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あらすじ
ついに訪れた“L継承”の時──。
称賛を浴び、「2代目L」として迎えられた夜神月。だが次の瞬間、松田の一言が空気を凍らせる。
「Lって、4000万も借金してたんだよな」
机に叩きつけられる《L借金リスト》。
並ぶのは投資失敗、ネカフェ延長、サイゼリヤのツケ……そして莫大な慰謝料。
【総額:-4137万6000円】──それは、名声と共に月が背負わされる絶望の数字だった。
頭脳戦の継承か、それとも借金地獄の連鎖か。
新世界の神を目指す男の戦いは、もはや正義だとか悪だとか形振り構ってられない。残された選択は返済のみだ。
夜神月は机で蹲り、額を押さえた。
「……マイナス4137万6000円……Lの借金を背負ったまま、どうやって世界を導けというんだ……」
リュークがリンゴをかじりながらゲラゲラ笑う。
「くくくくっ 神が借金取りに追われるなんて見たことがねぇ! 哀れだな、月」
月は冷ややかな瞳でノートを見つめた。
「……仕方ない。このデスノートを、“力”として売る。国家規模ではなく、闇オークションにだ」
「売っちまうのか? 神の座を?」
「違う、これは投資だ。僕は必ず取り戻す。そのために……今は資金が必要なんだ」
──翌日。
世界中の裏社会に流れた告知。
【出品物:キラの力】
【内容:任意の人間を殺害できる力】
【開始価格:1兆円】
オークションは瞬く間に加熱した。石油王、政治家、各国の裏権力者……。
だが、その中で最も強い執念を見せたのは──
【分割払いで──1兆500億円】
──メロだった。
「分割!?」
月は画面越しにその姿を確認し、目を細めた。
(メロ……ワイミーズハウスの……まさか分割払いとは……しかし、これで借金が返済できるのなら──)
結果、
【落札者:Mello(分割払い)】
だがそれは悲劇の始まりだった。
──メロは一向に支払わなかった。
請求書は溜まる一方、返済はゼロ。
結局、月のもとに残ったのは山のような延滞通知だけだった。
リュークは腹を抱えて大爆笑。
「ガハハハハ! おい月! 借金は返せねぇし、ノートはメロに取られたぞ! どうするんだ!?」
月は苦い笑みを浮かべ、歯を食いしばった。
「……くそっ、借金はまだ返せていない。だがメロ……そのノートを持った瞬間、お前は僕の獲物だ」
──こうして夜神月は、借金返済のためにデスノートを売り、分割払いの踏み倒しに遭い、宿敵に所有権を奪われるという前代未聞の状況に立たされた。
✧✧✧
マフィアに所属するメロは、夜神粧裕が攫われ、デスノートとの取引が行われる。
通信端末越しにメロは冷たく笑った。
『……デスノートと夜神粧裕、交換だ。指定した場所にノートを持ってこい』
総一郎は歯を食いしばる。
「くっ……!」
本来なら地下に巨大なシェルターなどで、監視カメラや武装兵を配置して行うはずの取引。だが──
【メロの現実】
・借金 マイナス1兆500億円
・マフィアから前借りしているチョコ代ですら未払い
・地下施設どころか、倉庫すら借りられない
「……場所はどうするつもりだ?」
モニター越しに月が問い詰める。
メロは無理やり笑って答えた。
『決まってるだろ……コインランドリーだ』
「……こ、コインランドリー!?」
『地下施設なんて豪勢なものはない。だが、コインランドリーなら洗濯機の音で会話は掻き消せるし、防犯カメラは潰せる。……十分だろ?』
総一郎は顔を覆った。
「粧裕を……コインランドリーで取引だと……?」
リュークはリンゴをかじりながら爆笑している。
「くくくくくっ!! 世界の命運を賭けた取引が、洗濯機の横でやるのかよ! 月、これは神展開だぞ!」
月は静かに目を閉じ、深く息を吐いた。
「……いいだろう。メロ。地下施設が用意できないのなら、その安っぽいコインランドリーを、お前の墓場にしてやる」
✧✧✧
デスノートと粧裕を交換。
メロはチョコを噛み砕きながら、不敵に笑った。
『……ニアにノートを横取りされる可能性はある。だからデスノートは“直接”俺の元へは届けない』
「……なら、どうする気だ」
総一郎が警戒の目を向ける。
メロは下っ端のマフィアを合図する。
次の瞬間、コインランドリーの外からド派手に現れたのは──大量の風船。
赤、青、黄色……お祭りのように膨らませた風船の群れに、黒いノートが括り付けられている。
『これを空に放つ。ランダムに散らばれば、ニアも奪えない』
総一郎「…………」
月(通信)「…………」
リューク「ガハハハハハ!! デスノートが風船扱いかよ!!」
下っ端たちが必死に風船を抱え、コインランドリーの狭い通路を塞ぐ。洗濯機の回転音と相まって、カオスな光景だった。
総一郎が必死に問い詰める。
「……だが、どうやって本物を回収する気だ!? GPSすらないのに!」
メロは顔をそむけて、苦し紛れに言い放った。
『……勘だ』
月(だめだこいつ……早く、なんとかしないと……)
『風船の色、結び方、飛ばすタイミング……全部俺が決めた。直感で“これが本物だ”ってやつを追う。俺はそういう男だ』
月は頭を抱えた。
(1兆円規模で取引されたノートを、直感で追うだと……!?馬鹿なのかこいつは!)
