば全員で取ることになっていた。
始めの頃は大勢で取る食事に、ナーシャは慣れずに戸惑ったり、恥ずかしかったりもあったが、そのうち自然とその中に溶け込んでいった。
オリジエル侯爵家とは、全く違う生活スタイルは、それまでのナーシャが孤独だった事を尚の事知らしめた。
オリジエル侯爵家では、セリナだけがナーシャの味方だった。だが子爵家では、誰もナーシャを一人にはしなかった。
家族に与えられる安心感を、久しく忘れてしまっていたナーシャに、ジェストや子爵家の家族の皆が思い出させてくれた。
子爵領の領地を周り、領民達と直接話し、彼らが困っている事などを聞いて、家に持ち帰り家族で話し合い、解決策を模索していく。ナーシャにとってそれは、祖母が教えてくれた領民の為の正しい貴族の在り方だと思えた。
家政の事は、義母に教わることになる。
子爵家は、大家族だから各家庭に予算を渡し個々で運営してもらうスタイルだが、ナーシャは若奥様として、子爵家全体の家政も学ばなければならない。
それは、厨房の事や洗濯場まで毎日あちこちに目を配る事から始まった。裏方の事はオリジエル家では、あまり目にすることがなかったナーシャには、使用人一人一人の仕事に目を配る事も新鮮な事だった。
優しく温かい家族と大自然の中で、ナーシャは幸せに暮らしていた。
そんな幸せな日々の中、定期的に王都から届く、養父であるルオン公爵の手紙で、オリジエル侯爵が倒れた事をナーシャは知らされた。
それは子爵家に来て半年ほど経った頃だった。