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【賢者の村エルラ】
「ワイバーンだ! ワイバーンの襲撃だァーーッ!」
メアリーを無慈悲に追い出した翌日。エルラ村は突如として現れた飛影に騒然となっていた。
ワイバーンは獰猛で、ひとたび暴れれば村に甚大な被害を及ぼす恐るべき厄災だ。緊迫した空気が一瞬にして里を支配し、子供や攻撃魔法が使えない女たちは避難所に集まり、身を寄せ合い恐怖に震えていた。
カンカンカン――!
静かな里に危機を知らせる鐘の音が激しく鳴り響き、慌てて弓や剣を手にした男たちや、魔法の杖を握りしめた魔法士たちが広場へと集まり出す。
「迎撃準備、照準合わせ!」
迎撃の準備が慌ただしく整う中、防衛隊の隊長を務めるエルフの男は、怪訝そうに目を細めて遥か上空を睨みつけた。
「……待て。何故あっちの方向から飛んでくるのだ? 通常の出現ルートとは明らかに違う」
並外れた視力を持つエルフだからこそ、まだ雲間にゴマ粒ほどにしか見えない無数の飛影の「不自然な進行方向」に違和感を覚えていた。村中がパニックに陥る中、昨日メアリーを冷たくあしらった受付嬢が、髪を振り乱しながら大声で叫び逃げ惑う。
「あああ! やっぱりあの子のせいよ! あの不吉な小娘が、村に厄災を齎したんだわ!」
その声に呼応するかのように、エルフたちが一斉に弓を引き絞り、迎撃の魔法陣を展開しようとした、その時だった。 まだ肉声など到底届くはずのない遥か彼方の上空から、凄まじい魔力にのせた「声」が、雷鳴のように村全体へと響き渡る。
『――射るな! 我らはフィルモア王国第一近衛兵団である! 王の勅命により、この地へ臨場した!』
それは、拡声の魔法を用いた騎士団からの警告だった。過去に事前連絡なしでエルフの村に近づき、超高速の弓矢で手痛い洗礼を受けた経験があるからこそ、彼らは遥か遠方から自らの身元を大音量で示してきたのだ。
「こ、近衛兵団……それも、第一だって……!?」
エルフの防衛隊長が、額に大量の冷汗をにじませて絶句する。それもそのはずだ。彼らは別名「神罰の烈雷」と恐れられる精鋭部隊。
フィルモア王国・第一近衛兵団――それは、平均レベル500オーバーを誇る、人類最強と謳われる超一級の戦闘集団であった。
「……いや、あれは普通のワイバーンではない。ファストワイバーン……!」
呆然と見上げるエルフたちの前に、悠然と降り立つ引き締まった流線型の体躯。その金属のように鋭く輝く漆黒の翼と胴体には、王家を表すフィルモアの紋章が眩いばかりの存在感を示していた。
テイムが極めて困難な分、通常のワイバーンとは比べ物にならないスピードを誇る超希少なワイバーンの亜種。それが、何騎も連なって里へ舞い降りたのだ。
「出迎えご苦労。王の勅命を受け、捜査のため出向いた。騒がせるが、協力を惜しまないでもらおうか」
そんな化け物集団を率い、先頭切って颯爽と降り立ったのは、騎士団長のウィラードだ。
汚れ一つない真っ白な近衛服を纏ったそのがっしりとした体躯からは、周囲の空気を歪ませるほどの凄まじい威圧と威厳が立ち上っている。その風格は、まさに「レベルカンスト間近」と噂される最高峰の戦士そのものだった。
国を代表する最高峰の兵団、美術品のように美しいレア飛竜、そして最強の騎士。それらが直々に現れたという圧倒的な現実に、村の幹部たちは総出で平伏し、彼らを迎え入れるしかなかった。
「メアリー様の身姿を探すのだ!」
飛竜から降り立つや否や、殺気立ったウィラード率いる捜索隊は村内へとなだれ込み、強引な捜索を開始する。村長や相談役、宿のオーナーなどは次々と事情聴取され、里はかつてない緊迫感に包まれた。