リュークは涙を流して笑っている。
「おい月! GPSなしでデスノート探すってよ! 最高すぎるだろ、こいつ!!」
──こうして世界の運命を左右するデスノートは、空に舞い上がった風船の群れに括り付けられ、ただの祭りのように漂っていった。
✧✧✧
SPK本部。
モニターに映るのは、コインランドリーから大量に放たれた風船たち。
赤、青、黄色、緑──空に舞い上がり、街を覆い尽くしていく。
ニアは手を止め、しばらく沈黙した。
「…………」
やがて、呆れたように言葉を吐く。
「……メロは、馬鹿なのか?」
横にいたSPKメンバーが、声を失ったまま口を開く。
「……あれ……全部にノートが括り付けられてるんですか?」
「そのようだ」
「な、なんて非効率……! ……ですが……」
別のメンバーが項垂れる。
「……あんな大量にあったんじゃ……どれが本物か、探し出せません……」
モニターには、何千という風船が空を漂う姿。
ニアは指先でパズルのピースをいじりながら、深い溜息をついた。
「……理解に苦しむ。しかし、確かにこちらの戦力では全数を追えない。……諦めざるを得ない、か」
SPKメンバー全員が呆然と画面を見つめる。
「……キラの力が上空に……」
「……我々は、一体何と戦っているんだ……」
✧✧✧
──メロがノートを回収してから、しばらくして……メロのアジトに銃声が響いた。
ドアを蹴破って突入したのは──夜神総一郎。死神の目と取引したその瞳は、メロの頭上に浮かぶ“本名”を鮮明に映し出していた。
「……メロ、お前の本名は──」
その瞬間、メロは歯を食いしばり、下っ端の腹に敷かれていたデスノートを掴んだ。
(……もう俺は長くない。だったら最後にやってやるさ……!)
ノートに震える手で走り書きする。
【ミハエル・ケール】
死因:借金1兆500億円をニアに押し付け、直後に心臓麻痺。
「……ふっ、これで……勝った……! 俺の借金は消え、ニアが背負う……!」
数秒後──メロは胸を押さえて崩れ落ちた。
✧✧✧
SPK本部。
報告を受けたニアは、白い髪を揺らして数秒無言になった。
「…………」
カチリとパズルをはめ込み、深い溜息。
「……メロは、本当に馬鹿なのか?」
「ど、どういう意味ですか?」
「借金を無関係な私に押し付ける……完全にふざけてます」
「……え? つまり……」
「はい。私は今1兆500億円の借金を背負っています」
「「「……………」」」
「キラを捕まえるとか言ってられません。勝敗は──借金を抱えずに生き残った方の勝ちです!」
SPK一同は愕然とし、モニター越しの月は冷ややかな笑みを浮かべた。
(……結局、メロは自分の借金に潰されたのか。新世界は、借金なき者の手に託される……)
リュークはリンゴを齧りながら涙を流すほど笑っていた。
「神の戦いが借金押し付け合戦だとはな! 月、勝利条件は“借金ゼロ”だぜ!」
✧✧✧
SPK本部。
机の上にはまだ処理しきれていないメロの借金1兆500億円請求書が山積みになっていた。
ニアは頭を抱え、おもちゃを弄る手すら止めている。
そこにジェバンニが駆け込んできた。
「ニア!」
「……騒がしいですね、ジェバンニ。借金取りでも来ましたか」
「違います! 朗報です!」
ニアが顔を上げる。
ジェバンニは資料を机に叩きつけた。
【国際警察情報】
──キラの首に懸賞金 1兆円──
「……っ!」
SPKメンバー全員がどよめいた。
「い、1兆円!? そんな金額、国は本気だ……!」
「これを手に入れれば……メロの借金も少しは返せる……!」
ニアは書類をじっと見つめ、やがて小さく笑った。
「……なるほど。キラを捕らえれば1兆円。メロの借金も、少しは返済できる。500億円は残りますが、それくらいならSPKの給料を3世代先まで前借りすれば払えます」
SPKメンバー「えぇぇぇぇぇ!?」
ニアは髪の毛を指先で回し、宣言した。
「──我々は人類を救うためではなく、借金を返すためにキラを捕らえます」
✧✧✧
──SPK本部。
外では「キラを崇拝する暴徒」がシュプレヒコールを上げながら押し寄せていた。
「キラ様に従えーッ!」
「ビルごと燃やせー!」
完全に正義の名を借りたただの暴徒。銃声、火炎瓶、窓ガラスが砕け散る。
