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ソフィアは、ケイザル伯爵家の次女として生まれた。ケイザル家は代々領地を持たない宮廷貴族で、ソフィアの祖父は現役の頃は、宰相補佐を勤めた歴代の中でも特に優秀な人物だった。 だがソフィアの父は凡庸な人だった。
宮廷貴族はやはり学問が主流で、騎士になるのはひと握り、そんな家門にあってソフィアの父は、何とか王宮の文官の職には就けたが、祖父のコネでギリギリ財務部の副部長補佐という役職がやっとの男だった。当然禄もそれなりにしか貰えず、ソフィアの父の代でのケイザル家は、貧乏ではないが裕福でもない、そんな伯爵家だった。
裕福でなければ、やはり子供に掛けるお金には優先順位が出来る。一番はやはり嫡男である兄で次がソフィアの一つ上の姉だった。
お茶会に姉妹で参加しても、ソフィアが着るデイドレスは常に姉のお下がりで、唯一新調してもらったのは、デビュタントのドレスだけだった。かと言って姉がいつも新調してもらうというわけでもない。姉でさえ3回に1回新しいドレスを仕立てて貰えればいい方だった。
そんな伯爵家だったが、ソフィアはべつに悲観してはいなかった。貴族の令嬢として生まれたからには、いつか父親が決めた婚約をして、当たり前に結婚できる、そう思っていた。
その考えが甘いとわかったのは、学園の2年に進級する頃だった。
1学年が終わり、新学年になる前に2週間ほどの休暇がある。その休暇を利用して、貴族家ではお茶会が数多く主催される。
その日は、同じ爵位の伯爵家が主催するお茶会に、ソフィアは出席していた。
「えっ!宮廷貴族の令嬢って婚約が難しいの?」
それは、同じテーブルに付いた令嬢から聞かされた話しで、彼女の家もソフィアの家と同じく伯爵家で宮廷貴族の家門だった。ただ彼女の父は、総務部の部長をされているという違いはあった。
ソフィアと同じテーブルにいたのは、皆伯爵家だったが、3人の家が宮廷貴族で、2人が領地持ちの家だった。領地持ちの令嬢が、2日前に婚約が整ったのだと言う話題から、お祝いを皆が口にした後、ソフィアの隣にいた令嬢が言い出したのだ。
彼女曰く、家が宮廷貴族の場合の令嬢を婚約者として考える場合、先ずは父親の役職が関係する。その次は本人の優秀さになるのだという。結婚した後、家に有利に便宜を図ってもらえるか、家政を難なくこなせるかそんな事が念頭に置かれるらしい。
だからのほほんと普通に学んだり、社交を頑張ってもあまり意味がないと聞いた。
その点、領地を持つ家門の令嬢は、喩え家を継ぐことがなくても、代理で領地を任される可能性も有り、貴族家の次男以下でも申し込みがある場合が多いそうだ。同じ平民になるにしても、仕事が元からあるのと探さなければならないのとでは雲泥の差なのだとか。
「そんな!じゃあ家は⋯」
言いかけたソフィアだったが、プライドから口を閉じた。自分が婚約できないかもしれないなんて、言いたくもないし思いたくもなかった。だが、その令嬢の言うことは現実で、いつまで経ってもソフィアにも姉にも、婚約の釣書は届かなかった。
裕福ではないゆえにあまりお金もかけてもらえなかったのに、当たり前に結婚すらできない貴族の令嬢など、なんの価値があるのだろう?
そんな事を考えていたソフィアの前に、カモがネギを背負って現れた。
スティーブ・オリジエル侯爵。
彼はソフィアの1歳上で、姉と同級生だったが、特に親しいわけでもなかった。姉に聞いていたのは、侯爵家の嫡男なのに、家を継がずに卒業後は平民になると言っていた、貴族としては変わり種の男だった。
だからだろう、侯爵家の令息なのに、学園でも全くもてはやされる事もなく、遠巻きにされていた。
そんな事を言っていた男が突然侯爵になった。
ソフィアは婚約相手を探す為に行った夜会で、スティーブを見かけた。
1年程前に侯爵になったスティーブの周りには、人が居なくて不思議に思ったが、ソフィアはもうすぐ卒業するのに、婚約も決まっていない崖っぷちだった為、スティーブを狙った。
今までモテる事がなかったからだろうか、侯爵なのにスティーブはかなり無防備だった。
一緒にダンスを踊って、バルコニーで二人っきりで会話したり、楽しい夜を過ごして、今度は昼に会いたいと言うと彼は了承してくれた。
あまりにも簡単で何か罠でもあるのかと、高揚した気分で家に帰れば、特大の情報を姉からぶちまけられる。
何とスティーブには、元平民の妻が居ると知らされた。
「は?そんな事彼は一言も言わなかったわ」
「みんなが知ってることだもの、知ってて近づいたとわかってたんじゃない?」
姉の馬鹿にしたような目にイライラした。
一言文句を言いたくて、待ち合わせのカフェに行くと、スティーブはあっさりとその事を認めたし、やはり姉の言うように知ってて声を掛けてくれたのだと嬉しかったと言われて、頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
どうやら、学園の時に平民になると言っていたため、親しい友人も居らず特に令嬢からは遠巻きにされ、寂しい学園生生活だったのだとか、父親の急逝で侯爵になったものの、継ぐつもりがなかったから今の生活が辛いと愚痴を溢す。
聞けばその平民女性の為に平民になる気だったのに、その女性は今スティーブの母親に習って貴族夫人の勉強に必死でスティーブに構ってくれないのだと聞かされた。
ソフィアは、思わず俯いた。
ほくそ笑む顔を見られないようにする為だった。
(これって寝取ったら、私侯爵夫人になれるかも)
スティーブがカモになった瞬間だった。
コメント
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おお、第27話読み終えました。ソフィアの「寝取ったら侯爵夫人になれるかも」のところ、めっちゃ好きです。お下がりドレスでやり過ごしてきた次女が、自分の未来を切り開くために動き出す——しかも侯爵本人が無防備すぎてカモ認定される流れが痛快でした。宮廷貴族の令嬢の婚約事情とか、世界観の設計がしっかりしてるなあと。続き、どうなっちゃうんでしょう。