そして――彼らはついに、メアリーが昨日この村に立ち寄り、即座に叩き出されたという決定的な経緯を突き止めた。
「貴女が幼きメアリー様を、魔物がひしめく夜の森へ叩き出したのだな。その大罪の意味を理解できるか?」
近衛兵団の隊長が放つ、文字通り肌を刺すような凄まじい威圧感。口調こそ穏やかではあるが、低く地を這うように唸る声は、既に「お前は詰んでいる」と冷酷に語っていた。
王国の至宝たる御方を、あろうことか夜の魔境へ追いやった事実。
断罪の矢面に立たされた受付嬢は、己の仕でかした事のあまりの恐ろしさに顔面を蒼白にし、ガタガタと歯の根が合わないほどに震え上がっていた。
「お許しください、お許しください! 私は、私はただ規則に従っていただけで――」
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「誰が発言を許した。見苦しいぞ、この大罪人風情が」
「ヒッ……!」
既に彼女の身の処遇は決まっているようだった。ジャラリ、と不気味な音を立てて、犯罪者を護送するための『魔法無効化の器具』が容赦なく取り付けられ、受付嬢は完全に身動きが取れなくなる。
もし万が一、メアリー死亡が確認されるようなことがあれば、この女はその場で即座に処刑されるだろう。
続いて、怯えきった村長がウィラードの前へと連れてこられた。
村長はあからさまな捜査の妨害こそしないものの、己の保身のためか、こちらがいちいち問い詰めなければまともに喋ろうとしない。ただでさえ無駄に時間が過ぎていく現状に、ウィラードは激しい苛立ちを募らせていく。何より、未だに村独自の捜索隊すら出そうとしないその態度が、最強の騎士の逆鱗に触れた。
「ああ、私は何も知りません……! どうか、どうかご容赦を……!」
「君は、何もなすべき事をしていない。これ以上の非協力的な態度は国家反逆罪とみなし、即座に死刑に処す!」
「ひ、ひえぇぇっ!? お、お許しをぉ!」
事態の尋常ならざる重さ――下手をすれば村そのものが王国によって完全に潰されかねない危機を察知し、エルラ村の村長は受付嬢の不祥事に、激しい責任を痛感して青ざめた顔で地面に額をこすりつけた。
「お詫びとして、今すぐ村人総出でそのお方を捜索いたします!エルフの眼ならば、森の僅かな痕跡も見逃しません! どうか、どうか御慈悲を……!」
村長が決死の覚悟で全面協力を申し出たことで、人類最強の近衛騎士団とエルフの精鋭たちによる、大規模な合同捜索網が敷かれることになる。
※※※※※
【漆黒の森】
「はぁ……っ、疲れた。けど、頑張らないと……!」
無慈悲にエルラ村を追い出されたメアリーは、魔眼の力を借りて迫り来る魔物をなんとか退け、決死の思いで生き延びていた。
最終的にはアングィスの提案で高い木の上に登り、冷たい夜風に吹かれながら、そこで怯えるようにして一夜を明かしたのだ。
まともな睡眠も取れず、疲れ切った小さな体を引きずりながら、彼女は次の村を目指して歩き続けていた。
――ガサリ。
森の中を恐る恐る歩いていたメアリーは、少し開けた場所で休憩している一人の女の姿を見つけた。
ハッとして足を止める。いくら人間が恋しくとも、自分の魔眼を見せるわけにはいかない。そう思ったメアリーは手早くポケットから眼帯を取り出して顔に取り付けると、自分の正体を隠しながらゆっくりと女へ近づいて行った。
「あら、食堂の隅っこで幸せそうにシチューを食べてた子だよね? どうしたの、こんな所を一人で歩いているなんて」
見知らぬ女から親しげに声をかけられ、メアリーは驚く。だが――どこかで見覚えがある顔だ。あの宿の食堂で、知らない間にすれ違ってでもいたのだろうか。まったくの初対面ではないという奇妙な安心感から、つい警戒心を緩めてしまった。森を抜けた先にある村を目指しているのだと告げると、女は嬉しそうに目を細めた。