「ニ、ニア! 早く脱出を!」
ニアは冷静にロボットで弄びながら答えた。
「……ええ。だが逃げるだけでは芸がありません」
ニアはジェバンニを見やる。
「ジェバンニ、すぐにコピーを」
「コピー? 何をです……?」
「メロの請求書です。あれに器物損壊罪を加えて、数百万枚印刷してください」
「……えぇぇ!? この状況で!?」
「いいから。暴徒の目を逸らすには、彼らに“現実の恐怖”を与える必要がある」
数分後、SPKの窓から紙が大量に舞い散った。
ビルの外に広がる群衆の頭上へ、雪のように降り注ぐ請求書。
【メロ借金請求書】
【総額:1兆500億円】
【追加:器物損壊罪による損害 → 800万ドル】
最初に拾い上げた一人が、絶叫した。
「……せ、せ──」
「請求書だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その声が引き金となり、群衆全体に電流が走った。
「ひぃぃぃ!!! 請求されるぞ!!!」
「逃げろおおぉ! こんな額払えるか!!!」
「やだやだ! 破産するのはごめんだぁぁぁ!!!」
数百人の暴徒が一斉に叫び、わああああと四方八方に逃げ散る。
火炎瓶を投げていた男すら、半泣きで走り去る。
「に、ニア……!」
ニアは深いため息をつき、呟いた。
「……結局、金で人の心は動く。メロの請求書は武器にもなる、ということです」
✧✧✧
机の上に並べられた二つの封筒。
一つは黒く重厚なデスノート。
もう一つは、真っ赤な字で表紙に書かれた──《L借金リスト》。
月は冷ややかな笑みを浮かべた。
「……借金4,137万6000円。Lを継いだ僕にのしかかる“負の遺産”。だが──神は借金をしない」
リュークがゲラゲラ笑う。
「お前まさか……!」
月は封筒を重ね、ひとつの小包にまとめた。
宛先は──魅上照。
「彼は忠実な信徒だ。ノートを渡せば泣いて喜ぶだろう。そして同封された“請求書”にも、きっと神の試練として向き合う」
「……借金まで信仰で押し付けるのか! お前、悪魔よりひでぇ!」
──数日後。
封筒を受け取った魅上は震える手で開封した。
「こ……これは……デスノート! そして……」
紙束に目を通すと、目に飛び込んできたのは真っ赤な数字。
【借金総額:-4,137万6000円】
「ッ…………」
しばし絶句し、だがすぐに目を潤ませ、天を仰いだ。
「……なんということだ……! 神は私に、罪深き人間界の“負債”を背負わせることで試練を与えられたのだ!」
彼は請求書を胸に抱きしめ、震える声で叫んだ。
「私は必ず、この借金を返済し、神の世界を実現してみせる!!」
リュークは空中で腹を抱えて爆笑した。
「くくくくくっ 信者が借金も代行してくれるとはな! 神の代理人ってより金融代理人だ!」
月は冷ややかに微笑んだ。
「……信仰とは、利用するためにある」
✧✧✧
夜神月は電話を切ったあと、額を押さえた。
──高田清美との会合。
彼女を懐柔し、完全に取り込む必要がある。
そのためには“舞台”が必要だ。最低でも高級ホテルのスイートルーム。
しかし、財布を開いた瞬間、現実が襲いかかる。
【残高:13円】
【次の給料日:あと23日】
【警察官の月収:精々30万円程度】
「…………」
(くっ……! 僕が“新世界の神”だというのに……なぜ高田との会合が“ビジネスホテル”レベルなんだ……!?)
月は必死に思考を巡らせる。
──プランA:ネットカフェ → 安すぎて幻滅される。
──プランB:自宅 → 家族にバレる。
──プランC:都内ラブホ → 即通報されるリスク大。
──プランD:一か月分の給料を前借りしてスイート → 翌月から借金生活確定。
「……ぐっ」
歯ぎしりしながら机を叩く。
結局、月は苦渋の決断を下した。
「……“高級ホテルに見える中級ホテル”で誤魔化す。部屋のカーテンを閉め、照明を暗めにすれば誤魔化せるはずだ」
──数日後。
高田が到着した部屋。
「まあ……素敵なホテルね」
月は冷静な笑みを浮かべつつ、心臓はドキドキだった。
(頼む……頼むから、ここが“朝食付きビジネスプラン1泊9,800円”だと気づくな……!)
✧✧✧
電車内。
魅上照は裁判資料を抱え、無表情で席に座っていた。
その数メートル先、一般客に紛れて乗っているのがジェバンニだ。
──尾行任務。
本来なら息を殺し、100%の集中で対象の一挙一動を記録する。
だが、ジェバンニの心はまるで別の方向を向いていた。
(……あー……やってられない……)
財布の中身を思い出す。
──空。
SPKからの給料はここ数か月「未払い」。
メロの借金請求で予算が飛び、ニアからは「後で払う」とだけ言われている。
(飯代すら出ないとか……)
魅上が何かを取り出した。
──黒いノート。
本来なら心拍数が上がる瞬間。
だが、ジェバンニの脳裏に浮かんだのは別の思考。
(……あのノート売ったら、どれくらいの給料分になるんだろうか……)
電車が揺れる。魅上が座席に腰掛ける。
ジェバンニはつられて座ったが、目線はノートではなく、中吊り広告の「アルバイト募集」に吸い寄せられていた。
(時給1200円、日払い可……こっちの方が安定しているじゃないか……)
ジェバンニはため息をつきながら、ポケットに忍ばせたカメラで魅上を撮影する。
(……まあ、一応任務はやるけど……やる気ゼロだ……)
──あー。もうSPK抜けてアルバイトでもしようかな……。
✧✧✧
SPK本部・深夜。
机の上に本物のデスノートが置かれている。
ニアはパズルのピースを指先で弄びながら、冷たい声で言った。
「ジェバンニ。──一晩でこのノートを完全に複製してください」
「…………」
ジェバンニは顔を上げ、ノートとニアを交互に見た。
「……か、勘弁してください。無理です」
「無理ではありません。あなたならできる」
「だからって……もうやる気ないんですよ」
「やる気?」
「はい。だって、給料未払いなんですから」
ジェバンニは椅子を回転させ、ため息をついた。
「交通費、ガソリン代、給料未払い、それだけでもきついのに、命懸けの戦い。こんなの、ただのボランティアじゃないですか……働いたら負けってやつですよ」
ニアはパズルを机に置き、目を細める。
「……つまりあなたは、世界を救うより給料を優先すると?」
「当たり前だ。腹が減ったら死にますから」
沈黙。
やがてニアは深い息を吐いた。
「……では、出来高払いにしましょう。成功すれば──未払い分を、きちんと清算する」
ジェバンニはピクリと反応する。
「……本当に?」
「ええ。もちろん利息込みで」
次の瞬間、ジェバンニはペンを取り、ノートを机に広げた。
「やります」
最終決戦
荒れ果てた倉庫。イエローボックスの内部に、重苦しい空気が張り詰めていた。
片や夜神月──Lの借金を魅上に押し付けながら、神として新世界を築こうとする男。
片やニア──メロの借金1兆500億円に潰されかけつつも、キラを捕らえて1兆円の懸賞金を狙う天才。
「……ついに来たか、ニア」
月が鋭い眼差しを向ける。
「ここでお前を殺し、新世界を始める」
ニアは小さく笑った。
「キラ、ここであなたを捕まえ、私は1兆円の懸賞金を得る。借金返済のために」
夜神月は汗を拭い、勝利の笑みを浮かべた。
(馬鹿め、捕まるわけが無い!借金は魅上に全て押し付けた、ミサの金も銀行にある……ッ所持金は13円だが──借金まみれのお前の負けは確定だ)
ニアは無表情のままパズルのピースを弄び、淡々と返す。
「……ふふ。キラ……あなたは勝てるなど大きな勘違いをしている」
「……何?」
ニアは分厚いファイルを取り出し、床に叩きつけた。
表紙には大きく赤字で書かれている。
【L借金リスト・完全版】
「……ッ!?」
【完全版】
(なんだこれは……!)
ニアはページをめくりながら、冷静に読み上げた。
【監視カメラ増設】
世界三十都市に300万台。機材、設置、維持費込み。
──総額・9000億円。
【DNA検査】
犯罪者、容疑者、関連者──100万人分を一括外注。
──総額・5000億円。
【特殊部隊動員】
FBI・CIA・SPK。数100人規模を数年常駐、装備費込み。
──総額・1兆円。
【マフィア関係資金】
情報買収、潜入捜査、口止め料、裏金。
──総額・3000億円。
【合計:約2兆7000億円】
「…………」
月は書類を握り潰さんばかりに力を込めた。
(ば、馬鹿な……! Lが……“正義”の名のもとに……これだけの資金を使い潰していたというのか……!?)