「なんだ、同じ村に向かうんだ。というか早くいかないと日が暮れるよ。私スキル持ちだから案内してあげるよ」
心細さの限界だったメアリーは、その甘い言葉をすんなりと信じ込み、道案内を申し出た彼女の後に付いて行くことにした。
※※※※※
「さあメアリー、もう直ぐだよ」
暗い森を抜け、目の前に現れたのは、自然に出来た沢山の横穴を住居として改造された、正に絵に描いたような盗賊の根城だった。
「エッ……?」
異変を感じたメアリーが慄き、慌てて後退りした――その瞬間。背後に、どしりと重い肉壁が立ち塞がる。
「ひゃっ!?」
飛び上がるようにして振り向くと、そこには禍々しい大斧を肩に担ぎ、見るからに凶悪な笑みを浮かべた大男が仁王立ちをしている。完全に退路を断たれてしまったのだ。
「あはは! ひっかかったー! ほんっとチョロいお嬢ちゃんね、食堂でずーっとあんたを品定めしてたのよ?」
「ひ、酷い……私を騙したのね。この人でなしっ!!」
さっきまで親切だったお姉さんは、善人の仮面を脱ぎ捨て、ニタリと下品に口角を上げる。そいつは道案内などではなく、メアリーを拉致するために近づいた、盗賊団のスパイだったのだ。
(嗚呼、魔眼封じの眼帯なんて、付けなきゃ良かった……!)
森で女を見つけたとき、反射的に眼帯を装着し、魔眼を悟られないようにしたことが完全に裏目に出てしまった。
だが、後悔しても始まらない。そう腹を括ったメアリーは大男をキッと鋭く睨みつけ、精一杯の反抗を試みてみた。
「ボス、間違いないよ。この空気感、貴族かどこかいいとこの出だよ」
「ほう……中々の上玉だな。これほどのお嬢様なら完璧だぜ!」
お子様の睨みなど微塵も堪えるかよと言わんばかりに、大男はガハハと豪快に大笑いする。この男こそが、この界隈の裏社会を牛耳る盗賊団のボス――バリスタだ。
「――ッ!」
ここに来てメアリーは、自分が信じられないほど初歩的な罠に騙され、完全に囚われの身になってしまった事実にようやく気がつく。悔しさと情けなさで、きつく唇を噛みしめた。
「ねぇボス! これで村の問題も解決だね? 褒めて褒めて!」
「ガハハ、めんこいしこりゃ期待出来そうですな、ボス」
女の言葉とボスの大笑いが合図になったのか、横穴の中からわらわらと、ガラの悪い輩やヤンキーのような女たちが湧き出てくる。
絶体絶命。この人数を前にしては、仮に今から魔眼を使ったとしても勝てる気がしない。メアリーの顔から、サーッと血の気が引いていく。
「いや……っ、来ないで!」
ニヤニヤと濁った視線を向けながら、じわりじわりと距離を詰めてくる男たち。あっという間に、完全な包囲網が完成してしまった。
「おとなしくしてくれよお嬢ちゃん。悪いようにはしないからさ」
逃げ場のない、圧倒的な数の暴力。
過酷な現実を前にして、メアリーは身体の震えを止めることができない。頼みのアングィスの力も、精神的な大混乱のせいでうまく引き出せず、頭の中がパニックでぐちゃぐちゃになっていく。
周囲に木霊する、男たちの下品な嘲笑。
世間知らずの少女が初めて直面する、人間の剥き出しの悪意を前に、メアリーはかつてない絶体絶命の危機に陥っていた――。
コメント
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第19話読み終わったよ〜!うわ、めっちゃ胸が痛くなる展開…😭 メアリーちゃん、村から追い出されたと思ったら今度は盗賊に騙されて拉致されるとか、もう可哀想すぎて泣ける。あの優しそうな女がスパイだったの衝撃だし、眼帯が裏目に出ちゃうところも切なかったな…。でもウィラードたち近衛兵団が超カッコよくて、早くメアリーちゃん助けに行ってほしい!次話が気になりすぎる🔥