SPKメンバーたちは無言で請求書の束を見つめ、震えていた。
ニアは冷ややかに告げる。
「そして……その全額は“2代目L=夜神月”に相続されます」
請求書が月の足元にバサバサとばら撒かれる。
──その山は、血よりも重く、死よりも残酷な束。
リュークは天井の鉄骨に腰をかけ、腹を抱えて爆笑した。
「ガハハハ!! 2兆円だってよ月!! お前、神どころか金融破産だな!」
月は膝を突き、顔を青ざめさせながら呟いた。
「……ば、馬鹿な……僕は新世界の神だぞ……! 金に縛られるはずが……」
ニアは最後に冷酷な一言を投げた。
「キラ……借金を背負った神など、ただの凡人以下です」
「……黙れ! 僕は仕方なくLを継いだんだ! 借金すら背負って! 僕こそ被害者だ!」
「いいえ」
ニアの声は冷えきっていた。
「あなたはただの……債務者です」
イエローボックスでの最終対決は、銃弾や策謀ではなく──借金と懸賞金で決着の時を迎えようとしていた。
✧✧✧
ニアは一枚の紙を差し出した。
「……魅上照が持っていたものです」
ニアは封筒を取り出し、中から一枚の請求書を差し出した。
そこには大きく赤字で──
【請求額:-4,137万6000円】
「これは……!」
ニアは冷ややかに言い放つ。
「……これはLの借金リストに記された額と、まったく同じ数字です」
月の顔色がサッと変わる。
「ま、待て……それは──!」
ニアは淡々と続ける。
「この額を知っている者は限られている。だが、不思議なことに──“夜神月名義”で借金が背負われていた」
ニアは請求書を掲げ、断罪するように告げた。
「つまり──夜神月……あなたは“2代目L”だった。そして、Lを殺したのは──他でもない、あなた自身だ」
月は汗を滴らせ、膝を崩した。
「そ……そんな……馬鹿な……請求書一枚で……」
「……この推理に辿り着けたのは、メロのおかげです」
「メロ……!?」
ニアは淡々と説明を続けた。
「メロは私に 1兆500億円の借金 を押し付けてきた。その額に頭を抱えながら、私は考えた──“誰に返済を肩代わりさせるべきか”と」
指人形を弄びながら、ニアの目が冷たく光る。
「そして私は気づいた。……“2代目L”の借金総額が“初代Lと同じ金額”であることに」
月は顔を歪め、声を荒げる。
「だからなんだっ……!僕がLの保証人になってやっただけじゃないか!」
「はい。Lの置き土産のおかげです。2代目Lが夜神月であることは、借金総額を見れば分かること。しかし決定打となったのは、メロが死んだ後から──あなた名義の請求書が魅上照に送られていたことです」
「ッ……!」
「その事で、魅上照がキラと繋がっていることは直ぐに分かった。そして──借金の名義に“夜神月”と記されていた」
ニアの声は冷酷そのものだった。
「デスノートを落札した際のメロの未払い金が、あなたであることも直ぐに判明した。……これが、あなたが2代目Lであり、キラであるという確証です」
月は震える指で請求書を掴み、歯を食いしばった。
「……くっ……まさか、借金で……!!」
「私一人ではLには届かない──しかし……」
ニアは請求書の山を前に立ち上がった。
「……2人ならLに並べる。2人ならLを超せる」
ニアは請求書を高々と掲げ、宣言した。
「私達は……Lが証拠をあげられなかったキラに──確たる証拠と請求書を突きつけている!!」
「うわぁ、ニアが言ってるの金融のことばっかだ!」
その時──月が立ち上がり、額に汗を浮かべつつも狂気的な笑みを浮かべた。
「く、ふふ、ふふふ……ふははははははは!」
場が凍りつく。
月の狂気的な笑いがイエローボックスに響き渡る。
SPKメンバーが凍りつき、皆が構えた。
月はよろめくと、堂々と宣言する。
「そうだ──」
「僕が──保証人だ」
ニアはバカにしたようにふっと笑う。
「ならば、どうする? ここで請求するか? それとも分割払いで延命するか?」
ニアは髪の毛を指で回しながら、ニタニタと月を見つめた。
「……延命プランの提示とは、ずいぶん余裕ですね」
月は額の汗を拭いもせず、狂気的な目で睨み返す。
「僕はキラ……そして──」
「──新世界の貧乏神だ」
リュークは腹を抱えて転げ回る。
「ガハハハハ!! 神から貧乏神にクラスチェンジかよ!! 月、お前最高すぎるぜ!!」
SPKメンバーは青ざめながら震えた。
「……世界の未来を決める頭脳戦が、ただの金融トラブルに……」
月は狂気的な笑みを浮かべ、汗を光らせながら堂々と宣言した。
「今の世界では──借金が当たり前であり、リボ払いが秩序を保っている」
月の声はさらに熱を帯びる。
「もはや債務は正義 連帯保証人が世界の希望」
リュークは吹き出して大爆笑した。
「ガハハハ!! 新世界の神じゃなくて、新世界のサラ金王だな!!」
ニアは顔を歪ませ、請求書をめくりながら冷たく言った。
「……世界の秩序を支配するのは正義でも神でもない。ただの金利ですね」
月は狂気の笑みを浮かべ、叫ぶ。
「そうだ! 新世界を導くのは神ではない! ──金融だ!」
月は請求書の束を睨みつけ、狂気的に言い放った。
「キラが現れ6年──借金取りはなくなり、世界中の延滞者は激減した」
「な、なんだってぇぇ!!」
「いつの間に……」
月は額に汗をにじませながら、なお冷静に続ける。
「しかし……まだ世の中は腐っている。──返済能力のない人間が多すぎる!」
リュークはリンゴを吹き出しながら大爆笑。
「世界から犯罪をなくすんじゃなくて、借金取り立ててんのかよ!」
「……つまり新世界とは、“返済優良者のみが生き残る社会”ということですね」
月は狂気に満ちた瞳で頷いた。
「そうだ──延滞者に未来はない」
月は額に汗を浮かべながらも、Lの請求書の束を握りしめて叫んだ。
「誰かが払わなければならない──僕がやるしかない……いや、僕にしか返済できない!」
月は狂気的に笑い、なおも続ける。
「借金を背負うのが地獄だってことくらい、わかってる……。しかしもう──リボ払いでしか延命できない!!」
月はLの請求書をバサッと床に叩きつけ、狂気の笑みを浮かべて叫んだ。
「他の者にできたか!? ここまでリボ払いを駆使できたか!?この先、誰がここまで督促状に耐えられる!?」
SPKメンバーはドン引きし、ニアは冷ややかに見つめる。
月はさらに言葉を続ける。
「僕は自分の利益など一度も考えた事はない!弱者から手数料を巻き上げ、金儲けしているサラ金業者とは──全く違うッ!!」
「(ボリボリ…リンゴをかじりながら)いや、お前も借金押し付けてるだろ」
「そうさ……リボ払いを駆使できるのは僕しかいない! 僕を捕まえるのが、懸賞金の為と言うならば──それこそ最も愚かな行為だ」
額に汗をにじませながら、月はなおも続ける。
「おまえが今目の前にしているのは“無一文”だが、新世界の貧乏神だ」
「ガハハ! よく言うぜ、財布の中は13円じゃねぇか!」
ニアは冷ややかに請求書をめくり、ふっと鼻で笑った。
「いいえ──あなたはただの延滞者です」
ニアは指人形をつまみながら、宣言する。
「……そしてそのノートは史上最悪の借用書。あなたは金利や返済地獄に負け、金融神にでもなれると勘違いしている──ただのクレイジーな多重債務者です」
ニアは淡々と視線を上げる。
「ただそれだけの……延滞常習犯にすぎません」
(………………………)
月は血走った目で時計を握りしめた。
(……言っても分からぬ……金融リテラシーの低い馬鹿ばかり……!)
時計の裏にはノートの切れ端。
これでニアの名前を書けば──借金ごと葬れる……!
「ふ、ふふふ……これで終わりだ、ニア──!」
その瞬間──!
松田が突然、分厚い請求書の束を月の顔面に投げつけた。
バサァァァッ!!
「ううっ、うぐっ! ま……松田」
月がよろめき、床に散らばる請求書の山に足を取られる。
月は狂気じみた形相で叫んだ。
「馬鹿野郎ォォ!! 松田ァァァ!!!誰に請求している!? ふざけるなーっ!! 請求するなら僕以外の人間に請求しろ!!!」
松田は請求書を握りしめ、涙声で叫んだ。
「父親を借金まみれにして……“ローンの見積もり間違えました”で済ませるのか……!!」
室内が凍りつく。月は額に汗を浮かべながらも、狂気の笑みを浮かべた。
「そうだ松田……! ああいうコツコツ返済する真面目な人間が、利息と手数料に潰され損をするんだ!そんな金融社会でいいのかァ!?!」
ニアは冷たく鼻で笑った。
松田は顔を真っ赤にし、請求書を握りしめながら絶叫した。
「うああああああああああ!!!」
銃口を月に向け、涙と鼻水を垂らしながら震える声を張り上げる。
「返せっ!こいつは──借金返させないと駄目だぁぁぁぁ!!!」
バンッ!!!
発砲音──ではなく、月の肩口に「延滞のお知らせ」が投げつけられる。赤文字で《今月までに返済しなければ差し押さえ》と書かれていた。
床に請求書まみれで這いつくばる夜神月。
肩で荒く息をしながら、リュークを見上げる。
「リューク……そうだリューク……!」
血走った目で狂気の笑みを浮かべ、手を伸ばした。
「書け……! お前の保証書にこいつらの名前を……保証人のサインを書け!!」
「やっぱり金融かよ!」
「くくくくくっ ノートに名前を書けって言うのかと思ったら、保証人サインかよ! 月、お前最悪だな」
「……残念ですが、保証人が現れてもあなたの信用情報は回復しませんよ」
月は涙と汗にまみれながら叫んだ。
「黙れ……! リューク、僕に金を……貸せぇぇぇ!!」
リュークはゆっくりペンを持ち上げた。
「ああ……書こう」
その言葉に月の顔が歪む。
「くっ……はははははははは!!!」
床に這いつくばり、請求書の山を掴みながら狂ったように笑い出した。
「ざぁまぁみろ、ニア!! お前は僕をとっとと取り立てるべきだったんだ!!だがもう遅い! 僕はお前らを保証人にした!! これで延命だぁぁぁぁ!!!」
しかし──リュークは赤い目を光らせ、冷ややかに言った。
「いや……死ぬのは、月。お前だ」
月の瞳孔が開く。
「な、なに……!?」
リュークはニヤリと笑い、文字を走らせた。
「まさか、僕の名前を──!ば……止めろォォォ!!!」
月は這いつくばったままリュークに掴みかかる。
「何普通に僕の名前を書いている!!デスノートに僕の名前を書くなら……せめて死因も書けぇぇぇ!!!」
「……ほう?」
月は血走った目で叫んだ。
「ニアに! Lの借金を全部背負わせろォォォ!!!Lが残した2兆7000億円のツケ! 全部ニアに押し付けるんだッ!!」
SPKメンバー「ひぃっ!」
リュークは肩を震わせて笑う。
「くくくくくっ……お前、死の間際まで借金を他人に押し付ける気か……? ホントにクズだな月」
リュークは喉の奥でクククと笑いながら、ノートをくるりとひっくり返した。
月は勝利を確信して、狂ったように笑う。
「は…ははははは! リューク! ニアに押し付けたんだな!? そうなんだな!!」
だが──次の瞬間、月の目に飛び込んできた文字は予想外のものだった。
【保証人:夜神月】
「……はっ……!?」
月の顔が真っ青に染まる。
「は……払うのか……? 僕が……払うのか……?」
リュークは楽しそうに告げた。
「そうだ……月。お前が払え。2兆7000億円──40年間、働き続けて返済しろ」
死より重い労働地獄。
月は床に崩れ落ち、虚ろな目で呟いた。
「……神が……40年……サラリーマン……」
リュークは肩を震わせながら爆笑した。
「新世界の神じゃなくて、新世界の社畜だな!くくくくくくくっ」
月は床に崩れ落ち、髪をかきむしりながら絶叫した。
「あーーーーっ!!嫌だ! 働きたくない! 働いたら負けだァァァ!!!」
請求書の山を掴み、涙と汗でぐちゃぐちゃの顔で吠える。
「どう考えてもおかしいじゃないか!! Lの後継者はあいつなのに! なぜ僕が! なぜ僕が働いて返さなきゃならないんだァァァ!!!」
ニアは請求書をパラパラめくりながら、ふっと鼻で笑った。
「……それが現実です、延滞常習犯さん」
さすがのリュークも、首を傾げた。
「……まあ、確かに全部お前に押し付けるのはちょっと不公平だな」
「……な、なんだって……?」
「2兆7000億のうち──ニアに7割、月に3割ってことでいいだろ」
「な、7割請求された!? ニアに!?」
「…………」
月は狂ったように笑った。
「ははははははは! 見たかニア!! お前も保証人だ! 一緒に地獄へ落ちろォォォ!!」
リュークはページを閉じながら、冷ややかに言い放った。
「デスノートを使った人間が──借金から逃げられると思うな」
✧✧✧
──後日。
結局、ニアと月は渋々協力してLの借金2兆7000億円の返済に取り組むことになった。
◆ニアの場合
「ニア、我々の給料は……」
SPKメンバーが青ざめた顔で給与明細を確認する。そこに印字されていたのは──【0円】。
「いや、むしろマイナス手当がついてるんですが!!」
ニアは冷ややかに請求書をめくりながら呟く。
「……当然です。借金返済のためにSPKの資金はすべて差し押さえられました」
SPKメンバー「はあ……?!」
◆月の場合
「……僕は神だ。神は働かない」
しかし、財布の中身は13円。
「ミサ……君の愛を信じている。Lの借金返済のために少し援助してくれ」
「え!? ライト……またぁ? もうこの間もホテル代払ったのにぃ!」
月は冷ややかに微笑む。
「ミサ……僕に貢献してくれたら、もっと君を愛す」
「っ……!! ライトのためなら……」
こうして、ミサの口座から数千万がスッと消えた。
✧✧✧
──数年後。
世界はキラの影響と借金地獄で混乱していた。
だがその裏で、死んだとされた3人の男たちが密かに動いていた。
メロ、ワタリ──そして、諸悪の根源、L。
彼らは表向き死亡扱いにすることで、請求や監視の目から逃れ、裏で資金を集めていたのだ。
◆Lの場合
「……死んだ方が、税金も請求書も届きませんからね」
Lはコイルの名を使い、自らの名前を売って荒稼ぎ。
◆メロの場合
「……あんなに売れると思わなかった」
メロは苦い顔をしながらチョコを噛み砕いた。
彼が手にしていたのは──一冊の小説。
タイトルは 『BB連続殺人事件』。
「Lに言われて、仕方なく書いたが……まさかベストセラーになるとは」
手の中には厚い印税明細。
Lに言われるがままに──メロは 『BB連続殺人事件』 を小説に書き起こしていたのだ。
「当然です。Bの名は今やブランドですからね」
Lは淡々と答えた。
「インフルエンサー、というやつです。悲劇も、名前も、利用できる。事件は金になります」
メロは鼻で笑った。
「しかもサイン色紙までオークションに出しただろ。……あれ、B本人が書いたわけじゃないだろ?」
「もちろん、私が代理で書きました。落札額は1枚500万ドル。Bの名前は資産です」
SPKメンバー「悪質すぎる……!」
◆ワタリの場合
契約書を静かに閉じた。
「……世界中に散らばっているワイミーズハウスを、すべて売却しました」
SPKメンバー「ええっ!?」
ワタリは冷静に指を折り数え始める。
「イギリス本館は高級ホテルへ。ニューヨーク支部はショッピングモールへ。インドの分館はカレー屋チェーンに……。結果、4,500億円の資金を確保できました」
メロはチョコを噛みながらニヤリと笑った。
「要するに俺達の家を全部売り払って、世界的な不動産屋になったってわけか」
ワタリは涼しい顔で眼鏡を直す。
「はい。死んだと思われていた方が、同情も集まりやすく、寄付金や購入希望者も殺到しました」
SPKメンバー「……なんて冷徹な……」
✧✧✧
Lはニアの背後に立ち、淡々と口を開いた。
「……ニア。長い間、借金の保証人になってくれて……ありがとうございます」
SPK本部に静かな間が流れた。
しかしニアはメロの指人形をつまみ上げながら冷ややかに答える。
「……私はあなたが嫌いです」
Lはフリーズした。
「……」
ニアは淡々と請求書の束を指で叩きながら言葉を続ける。
「あなたのせいで……おもちゃが買えなかった。SPKの給料も全て借金返済に消えた」
SPKメンバー「(涙目で頷く)」
Lは少しだけ視線を伏せ、持ってきたものを取り出した。
「……そうですか。では──せめてもの罪滅ぼしとして、これをあげます」
彼がニアに差し出したのは──新品の機械。
「これは、請求書を入れて遊べるおもちゃ──シュレッダーです」
ウィーン……ガガガガッ!!
請求書を差し込むと、中で紙が粉々に。
SPKメンバー「わぁ……」
ニアはしばらく無言でそれを見つめ、指人形でシュレッダーをつついた。
「……こんなもので埋め合わせできると思っているなら、さらに嫌いになりました」
ニアが冷たい目でシュレッダーを見つめていると──Lはふっと口元をゆるめた。
「……冗談ですよ」
Lは机の下からゴソゴソと箱を取り出す。
「本命はこっちです」
差し出したのは、ピカピカのロボットの玩具だった。
「……!」
指人形を持った手が止まり、ほんの一瞬だけ瞳が揺れる。
Lは静かに言葉を続けた。
「そして……これからここが、ワイミーズハウスとなります」
SPKメンバー「……え?!」
その瞬間、扉が開き、ゾロゾロと子供たちが入ってきた。
「わぁー! 広い!」
「ニアだー!」
「おもちゃ沢山あるー!」
SPK本部は一気に騒然となる。
「ちょ、ちょっと待てください、L!ここ諜報機関だ!」
ニアは一瞬だけ表情を崩し、ロボットを手に取る。
「……まったく……こんなものを渡されては……」
「……良かったじゃないか、ニア」
メロがにやつきながら肩をすくめる。
ニアは黙ってロボットを見つめ、やがて小さく笑った。
「……少しだけ、悪くありませんね」
そして、ほんの微かに──口元を笑みに歪めた。
✧✧✧
ベンチに座る夜神月の前に、一人の青年が現れた。
「……あなたが、キラ?」
少年は──田中実と名乗った。
月は静かに、しかし狂気を宿した笑みを浮かべる。
「そうだ。このノートを使ってみないか」
月が差し出したのは──黒い表紙に DEATH NOTE と書かれたノート。
「人の命を奪える道具だ。だが……もう僕には不要だ」
田中実は驚愕しながら受け取った。
「えっ……不要って……?」
月は懐からもう一冊のノートを取り出した。
表紙に大きく刻まれた文字──DEBT NOTE(借金ノート)。
「僕はこっちのノートを手に入れた。このノートに名前を書けば、その人間に借金を背負わせることができる。金利も延滞も、思うがままだ……!」
月の瞳孔は狂気に開ききっていた。
「まずはLの本名を書き、この200億の借金を奴に押し付けてやる……!」
田中実は震えながら呟いた。
「……それは……人を殺す以上に残酷じゃ……」
月は両手を広げ、夕日に向かって高らかに叫んだ。
「そうだ! これが真の革命だ!!命ではなく──債務で支配する新世界の始まりだ!」
✧✧✧
田中実は黒いノートを手に取り、ページをパラパラとめくった。
「……やばいもん貰っちゃったな」
月の狂気的な笑みをよそに、あっさり肩をすくめる。
「ま、いいや。このノート……売り払うか」
だが月は知らなかった──あの捨てたデスノートこそ、10兆円の価値を秘めていることを。
そして再び、世界は動き出す。
借金ノートを手にしたキラ、そしてデスノートを取り戻そうとするL。
互いの背後には莫大な金と借金が渦巻き、戦いの理由はもはや正義でも悪でもなく──返済。
「これは僕が石油王になるための戦いだ!」
「……世界の金融秩序を守るのも、借金返済するのも、私です」
こうして、デスノート争奪10兆円バトル──
L VS キラが幕を開けるのは、また別の話。
END